■イーロン・マスクのカリスマ性にユーザーはおカネを払うのか?
ただし、考えてみればわかるとおり、こんな贅沢にアレもコレも盛り込んだクルマを開発したら、資金がいくらあったって足りない。前回のコラムでも書いたが、自身も個人資産から1億ドル近くを出資するなど、資金調達についてはイーロン・マスクの超人的な活躍抜きに現在のテスラは存在し得ない。
斬新なアイデアだけなら「誰にでも」とは言わないまでも出せる人はいる。しかし、それを事業化するにあたって必要な資金を用意できる人は圧倒的に希少。その両方を用意できる天才的な経営者を擁したからこそ、テスラだけが驚異的な成功を収めることができたワケだ。
かつてのアップルでスティーブ・ジョブスが神話的アイコンだったのと同様、テスラを買う人はイーロン・マスクの掲げる理想にお金を払っているという要素が多分にある。
先進的なBEV体験をいち早く体験した彼らの多くは、熱烈なファンとなって周囲の友人にその魅力を説き、その口コミによってまたユーザーが増えてゆく。こういう現象が起きるのは、ユーザーがテスラの作るクルマを通じてイーロン・マスクの理念に共鳴しているからで、初期のアップル・マッキントシュが、“エヴァンジェリスト”と言われる伝道師によってファンを広げていったエピソードを思い起こさせる。
BEVであるなしを問わず、自動車業界でそんなムーブメントを巻き起こしたのは後にも先にもテスラだけ。まさに、テスラというブランドは、カリスマ経営者イーロン・マスクと一心同体といえるわけだ。
■モノより体験、これこそがテスラだ!
もうひとつ、テスラの特徴としてボクが挙げたいのは「モノより体験」というキーワードだ。
どういう意味かというと、「自動車としての機能部分がそれほど優秀なワケじゃないが、テスラならではのユーザー体験の数かずは新鮮で面白い」ということ。
ボクが初めてテスラモデルSに試乗したのは、2013年の東京モーターショーでのこと。この年は会場裏手の駐車場に各社のニューモデルを集め、一般入場者のお客さん向けの体験試乗会を開催。そこに日本に導入されたばかりのモデルSが持ち込まれ、ボクは同乗試乗会のドライバーとしてお客さんを乗せてコースをぐるぐる周回したのだ。
そこで印象的だったのは、我々(自動車業界関係者)と一般のお客さんでは、ウケる部分がかなり違っていたということ。
例えば、モーターで自動的にせり出すドアハンドル。キーONという概念がなく、ドライバーが乗車すると自動的にスタンバイするシステム。巨大モニターが中央に位置する以外はシンプルなインパネ。EVならではの静粛で力強い加速感などなど……。とにかく「これまでのクルマと違う!」という部分に、一般のお客さんがすごく反応して喜んでくれる。
我々から見ると、テスラのユーザーインターフェイスは「アイデアはともかく使い勝手が……」と感じる部分も多いのだが、そんなことより「今までのクルマとはぜんぜん違う!」というサプライズが重要。
新鮮な「テスラ体験」のほうを意図的に重視したクルマ作りに徹しているし、それがユーザーに喜ばれているのを強く感じたのだった。
■オートパイロットとスーパーチャージャー充電網に感心
その後、広報車を一般公道で試乗するなど、ボク個人も「テスラ体験」を積み重ねていったのだが、そのなかで「これぞキラーコンテンツ!」と感心したのが、オートパイロットによる(擬似)自動運転と、スーパーチャージャー充電網の便利さだ。
オートパイロットはご存知のとおり自動運転という意味ではレベル2の機能要件しか満たしていないADASで、ユーザーがそれを勝手に拡張利用しているのが実態。これを「なんちゃって自動運転」と揶揄する人も多い。ボクも同感で、安全に関わる部分までベンチャー気質丸出しでは困ると批判的に見ている。
しかし、数年前にロスアンゼルスでテスラに試乗した際、正直いってこの信念がちょっと揺らいだ。LAのフリーウェイでオートパイロットを試すのは初めてだったのだが、流入ランプから走行車線に合流した段階でオートパイロットをONにすると、ナビに導かれて目的の出口ランプまでクルマ任せであっさり移動してしまったのだ。これにはけっこう驚いた。
横に座るオーナーに聞くと「フリーウェイでは通勤などでみんな普通に使ってるよ」という。
コメント
コメントの使い方アメリカが環境問題に対して消極的な国家のなかで、こうして企業が行動することはとてもよいと思います。jeepにもPHEVが出ましたし、今あるかはわかりませんが数年前にフォードフォーカスにEVがありましたしね。
モデルYなどは「実際に乗ると大したことない」ので全く油断しておりましたが、IDや小規模メーカーのBEVスポーツカーや
IONIQの最新モデルに乗ったら危機感を覚えました。何故なら信頼性や先入観を度外視した場合、同週に試乗したスバルの
ソルテラよりも、動力性能と動的質感、内装、足回りや走らせての楽しさ等、外観デザイン以外の全面で上回っていたからです。
負けじと早くソルテラをアップグレードしてほしい。