■もはや新車の価格アップは避けられない状況に
もっとも、これは他メーカーに比べてトヨタが不利というわけではない。他メーカーにもこれから部品価格の上昇という形で確実に降りかかる問題だ。ユーザーにとってその意味するところはただひとつ、クルマの価格アップはもはや避けられないということである。
今夏、トヨタは日本の鉄鋼メーカー最大手、日本製鉄と鋼材納入価格を1トンあたり約4万円引き上げることで合意した。鋼材といってもいろいろな種類があるが、平均4万円とすると、未塗装のホワイトボディの重量が250kgのベーシックカーの素材費は1万円アップだが、それではすまないのが自動車製造。
販売価格に与える影響は原価の3~4倍とされ、4倍なら鉄の分だけで4万円アップにもなる。このような影響が特殊鋼、アルミ、銅、樹脂、ガラス、半導体、繊維など、幅広い分野で出ている。もはや「円安はプラス」と喜べるような状況ではなくなっているのである。
しかも、値上げ圧力が大きいのは販売価格に占める素材費の割合が高いベーシックカーはもちろんのこと、高級車やスポーツカーも影響は免れないほか、電気自動車やハイブリッド車はリチウム、マンガン、ニッケルなど電池を作るための材料費高騰も問題になるだろう。
日本円が下落しても競争力がある海外市場は別だが、国内での値上げ圧力はその比ではない。各社とも国内市場のシェア争いを気にして値上げを最小限にとどめているものの、採算性が合わないと見切った時点から本格的な値上げに踏み切る可能性が極めて高い。
輸入車はすでに1割、2割といったオーダーの大幅値上げが繰り返し行われている。日本円が暴落しているのだから、為替予約を使い切ったら大幅値上げをするしかないのだ。
■サプライヤーへのコストアップ圧力はまさに想像以上の様相
先日、自動車各社の労働組合で組織する自動車総連の結成50周年記念式典に出席した日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は、「賃金改善の流れを自動車産業で働く550万人の仲間に広げる」と挨拶し、業界全体に賃上げの機運が高まることに意欲を示したという。
だが、トヨタなどの完成車メーカーに部品を納める下請けのサプライヤーなどは、円安による材料費や燃料費などのコストアップ圧力は想像以上だ。日本経済のリード役とされる自動車の業界内でも二極化が進んで、貧富の差が拡大しつつある。ガソリン価格の急騰など物価高のなかで、各社が新車の値上げに踏み切れば、消費者の購買意欲がそがれ、新車の需要に悪影響をもたらすことは想像に難くない。
ただし、国際水準に対して異常に安い価格でクルマを売ることをメーカーに求め続けることは“デフレジャパン”からの脱却をいつまでも果たせないことにもなる悩ましい問題だ。その唯一の解決方法は、賃金の上昇で円安を上回るほどの経済膨張を起こし、国民所得が安定的に伸びる“いいインフレ”を起こすことである。
だが、あのトヨタでも先の決算発表で「半年先の見通しも本当に難しい」(近健太副社長)と予防線を張って訴えるようでは、歴史的な円安メリットを享受できなければ、新車の値上げも思惑どおりにいかないだろう。
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