デザイン的流行なのか空力の影響なのか、近頃「尻下がり」なクルマが増えている。いっぽう日本では、歴史的に尻下がりなクルマはカッコ悪く、売れないといわれてきた。ここではそんなジンクスに挑んだ「尻下がりな日本車」を8台ご覧いただこう!
文/清水草一、写真/ベストカーWeb編集部、ヒョンデ、NISSAN、TOYOTA、ISUZU
■世界の流行は「尻下がり」!?
ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーと言えば、世界中のモータージャーナリストが集まって選ぶ、文字通り「世界のカー・オブ・ザ・イヤー」だが、その大賞に、ヒョンデのEVが2年連続で選ばれた。日本人としては若干ショックである。
昨年のアイオニック5は、日本でも発売され大変評価が高かったので納得だが、今年のアイオニック6は、多くの日本人が見たこともないクルマだ。
そのフォルムは、メルセデスの初代CLSを思わせる流麗な4ドアクーペ。フロントウィンドウからテールにかけてのラインはひとつの円弧を描いており、テールは大きく下がっている。つまり「尻下がり」だ。
この手の尻下がりフォルムは、近年メルセデスが得意としていて、CLAクーペ/シューティングブレーク、Eクラスクーペ、CLSクーペ、AMG GT4ドアクーペ、そしてEQSなど多用されている。アイオニック6の尻下がりは、このパターンに属する。
がしかし、国産車では、こういった尻下がりデザインはあまりお目にかからない。歴史を紐解くと、国産車にはこれまでいくつか尻下がりの大失敗作があり、「尻下がりは売れない」という定説ができあがっているのだ。
今回はその流れを追いつつ、尻下がりの代表的な国産車を挙げてみた。
●2代目日産 ブルーバード(410)
1963年発売。ピニンファリーナデザインによる優美な尻下がりデザインだったが、これが日本では大不評で、トヨタ・コロナとの販売合戦敗北の大きな原因になった。日本における「尻下がりはダメ!」神話の源流はここにある。
トランク部をゆったり滑らかに尻下がりにするデザインは、ジャガーMk-IIに代表されるように欧州では高級車の定番で、尻下がりによって「エレガンス」や「余裕」を表現している。
人物で言えば、恰幅のいいフォーマルな男性のイメージだが、当時の日本では、410ブルーバードの尻下がりはまったく理解されず、2年半後のマイナーチェンジで水平基調に変更されて消えた。
実はこの水平基調こそ、日本人の好みにジャストフィットなのである。桂離宮などのシンプルな美に通じるものがあるのでしょう。
●いすゞ ベレット
410ブルと同じ1963年に発売された尻下がりデザインだが、こちらは「カッコいい!」と人気を集め、10年間のロングセラーとなった。
なぜブルがダメでベレットはOKだったのか。ブルはボンネットが水平基調、トランクが尻下がりだったため、全体として尻下がりに見えたのに対して、ベレットはボンネットが前下がりだったので、全体を見ればバランスが取れていた。つまり、「お尻のほうが下がっているデザイン」が、日本人は苦手なのだ。
●9代目日産 ブルーバードセダン(U13)
2代目であれだけ失敗しておきながら、喉元過ぎればなんとやら。日産はまたやってしまいました。30年近い歳月が流れていたのですから、「そろそろ大丈夫か」と思っても仕方ないですが。
ブルーバードは、6代目、7代目、8代目と水平直線基調のデザインで日本でヒットしていたのですが、それをいきなり北米デザインの尻下がりに変更。日本では声も出ないほど不評で、販売の大半は、どーでもいいデザインのハードトップモデル「ARX(アークス)」になりました。
●日産 レパードJフェリー
尻下がりデザインの黒歴史を代表するモデル。ブルーバードにはARXがあったので、セダンの尻下がりは目立たずに済んだが、Jフェリーはこれだけだったので、インパクトは絶大だった。
登場は1992年。Jフェリーはもともと北米向けのインフィニティJ30であり、デザインテイストは、キャデラックセビル(1980年)などのアメリカンラグジュラリーセダンだった。それをそのまま日本に持ってきたところ、日本人の尻下がりアレルギーが大爆発し、歴史的な不評の嵐となった。
いまJフェリーのデザインを見ると、エレガントでゆったりしてていいなぁと感じるが、当時は私も「身の毛がよだつ」くらいの嫌悪を感じたので、日本人の見る目がまだ未熟だったということでしょう。
●日産 フィガロ
日産パイクカーシリーズの第3弾として、1991年に2万台限定発売された2+2の小型オープンカー。デザインの狙いはズバリ「レトロ」で、モチーフはMGAあたりと推測される。
フィガロは当時21万件もの応募があり、大人気だった。尻下がりなのになぜ? ブルセダンもJフェリーもダメだったのにどうして? と思うところですが、4ドアだとダメだけど、2ドアならハッチバックで見慣れているので、尻下がりでも違和感がなかったのでしょう。初代コペンもこの仲間です。
●3代目トヨタ クラウンマジェスタ
1999年登場。日本では尻下がりセダンはご法度のはずが、このモデルは、ほんのわずかながら尻下がりだった。クラウンのさらに上のモデルゆえ、このくらいの微妙な尻下がりならギリギリ許されたという感じです。
●トヨタ Will Vi
2000年登場。モチーフはかぼちゃの馬車。トランクは強烈な尻下がりだった。これは尻下がり云々よりも、全体のデザインがあまりにも強烈ゆえ、クルマ好きからは非難の大合唱、一般ユーザーも手が出なかった。
●トヨタ クラウンクロスオーバー
21世紀に入ると、国産セダンはものすごい販売不振になり消滅が相次いで、尻下がりどころではなくなったが、約20年の時を超え、久しぶりに尻下がりと言ってもよさそうなクルマが現れた。クラウンクロスオーバーである。
厳密には尻下がりではなく、ファストバックセダンですが、フォルムはCLSやアイオニック6と共通する部分がある。セダン絶滅の危機により、ついにこういう国産セダンが現れて、それなりに評価も高いわけですから、時代の流れを感じます。
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