おかしくない? 白バイ隊員に課せられる「取り締まりノルマ」ととほほなウラ話

おかしくない? 白バイ隊員に課せられる「取り締まりノルマ」ととほほなウラ話

 警視庁に在籍した33年間中、実に22年間もの日々を白バイに捧げた元警察官の洋吾(ようご)氏。取り締まり件数において3年連続で警視庁トップに輝き、警視総監じきじきの表彰も受けた伝説の白バイ隊員だ。洋吾氏の警察時代の悲喜こもごも、厳しくも「とほほ」な日常を綴った著書『白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記』も上梓(小社刊)。

 今回は、思わず「それって結局市民のためになってるの?」と言いたくなってしまうような、白バイ隊員に課せられる過酷な取り締まりノルマ、そしてそれにまつわるとほほな悲喜こもごもをご紹介する。

文/洋吾、写真/Adobestock(メイン写真=moonrise@Adobestock ※画像はイメージです)、ベストカー編集部

■「数字」をあげたヤツが偉い!? 非情でトホホな白バイ隊員の「ノルマ」

一見、風を切ってカッコよく街中を疾走している白バイ隊員だが、実は見えないところではノルマというムチに叩かれ続けている。そしてそれは「種目別違反ノルマ」の登場で激化するのだ(※画像はイメージです sunasuna3rd@Adobestock)
一見、風を切ってカッコよく街中を疾走している白バイ隊員だが、実は見えないところではノルマというムチに叩かれ続けている。そしてそれは「種目別違反ノルマ」の登場で激化するのだ(※画像はイメージです sunasuna3rd@Adobestock)

 私が現職時、交通機動隊(交機)内では、各小隊に月間ノルマが割り当てられていた。その割り当てられた数字は、さらに小隊内の各隊員一人ずつに割り当てられる。これが「個人ノルマ」だ。ちなみにこのノルマは、上からは「努力目標」と言い渡されていた。

 この努力目標、私の現職時代は、けっして無茶苦茶な数字ではなかったと記憶している。もちろん、楽な数字でもなかったと思うが。というのも、交機の勤務体制も少なからず関係していたからだ。

 交機は昼間帯だけの活動日もあれば、夜勤という夜の活動日もある。この夜勤のあとは、非番となり家に帰って休養する日となる(実際はパチンコ店に直行のお巡りさんが多い)。

 さらに翌日が公休日となる場合がほとんどという勤務シフトになっている。これを月間で繰り返すと、白バイで活動できる日、時間帯は限られてくるのだ。

 しかも、白バイはいつでも運用できるというわけではない。安全のため雨天の時は四輪(交通パトカーのこと。交パとも)での活動となる。これは夜間帯の活動も同じである。そして交パでの活動は、基本的に二人一組となる。

 そう、取り締まりを1件あげても、二人で1件となってしまう。つまり、個人成績は0.5件としかならないのだ。しかもこれが上司と部下、先輩と後輩とのペアでの取り締まりとなると、上司や先輩は、部下や後輩に花を持たせるため、自分の売上げがゼロとなってしまう時も多々ある。

 そんな勤務状況があったため、個人ノルマは、けっして楽な数字というわけではなかった。

 また各隊員の個人ノルマの達成状況が悪ければ、月間の小隊ノルマ達成も危うくなってきてしまう。隊員の中には練度の浅い若い隊員もいるし、取り締まりの技量が低い残念な隊員もいるからだ。

 月末近くになるとこの小隊ノルマ達成の危機感が大きくなり、小隊みんなで焦り出す。この危機感に拍車をかけてくれたのが、「種目別違反ノルマ」の登場だった。

 偉い人たちってのは、ただ単に切符を切ってくれば満足するというわけではなかった。違反の種類を分けて、それぞれの違反ごとにノルマ達成を求め始めたのだ。これには本当に苦労させられた。

 こうなると、各隊員のプレッシャーは一層大きくなる。しかも、残念な隊員は小隊の足を引っ張っているということで、他の隊員から非難の目が注がれる。常に毎日が競争であり、交機隊は修羅の群れだった。

 そんな修羅の群れの中にあって、断トツの売上げを稼ぐ優秀な隊員もいた。こうした優秀者は毎月毎月、論功行賞ということで、隊長からの表彰対象となっていた。この論功行賞対象者の中には、階級を上げてもらえるという恩賞にあずかる者もいた。

 また、不祥事を起こして本来ならば解雇もしくは左遷となるような場合でも、優秀者ということで、首の皮一枚で生き残れる者もいた。つまり、交機では、たくさん稼いだヤツが偉いということなのだ。

 では、その反面、取り締まり技量が劣る残念な隊員はどうなるかというと、小隊内の他の隊員から(後輩からも)バッシング対象となってしまい、惨めな境遇に陥る。

 ある時期には、実績低調者部隊なるものが編成され、その中に編入された者は月間100件という絶対ノルマが与えられ、徹底的にやらされていた。

 一見、風を切ってカッコよく街中を疾走している白バイ隊員だが、実は見えないところではノルマというムチに叩かれ続けているのだった。

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