大切な愛車を盗まれた被害者が一転、加害者になってしまう……!? そんな理不尽とも思えるケースが、過去には実際にあったという。クルマを大切にしなかった罰が当たったともいえる、最悪の事態を回避するための日頃の心得とは。
文/井澤利昭、写真/写真AC
■盗難被害に遭った愛車が人身事故! その責任が自分にもある!?
ニュースなどでも見聞きすることが多いクルマの盗難事件。ランクルやレクサスといった人気の高級車だけの話と思いがちだが、ここ最近ではプリウスなどの一般車が盗難のターゲットにされるケースも少なくなく、誰もがその被害に遭う可能性がある。
愛車の盗難は盗まれること自体が困るのはもちろんだが、たとえクルマが見つかった場合でも解体されて主要な部品が取り外されていたり、事故を起こしてボロボロに壊れた状態で戻ってきたりという悲惨な結果が待っていることも多い。
さらに最悪なのが、その事故の責任を盗難被害者であるはずのクルマの所有者が負わなければならないことがあるという。
窃盗犯が起こした事故の責任が被害者にあるなんて、そんなバカな!? と多くの人は思うかもしれないが、クルマを盗まれた時のシチュエーション次第では、それは実際に起こりうる話なのだ。
■少しの油断が命取りに! こんな場合は賠償責任が発生することも
もちろん、通常は事故を起こした窃盗犯にその責任があるわけだが、例えば、エンジンをかけっぱなしにした状態で、第三者が簡単に乗り込めるような場所にクルマを駐車したり、キーを差し込んだままドアをロックせず、クルマから長時間離れていたりしたという場合は、事故の責任をクルマの所有者が負わなければいけないことがありうる。
これは、自動車損害賠償保障法の第3条にある「運行供用者責任」に基づいたもので、クルマや運転者を提供する立場にある人や事業者(運行供用者)は、そのクルマが原因で発生した事故に対して損害賠償責任を負う必要があるとされているためだ。
一般的には、社用車など事業者が所有するクルマでの事故などで適用されるケースが多いが、過去には、盗難被害者であるクルマの所有者に、窃盗犯が起こした交通事故の損害賠償責任があるとした判決が出た例も実際にある。
また、クルマの盗難に被害に遭ったことに気付いていながら、警察に盗難届を出していなかった場合の事故にも、「運行供用者」である被害者が事故の責任を負わされる可能性があるので注意したい。
ちなみに「運行供用者責任」は人身事故でのみ適用されるため、物損事故のみの場合は成立することはない。
■盗まれたクルマでの事故の責任を、被害者が負わないための対策とは?
盗難されたクルマによる人身事故の賠償責任を、その被害者である所有者が負わなければいけないとされるケースは、要するに「そのクルマが適切に管理・運用されていなかった」と判断された場合に起こりうる。
そんな最悪の事態を回避するためにはまず、愛車を駐車する時は、悪意のある第三者が不用意に自分のクルマに乗り込んだり、勝手に動かしたりといった行為を簡単にはさせないようにしておくことが肝心となる。
例えばコンビニでの買い物など、ほんの短い時間であってもクルマから離れる際は必ずエンジンを切ってドアロックをかける、キーは差しっ放しにせず必ず抜いておくといった当たり前のことを忘れずにやっておくことが大切だ。
もちろん、抜いたキーをサンバイザーの裏やグローブボックスのなかに入れるといった車内に放置する行為は、クルマの適切な管理ができてないとみなされることもあるため、絶対にやってはいけない。
さらにクルマを盗ませないためのプラスアルファの防犯対策も有効だ。
自宅や出先などで長時間駐車する場合は、ハンドルロックやタイヤロックといった物理的な対策に加え、駐車中の不審な振動を感知するセキュリティアラームといった市販の盗難防止グッズを使うのも効果的。
ここまでしておけば“クルマの管理が不適切”と判断されることはまずないだろう。
クルマ泥棒の手口は年々進化し、巧妙になってきているだけに“絶対”という対策は、残念ながら存在しないが、盗難対策をきちんとしておけば万一盗まれたクルマで事故を起こされても、その賠償責任を負わされるという最悪の事態だけは避けることができる。
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