■重要視されるデータ収集とAI技術の活用
クルマの安全技術の進化で交通事故の死傷者数は抑えられてきた。さらなる低減を目指すには知能化技術の活用が欠かせないとウーブンバイトヨタの虫上広志氏は強調する。
1日で得られるトヨタ車13万台、400万kmという膨大なデータから事故やヒヤリハット、課題シーンをデータベース化。そこから加速度センサーを使って事故やヒヤリハットのシナリオ抽出を自働化させている。
そこから見通しの悪い横断歩道を横切る自転車やわき道から飛び出す歩行者など、事故が起こりやすい状況をAIに学習させ、より早期に自転車や歩行者の認識ができるよう性能の向上が図られている。
テストコースの試験車で得られるデータにこれらのリアルデータを加えることで事故を減らすことができる。より多くのデータを収集し、解析してAIに学習させることが重要。
トヨタだけでなく各社のデータを共有することができれば、より大きな効果が得られるはずだ。また、ユーザーにデータ取得の理解を深めてもらうことも必要だろう。
トヨタのAIの研究開発を行うTRI(トヨタ・リサーチ・インスティチュート)のギル・プラットCEOは、仮に運転のうまいラリードライバーの運転をAIが学習すれば、安全だけでなく運転の楽しさも生み出すことができるという。すでにWRCトヨタチームのラトバラ監督のドライビングを解析しAIに学習させることに成功している。
こうした人間中心のAIの開発が日本の企業に競争力をもたらすという。日本人には勤勉さや他人を尊ぶ気持ち、そして継続的に改善するといった国民性があると分析する。そのことが高品質や耐久性、信頼性、良品廉価といった日本ならではのものづくりを可能にした。
生成AIをはじめAIは人間を幸せにも不幸にもすると言われるが、人に寄り添うAI、愛のあるAIを開発していくことで、交通事故を減らすことだけでなく日本企業の発展にもつながるという分析はユニークで、参加者の共感を集めた。
■交通安全はみんなでつくるもの仲間づくりが必要
トヨタの佐藤恒治社長はこんな話をしてくれた。「自動車会社にとって重要なテーマは2つあると思います。環境と安全です。環境はカーボンニュートラルの動きもあって大きく取り上げられていますが、安全のほうは個社個社で『頑張っている感』をアピールするにとどまっているのではないでしょうか? 交通システムとしての安全性を高める取り組みは個社ではできません。モビリティ社会を作る人々の意識を変えていくにはより大きな輪にしていかなければならないと思います」。
またスバルの大崎篤社長は「スバルは2030年死亡交通事故ゼロを目指し技術開発を進めていますが、ほんとに自社だけでいいのか? 技術開発をしていくうえで協調領域は必ずあるはずで、そこをはっきりさせて協力しあえるところはしっかりやっていくことが重要だと思います」と語ってくれた。
そしてモリゾウさんは「今回の会議では心の部分、人の部分の共感があったように思います。1年後のタテシナ会議ではより多くの具体的な提案が生まれ、協調部分もやりやすくなっているのではないでしょうか」と期待をにじませた。
交通事故の死傷者ゼロに近づけるにはメーカー間の垣根を越えた、仲間づくりが必要だと各社のトップが意識していることは心強い。自動車会社に限らずタテシナ会議により多くの企業や団体のトップが参加することで、協力関係が生まれ、交通安全への取り組みが加速することを願いたい。
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