■海外BMW並の性能で大きく評価されていたV35
だがV35は、INFINITI「G35」として販売された北米では、「BMWイーター」といわれるほど大ヒット。INFINITI史上、最も売れたモデルとなった。
日産が調査したところによると、ヒットの理由は、「パフォーマンスはBMWと同等以上、でも価格が大幅に安い」ことだったそうだ。「いいものはいい」と評価してくれる北米市場の気質が、G35がヒットした理由の一つでもあったのだろう。
当時、日産栃木実験部のエンジニアであった筆者も、栃木工場で生産された大量のG35が、キャリアカーに乗せられていく姿を毎日目にしていた。
BMW3シリーズ(E46)は当時、「世界一のハンドリングを持ったスポーツセダン」として有名だった。
前後重量配分は50:50、ショートオーバーハング、低車高でアイポイントが低く、ズシリと重たいダイレクトなハンドリング特性が魅力で、乗り心地は多少犠牲になってはいたが、「スポーツセダンの見本」として、世界中のメーカーが、このモデルのハンドリングを目指していた。
そんなBMW3シリーズ(E46)を目指して開発された、G35(=V35)も、コーナリング性能がしっかりと磨きあげられており、当時、筆者も実験部内で乗り比べをさせてもらったが、BMWはフロントからクイックに曲がる特性であるのに対し、V35はリアがどっしりして安心感が高い、という印象。
G35では、サスペンションが硬い方向で調整されていたことと、グリップの高いタイヤを装着していたこともあり、日本向けのV35よりも乗り心地は悪かったが、そのぶんBMW3シリーズに肉薄するダイレクトフィールが得られていた。
当時、運動性能設計の駆け出しエンジニアだった筆者は、日本車でここまで運動性能が優れたセダンがあるのかと、驚いたことを覚えている。運転好きには、BMWのもつ俊敏性の方が好まれたが、後席乗り心地を含めた全体のバランスは、V35の方が優れている、という意見もあった。
国内の何十倍も売れ、INFINITIを確固たるブランドへ成長させ、そして、日産を支えてくれたG35(=V35)。ちなみに、チーフビークルエンジニアは、かの有名な水野和敏氏だ。
■重量物をホイールベース内に収め、ヨー慣性を最小化したパッケージング
日産がV35へ取り入れた最大の工夫が、「FMパッケージ」だ。
重たいV6エンジンを、エンジン重心点がフロント車軸の真上に来るようにレイアウトすることで、フロントオーバーハングにあった重量物を遠ざけてヨー慣性を低減、また、縦置きエンジンとトランスミッションをつないだドライブトレインの高さを、可能な限り低く配置し、車両重心高の低下を狙った。
これらは全長が短いV6エンジンと、ロングホイールベース化によってパッケージングに自由度が生まれたことで実現ができたことだ。
ただ、ロングホイールベース化は、車両安定性の向上に大きく寄与する反面、操舵の初期応答にはネガティブに働く。そのためV35では、前輪を前方に出してオーバーハングを短くし、重量物は極力、ホイールベースの内側に置いている。
また、タイヤを車両四隅へ配置した分、車体の曲げ剛性やねじり剛性も向上、タイヤが発生する力を車体が遅れなく受け止められるよう、強靭な車体構造とした。
リアサスペンションには、新開発のマルチリンクサスペンション(QI-2)を採用。
QI-2は、前後剛性は低く、横剛性やトーチェンジ特性は高いという優れたリアサスで、V35の後継車であるV36はもとより、Z33、Z34など、以降の日産のほとんどのFR車に採用されている(ジオメトリ修正やブッシュ特性はその都度、再チューニングされている)。
基本的なポテンシャルが高いマルチリンクなので、どんなクルマにも合わせ込むことができ、バッテリーEV「アリア」にも、QI-2w(「w」はワゴンタイプのこと。ショックアブソーバーとバネが同軸配置なのでフロア高を下げたいワゴン向け)が使われている。
こうしたアイテムを押し込んだFR-Lプラットフォームは、V35スカイライン(INIFINITI G35)をスタートとして、ホイールベースやサス形式は改良されながら、その後の日産の後輪駆動車の「礎」となって受け継がれている。
現行型であるV37スカイラインも、リアサスは新型(RM1型)へと入れ替えられているが、プラットフォーム自体は、改良を加えつつ、使われている。
コメント
コメントの使い方M35ステージアもFMパッケージとV35と共通のインテリアを採用してました。現有で乗っていますがワゴン車でも安定したハンドリングは秀逸だと思います。
V35ほんと好き〜特に前期!!
丸っこくてクリーンなデザインが昼間は可愛く見えるけど、夜にあかりの下に行くとシンプルだけれどマッシブな立体としての美を見られるだよねェェ!!