■「2ドアクーペ感」を選択したプリウス
だからこそ4枚ドアではあるものの、居住性、乗降性や実用視界などは割り切って、2ドアクーペのような新型プリウスを作ってきたのです。
前型プリウスからも、次(今回のプリウス)はこうなるな、と、容易に予測はできました。こうするしかプリウスが生き残る道はなかったのです。思い切った割り切りによる、特異性のあるユニークデザインや、走りのイメージでプリウスだけの独自の存在領域を作ったのです。
例えば、前席の乗降性や前方側面の実用視界&視認性をトレードオフして、ミニバン並みに寝かしたAピラーの傾斜(ミニバンは高さがあるので視界は得られる)や、ガラス側面部を透過する視界の歪みを、法規限界まで追いかけたフロントガラスのデザイン(私はこの視界の歪みはきつく感じますが)などです。
ペダルの配置も全体的に車体内側にオフセットしています。
アクセルペダルはオルガン式ですが、通常の操作性をよくするために、付け根付近はブレーキペダル側に寄せて斜めに配置しているため、ブレーキペダルの中心から少し右にずれてペダルを踏むと、靴の右側面がアクセルペダルに引っかかりやすくなっています。
先ほどマツダ3に乗ってみましたが、アクセルペダルは真っすぐで、ブレーキペダルと離れて配置されており、共踏みの危険性は低くなっています。
プリウスの運転席に座ると、先ほども指摘したように斜めに角度の付いたAピラーがドライバーの視界を遮ります。
右折時の対向車の確認や、曲がっていった際の歩行者の確認で視線を送りたい部分が、シートの着座位置の低さも重なりよく見えません。左も同様。左折時に歩行者を確認したい部分がちょうどAピラーの付け根で死角になってしまいます。運転では注意が必要です。三角窓はありますが、死角は補えてはいません。
■フロントウィンドウを寝かせたことによる思わぬ弊害
小さいメーターパネルがインパネの奥、遠くに置かれています。視点が遠いのはいいと思います。特に高齢者では、目の焦点合わせが遅れるので、運転視界とメーター視認が同じような位置関係のメーターはガラスに投影するヘッドアップディスプレイよりもいい。
ですが、残念なことにこのメーターパネルは小さすぎて、表示される文字も小さく見づらいです。また、ステアリングの上から視線を送って見るのでしょうが、ステアリングのチルトをどこにセットしても、ステアリングホイールが邪魔して、メーターが隠れます。
このレイアウトはプジョーが最近やっていますが、プジョー車はステアリングの上下を平らにした楕円形のステアリングにして視認性を確保しています。
シートは悪くないです。かといって素晴らしい、というシートでもありません。まあ普通です。
寝かせたフロントウィンドウのため、インパネ上面が窓に映り込んでしまいます。この窓映りは前方視界を邪魔し疲れます。インパネ上面の映り込み防止対策を切望します。
後席の乗降性は悪くありません。ルーフが低いことは、さほど気になりません。足元の通過性も悪くありません。しっかりとドア開口部の広さがあります。
座面はクッションが薄く見えますが、座ると底付きするようなこともなく、問題はありません。しかし、足元は靴先が前席下に入らず、ちょっと窮屈な姿勢です。ルーフを低くしたため、それに合わせて前席のヒップポイントをスポーツカー並みに低くしたためです。
後席の居住性は、全体的に評価をすれば、決して悪いものではなく、充分実用的です。ルーフ後端が低くラウンドしていますが、頭上スペースは決して窮屈ではない。2ドアクーペのようにサイドを絞っていないので狭さを感じません。後席側窓は上下が狭いのですが、全開するので閉塞感はさほどありません。
これはプリウスの革新的なフォルムを優先する結果ですが、車両後部の空力性能は苦しそうですね。リアクオーターピラーから車体後端までが斜めのガラス面だけでつくられていて、後端に水平な面がありません。
空力的には水平な面を作って、風を車体の上方向に流したい。プリウスの形状だと、後端に小さなスポイラーが付いてはいますが、整流させる水平な面がないので、車両の後端から離れる風は、車体の後端に廻り込んで大きな渦を作っています。
この渦の内部は台風と一緒で、大きな負圧が発生し、クルマの走行抵抗になります。このデザイン処理での空力Cd値は、床下カバー類の処理を含めて、ムービングベルト風洞では0.27~0.28前後と予想します。前型に対して向上はしていないと思われます。
フロント周りも空力より、ブランド意匠を優先したデザイン処理です。バンパーサイドから車体側面に整流風を流す形状ではありません。
また、サイドシルの形状も、床下の走行風をシル横から排出して、前方からの流れと干渉させて抵抗を作ります。通常サイドシルの下はスカート形状として車体下面の風を側方に出させないようにするのです。
タイヤハウス開口の隙間はしっかりと詰めていて、これはいいですね。詰めながらもクロスオーバー的な雰囲気を見せるためにブラックのモールディングで視覚的効果を狙っているのは面白い工夫です。
ただ、このモールディング部の段差が車体サイドを流れる風を乱します。ここでも空力よりもデザインを優先していますね。
195/50R19サイズのタイヤは、いわゆる幅狭大径のコンセプト。私は2001年のV35スカイラインですでにこの考えを盛り込んでいました。それを極端にしたものがBMW i3のタイヤです。そして究極が自転車のタイヤです。
ツールドフランスなど、あんなに細いタイヤでハイスピードダウンヒルコーナリングができるのは、大径のため縦方向の接地面積が確保されているためなのです。
マツダ3は215/45R18で、一般的な外径、トレッド幅のタイヤです。マツダはまだその考え方には至っていません。
マツダ3も空力面ではプリウス同様、突き詰めてはいません。相変わらずのマツダ顔と後ろ姿の造形で、フロント周りが長くて重ったるく、後ろは風を巻き込んで渦を作りやすい形状です。床下にも両車ともにカバーなどはなく、特段の空力処理はしていません。
さてエンジンルームを見てみましょう。
プリウスのパワーユニットは直4、2Lのハイブリッド。このエンジンは直噴とポート噴射を併用する方式で、燃料と空気を最適な状態で混合して燃焼の効率化を追求している点を高く評価しています。
車体構造は最近のトヨタFFプラットフォームのガッチリした構造です。ストラットアッパーはしっかりとダッシュパネルに直付けされています。
エンジンルームとダッシュパネル間の、騒音や熱気を遮断するゴムシーリングはしっかりとしたものを付けてきました。エアコン外気導入口から音を入れないために必要なことです。
マツダ3もゴムシールはサイドまで回していますが、材質が薄くてペラペラ。これでは遮音や断熱効果が半減です。
マツダはエンジンマウントとインシュレーターにお金をかけています。エンジン側はガッチリしたアルミ鋳物でサポートも入っていて、車体側のブラケットもアルミ鋳物でガッチリしています。
シリーズにディーゼルエンジンがあるため、振動やエンジン本体の重量に耐えるため、しっかりとしたエンジンマウントが必要なのです。滑らかなモーター主体のプリウスのエンジンマウントと比較すると、数段ガッチリしています。
車体構造はガッチリしています。ストラットアッパーはダッシュパネルにガッチリ直付けされていて、左右をつなぐアッパーレインフォースで補強されています。ガッチリした車体構造です。
コメント
コメントの使い方プリウスとマツダ3との構造上の違い。
おもしろかったし、ためになりました。
たしかにマツダ3のペダルは操作しやすかったなあ。