2022年7月に日本市場進出を発表した、中国の自動車メーカーで最大手の「BYD」。販売会社とするBYD AUTOジャパンを設立し、2023年1月より、次世代EVの3車種、SUVの「ATTO 3」、ハッチバックの「DOLPHIN」、セダンの「SEAL」を順次発売する計画だ。
ご存じの通り、日本市場ではEV(バッテリーEV及びPHEV)普及のために購入補助金政策がとられている。バッテリー容量やVtoHの可否で金額は多少異なるが、国産車、輸入車を問わず同措置が取られており、BYDのEVに関しても、当然補助金が充てられることになる。しかし、このBYDのEVへの補助金は、国内のメーカーに対して不公平な措置であり、日本の自動車産業を脅かす措置でもある。
文:吉川賢一
写真:BYD AUTOジャパン、NISSAN
新エネルギー車への移行を強力に推し進める中国
中国は、北京や上海などの主要都市の深刻な大気汚染を軽減するため、2019年から、自動車メーカーに対して一定割合で新エネルギー車(NEV)の販売することを義務付ける、「NEV規制」を導入している。ガソリン車を製造販売するとマイナスポイントとなり、新エネ車の製造販売でプラスポイントとなるもので、中国政府が定める目標値を満たすよう、自動車メーカーは販売比率を考えないとならない。
中国政府はまた、NEVへの買い替えを促進するために、NEV購入補助金政策や充電インフラの拡充など、各種優遇も同時に行っており、これによって、クルマ購入による中国国内の景気浮揚も狙っている。
このNEV規制によって、中国は、2021年度BEV販売台数270万台を超えて世界一に、今年2022年も世界一のBEV市場になる見込みだ。中国汽車工業協会によると、8月の中国の自動車生産・販売は、前年同月比を上回る勢いを持続しており、中国市場でのNEVの生産販売輸出の伸長率は、過去最高を記録したという。
同時に、中国国産メーカーを強力に後押し
ご存じのとおり、中国はクルマの巨大市場。2022年1~8月の中国国内販売台数は約1465.5万台、8月単月では約212万台と、ざっくり、日本市場(1~8月販売台数は271万台(軽含む)の約5.4倍にもなる。
この中国自動車市場のデカさは、日本や欧米の自動車メーカーにとって魅力的ではあるが、中国国外の自動車メーカーが中国市場で自動車販売するには、中国現地企業と合弁会社化をする必要がある。日産ならば東風汽車、トヨタならば中国第一汽車集団、といったように、共同で自動車製造をすることを条件に、販売が許可される。
前述のNEVに認定されるには、中国政府が認定したメーカーのバッテリーを積むことが条件となる。日本や欧米の自動車メーカー(との合弁会社製)もNEVの認定を受けることはできるが、中国政府によって認定されたメーカーのバッテリーを積む必要があり、この認定をもっているのは、中国国内のバッテリーメーカーのみ。中国という巨大市場で、日本や欧米のバッテリーを積んだクルマは、実質締めだしを食らっている状態だ。中国は、バッテリーを制することで、次世代のクルマ販売を制しようとしているのだ。
シェアを拡大する中国系バッテリーメーカー
こうして中国政府から守られている中国のバッテリーメーカーだが、コストが安いのはもとより、性能も日本や欧米のメーカーに引けを取らないどころか、上をいくメーカーもある。実際、中国系メーカーのバッテリーはシェアを拡大しつつあり、日産アリアは、中国企業の寧徳時代新能源科技(CATL)製のバッテリーを搭載し、三菱アウトランダーPHEVにも中国の再生可能エネルギー企業「エンビジョンAESC」製が搭載されている。
日産リーフには、日産とNECの共同出資会社であるオートモーティブエナジーサプライ製の電池を搭載しているが、この企業は、2019年よりエンビジョンAESCの傘下の電池メーカーとなっている。また、メルセデスベンツも、米国アラバマ工場で生産するEQSとEQEの2車種に、エンビジョンAESC製の電池を搭載することを発表している(2022年3月)。
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