■伝統的ブランドに見るカーデザインの奥深さ
例えばスーパーカーをデザインする時、フェラーリやランボルギーニを追いかけても、超えるものはできません。その背景には、歴史や文化そしてすでに顧客が心に持っているブランドのイメージがあるからです。
国産メーカーが同じ路線で単に目先のデザインだけをカッコよくしても無駄です。絶対に超えることはできません。
ポルシェはそれを知っています。あくまでもリアエンジン後輪駆動で2+2座席という独自のパッケージングをデザインで表現して、911のブランドとして、不変で世界にアピールしています。
長い伝統を持つポルシェから見れば、フェラーリやランボルギーニの、モデル毎にコロコロ変わる情緒的なスーパーカーのデザインは、後発のキワモノなのです。ポルシェの強いイメージは、世界で揺るぎないブランド力になっています。
言うなれば、そのクルマのパッケージングが生む商品価値や、狙いとしたアイデンティティ、そしてさらには、メーカーのブランド・イメージを創りだすのが市販車デザインの役割だと思います。果たして、ヴェゼルとの関係も含めてZR-Vのデザインはどうなのでしょうか?
トナーレのデザインは、パッケージングとそれが生みだす売りの価値や、イタリアンなアルファロメオの歴史がデザインに表れているので、違和感なくスーッと受け入れることができます。
トナーレのフロントグリルはパッと見るとブラックかと思いますが、漆黒ではない。よく見るとちょっとシルバーが入っていますし、うっすらとブルーも入っています。
盾を表わした逆三角形のグリルと、バンパー下の顔後部がメッシュ状のデザインになっていますが、この部分の形状が絶妙な角度で織りなされているため、外光を反射してハイライトになります。これによって立体感と奥ゆきが表現されています。
グリルの周囲を、シルバーのメッキ調にしないで、黒色基調だけで立体感を表現しているこのデザインは見事で、蒔絵のような処理です。
対するZR-Vですが、グリルは艶ありのブラックで、バンパー下部のリップは樹脂の艶なしブラック。特にハイライトを対比して表現する工夫などはなく、なんか「のっぺらとした」雰囲気を感じてしまいます。
トナーレのフェンダーモールを見てください。これも一見ブラックですが、よく見ればグリル周りと同じ手法です。ハイライトが生きて立体的に質感を演出しています。
ZR-Vは一般的な梨地の艶消しブラックで、特に目立つ新しさはありません。フェンダーモールは“SUVらしさ”を演出する大事なアイコンなのですから、このように大きなフェンダーモールでは、トナーレのように効果的なデザインの処理を検討してほしいと思います。
■シャシー設計と車体デザインの関連
トナーレは最近の欧州車らしく、SUVでもしっかりとフェンダー開口部を詰めて空力を向上させています。一番広い部分でも横にしたコブシが入りません。
さらにフロントバンパーサイドからフェンダー内側に風を流し込んで、ホイール側面を流れる風による負圧でフェンダー内部の空気を吸い出す効果が得られる構造です。
一方ZR-Vは横にしたコブシがスッと通過する隙間があります。いつも指摘するように、これではホイール側面を流れる風をフェンダー内部に巻き込んでしまい空気抵抗やリフトになっています。
ZR-Vもフロントバンパー端の導風口からフェンダー内部に風を流していますが、タイヤとフェンダー開口部の隙間がこれだけ大きいと、巻き込む風と衝突して、吸い出し効果は期待できません。
このフェンダー開口隙間の問題は、デザインだけではなく、サスペンションジオメトリーや、フェンダー開口部のプレス加工形状、そしてタイヤチェーン装着実験の基準に関係します。つまり、デザインとシャシーや車体設計、そして実用性実験部が協力しないと解決できないのです。
例えば、ZR-Vのサスペンションはキャスターが立っていて、転舵した時のタイヤ軌跡が大きいため、フェンダー開口の隙間が大きくなります。昔の基準書には「キャスターは立てたほうがショックアブソーバーの摺動抵抗は小さく、スムーズに動く」と書いてあります。
しかしショックアブソーバーの技術は進化し、電動パワーステアリングに時代は変わっているのに、これらがキャスター角の設計、計画に活用されていないのはなぜなのでしょうか。
トナーレのエンジンルームを見ると、前軸中心に対しサスペンション上部の取り付け部は大きく後退して、ダッシュパネルに取り付けられています。キャスター角を大きく傾けた、ハイキャスターのジオメトリーです。
また、フードリッジレインフォースがガッチリとしたプレス鋼鈑のBOX構造でクロスメンバーと接合しており、フロント周りの車体剛性の高さがわかる構造です。
アルファロメオはステランティスグループですから、トナーレはJeepレネゲードとプラットフォームを共用しているので、このようなガッチリとした車体構造なのです。FFのSUVの車体構造ではありません。
ラジエーターコアはガラス繊維入りの樹脂で、強度があって車体剛体の一部を構成しています。エンジンマウントはアルミブラケットでガッチリとした構造です。エンジン振動を遮断して車体には伝えていません。
トナーレのエンジンは直4の1.5Lターボです。タービンはずいぶんと小さいです。軽自動車のタービン程度の小ささです。電制ウエストゲートを採用しています。オルタネーターはコイル剥き出しですが、水かかりは大丈夫でしょうか?
ZR-Vの車体は基本的にシビックと共通の構造です。サスペンションアッパーはダッシュパネルに直付けする構造で、車体構造としては剛性の高い構造です。
ベースのシビックに対してフェンダーが高いSUVなのでステーを介してアッパーパネルをかさ上げしているのはいいのですが、かさ上げした隙間がガランドウになったままで、フェンダー内側とエンジンルーム内の空間が繋がっています。
これではタイヤ騒音だけではなく、小石の飛び跳ね音までエンジンルームで増幅されて、フロントウィンドウ下にあるエアコンの空気導入口から室内に入ってきます。この隙間は吸音ウレタンなどで塞ぎたいです。トナーレはフード後端までゴムのシーリングがきちんとされています。
コメント
コメントの使い方ラジエターコアが樹脂製で車体剛体の一部を構成しているなんて事ないでしょ?
ラジエターコアサポートの間違えではないでしょうか?