■驚異の加工技術で時代の先端を走ったクルマたち
一般的なクルマのウィンドウはガラスで作られていて、それは窓ガラスのような平板ではない。
多くのクルマが曲面ガラスで構成されたウィンドウを持っているが、ここで紹介する2台のモデルは、その曲面率がとんでもないことになっていて注目を集めた。
■ジウジアーロの力作だったが……「スバル アルシオーネSVX」
最初に登場してもらうのはスバルが1991年に発売したアルシオーネSVX。1986年にデビューしたスポーティクーペの初代アルシオーネを大幅にリニューアルしたこのSVXは、先代とはまったく異なるスタイルで世間を驚かせた。
直線を基調にしたフォルムの先代アルシオーネに対し、イタリアのジウジアーロがデザインを手がけたSVXでは曲面で構成されたボディを持ち、その際たるものがグラスtoグラスのラウンドキャノピーだった。
ガラスがルーフにまで回り込むデザインは斬新で、それゆえにサイドウィンドウの開閉にも特殊な方式が用いられた。
当然ながらこのウィンドウを製造するためには従来の技術では対応できず、日本板硝子が開発した特殊なプレス工法で製造が行われた。
■意欲的なデザインだったものの……「トヨタ セラ」
2台目に紹介するモデルがトヨタのセラ。1990年にリリースされたこの2ドアクーペモデルもまた、アルシオーネSVX同様に3次曲面を多用し、なおかつ面積の大きいウィンドウを有していた。
セラの特徴は上方に開くポップアップ式のバタフライウイングドアにもあり、このドア上部がほぼガラスで構成されるという意欲的なデザインを採用。リアウィンドウも含めてグラッシーキャビンと呼ばれた。
リアのガラスには熱線が装備され、さらにアンテナなども取り付けられるため複雑な加工が要求されたが、ウィンドウの製造を担当した旭硝子がこれに応え、見事にウィンドウを完成させた。
ほぼ同時期に発売されたアルシオーネSVXとセラは、この時代のバブル景気を象徴する存在ともいえたが、残念ながらバブルはやがて弾けてしまい、どちらのモデルも後継機種を残すことなくその歴史を終えている。
■すべて機械で制御された4WSシステム「ホンダ3代目プレリュード」
前輪の操舵に応じて後輪を同方向、または逆方向に操舵して、コーナリング性能を高めたり旋回半径を小さくしたりするシステムが4WS(4輪操舵)。
現在の4WSでは後輪の操舵方向や操舵量をコンピュータで制御するのが一般的だが、これをすべて機械的に行うモデルも存在していた。それがホンダの3代目プレリュードだ。
4WSシステム自体は3代目プレリュード以前からあったが、量産車への採用はほとんどなく、作業車などの特殊車両に用いられていた。だが、プレリュードが4WSを装備したことで、この技術にも注目が集まるようになった。
そして3代目プレリュードの4WSは、機械式制御であったこともポイントのひとつ。このシステムでは、ステアリングの操作角度に対応して、前輪と同方向から逆方向まで後輪の舵角方向と切れ角を連続的に変化させる。
機械式にもかかわらず、車速とハンドル操作量に応じて後輪を最適に操舵する舵角応動型4WSシステムの採用は量産車世界初だった。プレリュードの4WSでは、前輪舵角が小さい時は後輪が前輪と同じ向きに転舵する同位相、前輪の操舵量が多くなると後輪は逆位相方向に動いた。
機械式4WSの利点はシンプルなことによるトラブルの少なさだが、緻密な制御という点においては電子式に分がある。それもあって4代目プレリュードでは4WSの制御が機械式から電子式に変更されている。
今回紹介した技術は、そのどれもが直接花開くものではなかったが、思想やノウハウが後の時代に与えた影響は大きく、クルマの歴史において重要な価値があるのは間違いない。
【画像ギャラリー】ものづくりニッポンの底力を見よ!! 世界を驚かせた名技術(16枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方