TOYOTA GAZOO Racing (以下TGR)でのモータースポーツ活動を通して、「もっといいクルマつくり」を体現してきたトヨタ。TGRでの技術と経験は、市販車で展開する「GR SPORT」と「GR」の2つのブランドにフィードバックされている。
ライトなチューニングのGR SPORTはさておき、本格的な走りを追求している「GR」における現在のラインアップは、GRスープラ、GR 86、GRカローラ、GRヤリスと、どれも純ガソリン車。モータースポーツの世界でもハイブリッド車が求められる昨今においても、ハイブリッドのGRは存在していないのだが、トヨタはかつて、コンセプトカーで、ハイブリッドスポーツを提案していたことがあった。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA
レースの世界でも、昨今はハイブリッドが当たり前に
TGRはこれまで、FIA世界ラリー選手権(WRC)やFIA世界耐久選手権(WEC)、ダカールラリーなど、様々なレースに参戦してきた。ここ数年の戦歴は目を見張るものあり、たとえば、2019年から2023年まで5年連続でWRCチャンピオンを誕生させているほか(マニュファクチャラーズは2018、2021、2022、2023を獲得)、WECの第3戦(ルマン24時間)でも2018年~2022年まで5年連続で総合優勝を獲得している(2023年はフェラーリが優勝)。
そんなレースの世界でも、冒頭で触れたように、昨今はカーボンニュートラルへ向けた大改革が進行している。WRCでは、2022年シーズンからそれまでのWRカー規定からハイブリッドユニットを搭載する「Rally1」が最高カテゴリーとなり、TGRは現在、ハイブリッドのGRヤリスRally1で参戦している。WECでは、もっと前である2012年シーズンから、TS030ハイブリッドで参戦している。
マニュアルモードへの切り替えも可能なハイブリッドスポーツ
トヨタは、2017年の東京モーターショーで、2ドアクーペのコンセプトカー「GRハイブリッドスポーツコンセプト」を出展している。「スポーツカーと環境技術を融合した新たなクルマの楽しさを提案するコンセプトカー」であり、デザインから分かるように、ベースはトヨタ「86」。ピュアスポーツカーとして機能性を徹底的に追求するため、エクステリアデザインとパワートレインの変更がされている。
デザインは、当時WECで戦っていたTS050 HYBRIDをイメージさせる縦型LEDヘッドランプやアルミホイール(デザインが似ている)、そしてリヤディフューザーを採用。ボディカラーはマットブラックとしており、力強さと迫力を感じさせる。まるでレースのテストカーのデザインを、トヨタ86に落とし込んだような印象だ。またルーフは開閉可能なエアロトップを採用、古くはトヨタスポーツ800(通称・ヨタハチ)や、80スープラにも設定されたスタイルだ。
パワーユニットは、TS050 HYBRIDで鍛えたハイブリッド技術「THS-R(TOYOTA Hybrid System-Racing)」を搭載。重量物であるハイブリッドの駆動用バッテリーは、運転席のすぐ後ろの車両中央付近に搭載、スポーツカーらしい運動性能も考慮されていた。
インテリアでは、センタークラスターに「P」「R」「N」「D」といったATのギアポジションスイッチを配置し、レーシーな雰囲気を演出しているほか、マニュアル車のシフトノブのように見えるレバー先端に、プッシュ式のスタートスイッチを格納するという、遊び心も織り込まれていた。しかも、マニュアルモードへの切り替えも可能とのことで、AT車でありながら6速MT車のような操作感も楽しむことができた。「スポーツカーはクラッチ付きのマニュアルミッションでないとダメ」というクルマファンも多いが、選択肢として、こうした遊び心ある仕様もアリだと思う。
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