ダイハツ工業・豊田自動織機と、不正行為の相次いだトヨタグループ。その中でよく耳にするのが「トヨタ生産方式」と言われる生産手法や考え方だ。しかし、その方式が不正の原因だと言われる事も……。そこで今回はヨタ生産方式とは何なのか、時代錯誤の古いシステムなのかを考えていこう。
文/佐々木 亘、写真:TOYOTA
■ムダの分別がカギを握る?世界中で研究されているトヨタ生産方式
トヨタ自動車の生産方式は「リーン生産方式」や「ジャスト・イン・タイム(JIT)方式」ともいわれる。
注文されたクルマをより早く届けるために、最も短い時間で効率的にクルマをつくる方法だ。
ムダを徹底的に排除し、造り方の合理性を追い求めた結果、トヨタ生産方式は生まれた。
理解の第一歩目として、まずは「ムダ」を正しく認知しなければならない。
無駄とムダは違う。無駄とは、役に立たないことや、行っただけの甲斐がないことを指すが、カタカナの「ムダ」は無くしてしまっても全く主作業に影響のないことを指す。
ムダには7つの種類がある。必要なことを進めず一時的にやることのない「手持ちのムダ」と、物事の完成度とは関係のない部分に時間や労力を割くことを指す「加工のムダ」が最たるものだ。
世間一般言う漢字の無駄は、加工のムダの延長線にあることが多いだろう。
さらに、付加価値を生まない流れ「運搬のムダ」、不要な備品やデータの「在庫のムダ」、付加価値を生まない動きを指す「動作のムダ」。
また、必要以上に作る必要なタイミングよりも早く作る「作りすぎのムダ」、最後に不良品や手直しが必要な仕事をする「不良・手直しのムダ」がある。
挙げてみれば至極当然の排除すべきものだ。ただ、このムダに気付き、カイゼンを回すことが意外と難しい。
■異常発生で止まることが重要
トヨタ生産方式は、自働化とジャスト・イン・タイム(JIT)という二つの考え方を柱にして確立されている。
JITは各工程が必要なものだけを、流れるように停滞なく生産する考え方で、前述したムダの徹底的排除から生み出される、トヨタ生産の核だ。
製品をタイムリーに作るためには、JITの思想が不可欠である。
タイムリーに無駄なく作るのと同時に、工業製品には確かな品質が求められる。これを実現するのが自働化(トヨタでは「動」にニンベンを付ける)だ。
これは異常が発生したときに、直ちに機械を停止して、不良品を作らないという考え方である。
自働化の実現には、安全な仕事を確実にできるまでの行程を、手作業で作り込むことが大切だ。
人がこだわって手作業でラインを作り込み、改善を積み上げて作業を簡単にしていく。そして、最終的には誰がやっても同じ作業になるように、作業ラインを完成させる。
機械による単純な自動化では、品質が担保されない。モノづくりの現場には、人間の知恵や工夫が欠かせず、それを徹底的に行うのが「自働化」なのだ。
そして生産の中での異常を見つけるのも人であり、それを知らせるのも人。異常が起きることがムダではなく、異常を放置して不良品を生み出すことが無駄となる。
トヨタの生産現場では、異常を知らせるために現場の作業員が躊躇なく引く紐(押すボタン)がある。
この紐を引くと、アンドンと言われる以上を知らせる表示盤にランプが点るのだ。これが会見で度々出てきた「アンドンを引く」という行動になる。
効率化とはムダを省くこと。ムダを省くためには不良品を作らないこと。だからアンドンを躊躇なく引くことが重要になるという思考を、トヨタの中では回し続けている。
生産数だけを求め、ラインを止められない(アンドンを引けない)生産方法は、トヨタ生産方式とは言わないのだ。
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