エンジニアなら気持ちは…わかる?「それでもあってはならない」ダイハツ認証不正問題に「喝」!!

設計変更できる時間や予算的なキャパシティがなかった!??

 ロッキー/ライズに関する不正の内容は、左右の試験データを提出する必要があるポール側面衝突試験において、運転者席側(右)のデータについては、左側のデータを提出していた、というもの。現在のところ、これ以上の詳細については公表されていないため、今回は先に発覚した不正について、なぜ起こってしまったのか考察しようと思う。

 先に不正が確認されたモデルは、ダイハツがマレーシアで展開する「プロドゥア」のモデルのほか、トヨタにOEM供給されている車種も含まれていたという(すべて海外販売)。不正の内容は、ドアトリムの一部へ切り込み加工を施して、変形モードをコントロールしようとしたが、正式な設計には織り込まれていなかったことだ。

 これについて、YouTubeチャンネル「トヨタイムズ」で行った生配信のなかで佐藤社長は、(事実関係は調査中ではあるが、エンジニアとしての一般論として)「今回の不正は、そもそも十分な実力を有していたうえで、ドアトリムの一部に切り込み加工を施して最弱部位を作り、より安定的に変形モードをコントロールして、安全方向へもっていこうとしたエンジニアの工夫だったはず。それを、なぜ設計変更が必要だとオープンに言えなかったのか、いえる環境となっていなかった理由は追求していく必要がある」としていた。

 エンジニアたちは、日々よりよい設計を目指し、設計変更及び実験を行っている。今回のように、課題をブレイクスルーするようなアイディアであれば、設計変更を求めることは決して「悪」ではないが、その変更を、「いつのタイミングで言うのか」は、筆者のエンジニア経験の中でも、ものすごく気を遣うものだった。

 新型車開発プロジェクトにおいて、車両コストやパフォーマンスは当然重要なのだが、「開発日程」も同じかそれ以上に重要。クルマに限ったことではないだろうが、クルマのプロジェクト計画においても、目標やコンセプト立案、プロトタイプカー開発(設計及び実験確認)、生産試作車確認など、開発のなかだけでもたくさんの工程があるが、その後も製造、流通、広告、販売と、各部署がどのタイミングで何をやるべきかが厳格に決められている。

 自工程で進捗遅れを発生させることは「悪」であり、後工程には絶対に迷惑をかけられない。発売が1か月延びることで、その間に法規が変わって再開発をすることになり、再び数十億の開発費がかかる、といったことも考えられるからだ。

 今回の件も、おそらく、リカバリできる時間や予算的なキャパシティはもはやなく、設計変更をすると関連部署へ多大な影響を及ぼすことになると考えたのだろう。先行検討段階ならまだしも、認証実験という最終的な局面でNGが出て手戻りなんてことになれば、車体開発自体がやり直しとなり、大きな損失幅が生じてしまう。そうしたことを懸念したのではないだろうか。

 豊田章男会長も、同生配信において、「皆が守っていかなければならないモデルチェンジの時期(日程)が、現場においてプレッシャーになっていたことも充分考えられると思います」としていた。事実については今後明らかになっていくと思われるが、設計担当者や実験計画、実験実施担当の当事者に、そうした暗黙のプレッシャーがあった可能性は高いと思うと、そうした行為をさせてしまう風土が悪かった、ということなのかもしれない。

側面衝突試験において、人員に対して危険部位が発生しないことが合格条件。ドアトリムの一部へ切り込み加工を施して、変形モードをコントロールしようとしたが、正式な設計には織り込まれていなかったことが問題となった
側面衝突試験において、人員に対して危険部位が発生しないことが合格条件。ドアトリムの一部へ切り込み加工を施して、変形モードをコントロールしようとしたが、正式な設計には織り込まれていなかったことが問題となった

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