100万円台の手頃な価格で実用性と性能の高さを兼ね備え、ファンの間で安定的に高い人気を得ている車種がスイフトスポーツだ。コンパクトカーの「スイフト」をベースに開発され、直列4気筒1.4Lターボエンジンを搭載する。
スイフトスポーツの最高出力は140馬力、最大トルクは23.4kgmだから、2.3Lの自然吸気エンジンと同等だ。スイフトが搭載する1.2Lエンジンは91馬力・12kgmだから、スイフトスポーツの最大トルクは2倍近い数値になる。
注目すべきはスイフトスポーツの売れ行きで、1か月に1300~1400台を登録している。スイフト全体の35~40%をスイフトスポーツが占める。スポーツモデルではダントツのベストセラーと言っても過言ではない。
一方、競合のライバル車を見ると、“スイフトスポーツに似た立ち位置のモデル”はあるものの、ベース車両との違いや性能・価格のバランスで、現状スイフトスポーツに匹敵するモデルはなかなか見当たらない。
なぜ、スズキ以外の国産メーカーから“第2のスイフトスポーツ”は生まれないのか? スイフトスポーツの強みと競合車の立ち位置からその理由を探る。
文:渡辺陽一郎
写真:編集部
売れ行きも好調! スイフトスポーツは何が魅力?
スイフトスポーツが好調に売れる理由は、さまざまな魅力があるからだ。まず肝心の走行性能が優れている。
スイフトスポーツは、スイフトが軽自動車の拡大版(海外名:イグニス)だった時から設定され、2代目以降はベース車の走行性能も高まった。現行型は4代目だから熟成が進み、機敏に良く曲がって下り坂のカーブや危険回避時でも後輪の接地性が高い。ショックアブソーバーをモンロー製にするなど、足まわりには高いコストを費やした。
エンジンは2代目と3代目は高回転域の吹き上がりが鋭い1.6L、現行型は前述の1.4Lターボを搭載して、動力性能もベース車に比べて大幅に向上している。
しかも価格が割安だ。現行型は緊急自動ブレーキ、車間距離を自動制御できるクルーズコントロール、サイド&カーテンエアバッグなどを標準装着した仕様が6速MTで192万2400円、6速ATでも199万2600円に収まる。
ちなみに今のコンパクトなスポーツモデルは、マツダ ロードスター(ソフトトップ)1.5「RS」(6速MT)が325万6200円、トヨタ 86「GT」(6速MT)は298万1880円に達する。本格的なスポーツカーは、比較的コンパクトな車種でも300万円前後だから200万円弱のスイフトスポーツが注目された事情もある。
ライバルにはない“スイスポ”の強みは?
過去を振り返ると2000年頃には、2代目ロードスター 「1.8RS」が232万8000円、トヨタ MR-S「Sエディション」が198万円で売られていた。今は安全装備や環境性能の向上で、車の価格が20年前の1.2~1.4倍に高まっている。
それなのに平均給与所得は、車両価格とは逆に20年前に比べて下がっているから(比率に換算して今は20年前の約90%だ)、ユーザーは小さなクルマに乗り替えるしかない。その結果、昨今のダウンサイジングとなった。「クルマがツールになってダウンサイジングが進んだ」といわれるが、実際にはもっと切実な事情がある。
この時代の流れにも、スイフトスポーツは見事にハマった。スイフトの小さくて軽いボディは、低燃費や低価格と併せて、峠道などでは走りの面でも有利だ。安くて小さなクルマが高価格の立派なスポーツカーを追いまわせば、下克上の快感も味わえる。以上のような理由が、スイフトスポーツを運転の楽しいクルマのベストセラーに押し上げた。
ただし、スイフトスポーツのライバル車は、売れ行きを低迷させている。例えばホンダ フィット「RS」、メーカー系コンプリート(完成された)チューニングカーの日産 マーチやノートの「NISMO」、ヴィッツ 「GR」などはスイフトスポーツほどの人気は得られていない。
なぜスイフトスポーツだけが成功したのか。
ここにも複数の理由があり、まずはベース車の完成度だ。スイフトスポーツは優れた走行性能で人気を高めたが、その背景には、ベースとなるスイフトの良さがある。
スイフトは後席や荷室が狭い半面、軽量化に力を注ぎ、最も軽い「XG」の車両重量は840kgだ。軽く、しかもボディ剛性が十分に確保され、軽快に走れて安定性も高い。このベース車の優れた素性があるからこそ、スイフトスポーツも走行性能を高められた。
これに比べてフィット、ヴィッツ、マーチ、ノートなどのコンパクトカーは、ベースグレードの段階で走りがスイフトに負けている。
人気車のフィットは、スイフトに比べて後席と荷室が広く居住性と積載性は優秀だが、走りはスイフトにかなわない。
スイフトスポーツは、ベース車の素性を生かしながら、足まわりとエンジンを特別に高性能化したから成功した。ほかのコンパクトカーに同様のチューニングを施しても、ベース車の段階で負けているから、スイフトスポーツのような相乗効果は得られない。走りがイマイチのベース車に、パーツを装着した無理矢理感も伴う。
コメント
コメントの使い方スイスポは日本の宝ですっ!初代からあったけど、初代スイフト自体が影薄かったこともあり有名になったのは二代目から。本場で磨いた走りの性能と、意外にも取り回しやすい。さらに性能と装備を見れば激安価格など、売れないわけがありません。現行型はターボになりましたが、その『らしさ』は健在。さらに標準仕様ならうるさくもなく先進安全機能も搭載とあって、わたしも旦那と共有の趣味カーとして普段使いもしています。