■細部まで完全再現したベビイの作り込み
今回の主役である日産ヘリテージコレクション収蔵車は、2015年に日産名車再生クラブがレストアを手がけたため、新車同様の輝きを放っている。車両を囲うスチール製のバンパーガードが遊園地用の乗り物であることを意識させるのだが、内外装の細かい部分までしっかりと自動車として作られていることに驚かされた。
しっかりとしたドアハンドルやワイパー付きのフロントガラス、そしてサイドウィンドウも手動開閉が可能といった凝った作りこみなのだ。なんと灯火類は当時の交通法規に適合させるなど、子供サイズといえど遊具というよりも教育車両という側面も重視されていた。
ちなみに講習などで、子供と大人ふたりが乗車可能な広さが確保されているほか、助手席からもブレーキを踏めるように工夫もされていた。
■日産ヘリテージコレクション車両担当者は当時の訓練センターに通っていた!
今回の取材では当時の様子を伺うこともできた。なんと日産ヘリテージコレクションで車両管理に携わるNさんは当時、訓練センターの常連のひとりだったのである。
Nさんによれば、「ベビイに乗るためには、園内の教習所で講習と運転訓練を受けることが必要。それをクリアすると、運転免許となる写真入りの“こども自動車の会 会員証”が発行される。その会員証があればひとりでコースを走れるので、小銭を握りしめてよくひとりで乗りに行った」と懐かしそうに当時を振り返る。
その後、Nさんは仕事とプライベートの両面でクルマとともに歩む人生を送っており、今も自動車を愛するカーガイだ。ダットサンベビイは子供にクルマを学ばせるという役目をしっかりと果たしたのだ。
ダットサンベビイは1965年(昭和40年)から1973年(昭和48年)までの8年間運用され、利用者数は20数万人にも及ぶ。その後、ほとんどが処分されることになったが、100号車はこどもの国の倉庫で眠っており、それを2015年のこどもの国設立50周年に合わせて蘇らせた。
■現存するダットサンベビイは2台のみ
実は100号車以外にももう1台、展示車として残されているダットサンベビイがある。その車両を収蔵するのが、北海道苫小牧市にある「苫小牧市科学センター」だ。展示品として1973年(昭和48年)5月に、日産より寄贈されたという。
当初は触れることが可能だったこともあり、車両の傷みも進行。そのため、展示品が入れ替えられ、倉庫に保管されていた時期もあったが、2011年に日産サービスセンター北海道支社の協力を得て修復。今は展示車として復帰している。
同車は欠品なども生じたため、一部部品が似たものに変更されているが、イエローのボディカラーを纏い、当時の雰囲気をしっかりと伝える。修復時にはエンジンのかかる状態までに仕上げられたそう。どうやら現存が確認されているのはこの2台のみのようだ。
本物を使った体験学習で、クルマの楽しさだけでなく、いろいろな側面を伝えたダッドサンベビイ。こんな贅沢なことはコスパやタイパが重視される現代では実現不可能だろう。
しかし、同車は大人たちが本気で子供たちの未来を想い、本物でしかわからない学びを与えようとした大切な歴史遺産である。今一度、大人たちはその存在から学び、子供たちの未来のためにできることを考えるべきではないだろうか。
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