中国でもモデル3がビュンビュン走っていたが……果たしてテスラの真実とは何か?

■電池値供給能力の重要性を見抜いていたのは慧眼!

写真右のモデルSの成功がテスラのサクセスストーリーのスタートとなった
写真右のモデルSの成功がテスラのサクセスストーリーのスタートとなった

 しかし、イーロン・マスクは「EVのアーリーアダプターは富裕層。新しい価値を提案すれば彼らは高価でも買ってくれる」と読んで、モデルSを企画、結果的にこれが大当たりする。モデルSのデビューが2012年。これが、テスラのサクセスストーリの始まりとなったわけだ。

 さらに、生産工場と電池のサプライ、そして充電ネットワークについても、初期の段階でイーロン・マスクは重要な決断を下している。

 テスラが成長するためには「まともな工場」が必要だが、幸運なことにカリフォルニア州フリーモントのGM/トヨタの合弁工場「NUMMI」が閉鎖となり、これを譲り受けることに成功。この時トヨタはテスラに5000万ドル出資。一時は新型EVの共同開発という話まで持ち上がっている。

 電池については、創業以来のパートナーだったパナソニックと合弁で、史上最大のリチウムイオン電池工場の建設に着手。これが、後にGigafactoryと呼ばれることになるのだが、電池の供給能力の重要性を10年前から冷静に認識していたのはさすがと言わざるを得ない。

 また、資金的に余裕のない段階から、全米を網羅するスーパーチャージャー充電ネットワークの整備に取り組んだのは、どれだけ賞賛しても足りないくらい凄い。いまや、このスーパーチャージャーがテスラの大きな魅力となっているのを考えると、その先見の明には脱帽するほかない。

 これらの仕事をこなしただけでも大したものだが、イーロン・マスクは同時に宇宙ロケット開発のスペースXも経営しているわけで、まさに“超人”と言うより他に表現する言葉が見つからない。ジョブズ亡きあと、アメリカ経済界最大のスターといっても過言ではないだろう。

■対メディアに関しては大いに問題あり?

ほぼすべての動作をテスラどのモデルでもタッチスクリーンで完結させている
ほぼすべての動作をテスラどのモデルでもタッチスクリーンで完結させている

 しかし、光あるところには必ず影が生じる。イーロン・マスクの強烈なキャラクターが作り出した影として、情報の閉鎖性と独りよがりのガバナンスは大いに問題がある。

 情報の閉鎖性については、自動車メディアで仕事をしていると実感する。ふつうの自動車メーカーは、機密に属する事項をのぞけば、メディアに対してあまり隠しごとはしない。

 むしろ、技術的な特徴については、日本なら自動車技術会、アメリカならSAEで、論文を積極的に公開する文化があり、特に秘密にしたい核心部分以外は、かなりオープンに情報が手に入る。

 対して、テスラはまず広報の窓口がほぼ存在しない。バッテリーから発火した火災や、オートパイロットやFSDでの事故が起きたケースなどは日本でも話題になるが、アメリカのメディアを見てもほとんどの場合テスラはノーコメント。

 米国運輸省(DOT)や米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)ですら「舐められている」ようで、リコールや事故調査に協力的とは言い難い印象がある。

■ガバナンスの欠如をどうするのか?

筆者はテスラで問題となっているのはガバナンスの欠如だと厳しく指摘している……
筆者はテスラで問題となっているのはガバナンスの欠如だと厳しく指摘している……

 また、ギリギリ合法のラインを守っているとはいえ、オートパイロット(AP)やフル・セルフドライビング(FSD)の脱法的使用を野放しにしているのもいただけない。

 APもFSDもレベル2のADASだから、ドライバーは常にステアリングを握って前方を監視する義務がある。しかし、ステアリング入力をごまかす用品(ステアリングに付けるただの重り)を使えば手放しのまま走れるのは、テスラユーザーなら常識。こういう脱法行為にドライバー監視カメラの導入など実効性のある対策を取らないのは、既存の自動車メーカーでは考えられないガバナンスの欠如だ。

 2010年に5000万ドルを出資したトヨタは、2016年までにすべての株式を売却してテスラと手を切っているのだが、その理由はテスラのガバナンスにリスクを感じたからと言われている。

 トヨタは2009年に北米で大規模なリコール騒動に巻き込まれ、豊田章男社長が議会公聴会に呼ばれるなど大きな痛手をこうむっただけに、ベンチャー気質丸出しで大胆にリスクをとるテスラは、パートナーとしては付き合い切れなかったというところなのかもしれない。

 テスラについてあんまりネガティブなことを書くと、ネットでは炎上しがちという説があるけど、それもまたイーロン・マスクの強烈なキャラがハレーションを起こしているのかもしれませんね。

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