運送物流業界を揺るがす危機的な状況として警鐘が鳴らされている「2024年問題」。2024年4月1日以降、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年960時間に制限されることによってさまざまな問題が起きる。そこで2024年問題の解決策はあるのか考察してみた。
※本稿は2024年2月のものです
文/清水草一、写真/フォッケウルフ、Adobe Stock(トップ画像=metamorworks@Adobe Stock)
初出:『ベストカー』2024年3月10日号
■2024年からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が強化
今年は2024年。いわゆる「2024年問題」と呼ばれる物流業界の人手不足危機が始まる(はずの)年だ。具体的には2024年4月からトラックドライバーの時間外労働時間の上限規制が厳しくなり、「モノが運べなくなる」と言われている。
国の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、2024年問題に対して何も対策を行わなかった場合には、営業用トラックの輸送能力が、2024年には14.2%不足し、2030年には34.1%不足する可能性があると試算。
なぜこんなことになったのか、そして有効な対策はあるのかを、わかりやすく考察していきたい。
トラック輸送の危機は、バブル期にも大いに喧伝された。ドライバーがまったく足りずにフル回転状態となり、深夜、大型トラックが東名・名神をブッ飛ばして重大事故も多発していた。
しかしバブル崩壊後、状況は急激に改善。1990年にトラック運送業に関する規制が大幅に緩和されたことで新規参入する会社が一気に増えると同時にバブル崩壊で人手が余るようになったためである。その後トラック運送業界は過当競争に陥り、運賃が下落。
以前はトラックドライバーといえば「稼げる職業」だったのが、徐々に時給単価が下落し、若者に敬遠されるようになって高齢化も進行した。ドライバー不足に陥るのは当然だった。
今回の時間外労働規制の強化はそんな状況を改善するための規制強化策だが1990年の規制緩和と逆方向に働くため短期的には人手不足→輸送力不足になることが確実視されている。
■長距離ならほかの輸送機関へ切り替えのチャンス!
トラックドライバーが足りずに荷物が運べないとなった場合、ほかの輸送機関への振り替え(モーダルシフト)は、どれくらい可能なのか。
トラックの代役として真っ先に思い浮かぶのは、鉄道だろう。しかし鉄道へのモーダルシフトの可能性は、わずかしかない。
そもそも、鉄道による貨物輸送のシェアは、現在トンキロベース(輸送量×距離)でわずか5%程度に過ぎない。約5割が自動車、約4割が内航海運。つまり日本では、クルマと船で大部分の貨物を運んでいる。
1965年の段階では、鉄道(ほぼ国鉄)による貨物輸送が3割を占めていたが、道路整備が進むにつれてトラック輸送が増加し、現在に至っている。
かつて日本では、小荷物は鉄道で運ぶしかなかったが、国鉄はそれにあぐらをかいて利便性の向上を怠ったため、宅急便との競争に完敗して衰退し、コンテナ輸送に特化を図った。
その後国鉄は分割民営化され、貨物部門はJR貨物の分担となったが、路線はJRの各地域会社に割り当てられたため、JR貨物は線路を借りて走る立場となった。
JR地域各社は旅客部門に力を入れ、大都市部では貨物専用線を旅客用に転換。東京では埼京線(山手貨物線)がその代表だ。
現在、大都市部の路線は旅客列車が過密ダイヤを組んでいるため、貨物列車の大都市中心部への乗り入れ枠は限定されており、広げる余地はわずかしかない。現在約5%の輸送シェアを6%に増やすことができたとしても、焼け石に水だ。
欧米で鉄道が貨物輸送の大きな担い手となっているのは、旅客輸送における鉄道のシェアが日本に比べ圧倒的に小さく、その分線路が空いているからだ。日本で貨物列車を大増発するのは、もはや不可能だろう。
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