日本初のゼロエミッション船「HAMARIA」はトヨタ製の燃料電池を搭載。とにかく静かで「これぞ未来!!」というほど衝撃の乗り味なのだ。自動車の世界において燃料電池はまだまだ普及しているとはいえないが、船の世界はかなり様子が違うのだ。そのワケとは!?
文・写真:国沢光宏
■当然だけどエンジン音なし!! 静粛性は感涙モノ
総トン数20トン以上の商用船では日本初となるゼロエミッション船『HAMARIA』に試乗してきた。トヨタ製の燃料電池6セット(トータル653馬力)と、150kgの水素タンクを搭載。450kWhのリチウムイオン電池と組み合わせることで70km程度のゼロエミッション航行が出来るという。試乗時は短い時間ながらゼロミッション航行を行い、驚くほど静かなクルーズを披露した。
船と言えばゴンゴンというエンジン音がするものと考えている私からすれば、音も立てずに航行するヨットのようで感動すらしてしまった。これぞ未来の船というイメージ。
2050年には船舶もカーボンニュートラルを考えなければならない。燃料電池船は一つの”解”になると思う。しかもクルマ用の技術は効率も信頼性もコストダントツに優れている。すぐにでも実用化出来るだろう。
■バイオフューエルもいいけどガソリンエンジン搭載ってのもいいのでは!?!?
船そのものはデザインを除けばオーソドックスである。クルマで言う『コンバートEV』のようなもの。エンジンで走る船のパワーユニットを変えただけと考えていい。
そもそも612馬力の賑やかな船舶用ディーゼル発電機を予備に使っており、しかも排気ガス対策無し。エンジン掛かっていると少なからぬ騒音や振動、30年前のディーゼルエンジンと同じ臭気を出す。
また、推進器もエンジンの代わりにモーターを使うシャフト+スクリュー。電動船なら効率の良いポッド推進が今のスタンダードだろう。クルマ業界の「最新こそ最善」というコンセプトだと「こうしたらいいのに」は山ほどある。
ゼロエミッション船を作るのなら、旧式のエンジン船のパワーユニットを変えるだけでなく、基本設計から電動化をテーマにしたらいいと思う。
まずハル(船体)は抵抗の少ないカタマラン(双胴)しかない。そして効率の良いポッド推進。ポッド推進なら真横まで動かせるため、電力を喰うスタンスラスタ(横方向に動かす)が不要になります。
さらに予備発電機は臭くてウルさい船舶用ディーゼルでなく、静かなガソリンエンジンを使ったらいい。612馬力なら3リッターV6ターボ2機ですね。通常は1機で十分な発電量を確保可能。
今回ディーゼルエンジン用の燃料としてバイオフューエルを使っているが、ガソリンエンジンであればP1フューエル(やがてeフューエルも出回る)やバイオエタノールを使えばいいだろう。クルマ用であれば税金をどうするかという問題になるけれど、船舶用なら何ら問題なし。音と振動、臭気が無くなるので、予備発電機で走った時も新しさを感じるようになります。
■燃料電池船の可能性はスゴイのよ!! 船こそベストマッチといえるワケって!?
いずれにしろ燃料電池船は可能性しか無いと思う。最も適しているのは、瀬戸内海などに代表される近距離のフェリーや、1~2時間程度の観光船。
1回あたりの航行距離が決まっているため、港に水電解の水素ステーションを作ればいい。水電解とは燃料電池に電気と水を流すと水素を発生する装置。すでにトヨタが試作装置を開発し、量産出来る状況にある。
太陽光発電に代表される再生可能エネルギーで作った電力で水分解し水素を作る。その場で70MPに圧縮。それを船に供給すればいい。
「HANARIA」は燃料電池だけで70kmくらい航行できる。1時間コースの観光船が航行する距離は長くて30kmだからエンジン発電機を使わないでOK。完全なエコシップになるだろう。このサイズの連絡船や小型フェリー、日本にたくさんあります。
写真は瀬戸内海の日生諸島を結ぶ大生汽船の『のりなはーれ』という50人乗りの旅客船。パワーユニットは420馬力のディーゼルだ。前述の通り燃料電池だけで十分航行させられる。電気自動車ならぬ電気船じゃ無理だろうか? 頻繁に航行させようとすれば充電が間に合わない。加えて電池をたくさん搭載しなければならず、金額的にも重量的にも嵩んでしまう。
なにより発電量が安定しない再生可能エネルギーを使うには、余った時に水素として貯められ、それを必要に応じて使える燃料電池こそベストマッチだと思う。
大きな機器を運ぶことが容易な港に規模の大きい水分解装置+圧縮機を設置し、船舶だけでなくバスやトラックなどに供給したっていいだろう。そうすれば港をエネルギーベースにしたカーボンニュートラルも出来てしまう。
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