アルテッツァって名車? それとも迷車? トヨタ渾身の力作ミッドサイズセダンはなぜ1代で消えてしまった?

アルテッツァって名車? それとも迷車? トヨタ渾身の力作ミッドサイズセダンはなぜ1代で消えてしまった?

 トヨタアルテッツァを覚えているだろうか? 1998年10月30日にデビューした4ドアセダンだ。全長4400mmと比較的コンパクトで、ハイパワーエンジンを搭載。このクラスのFF化が推進される当時の流れにあって敢えてFRを採用するということで、開発の情報が漏れ伝わった前年頃から「ハチロクの再来か?」とか「BMW3シリーズに比肩するスポーツセダンがトヨタから登場する」など、ベストカーのみならず、自動車雑誌界隈では話題沸騰!! 期待がワクワク盛り上がったのでありました。さて、アルテッツァとはどんなクルマだったのだろうか!?

文/梅木智晴(ベストカー編集委員)、写真/ベストカー編集部

期待にたがわぬスペックに胸膨らむベストカースタッフ

 トヨタアルテッツァがデビューしたのは前述の通り1998年10月30日。形式名を「E10型」といい、海外に向けてはレクサスブランドのコンパクトセダン「レクサスIS」としてデビューした。この当時、日本国内ではレクサスブランドを展開していなかったため、国内向けにはトヨタブランドで「アルテッツァ」と名付けられたのだった。

210ps、22.0kgmを発揮する直4、2リッターNAエンジンを搭載するアルテッツァRS200
210ps、22.0kgmを発揮する直4、2リッターNAエンジンを搭載するアルテッツァRS200

 全長4400mm、全幅1720mm、全高141mmでホイールベースは267mm。サイズ感としては同時代のコロナプレミオ(11代目、T210型)の全長が4520mm、日産プリメーラ(2代目、P11型)が4430mm、ブルーバードSSS(10代目、U14型)が4565mmなので、4700mm級のマークⅡやローレルクラスよりもワンサイズ小さい、ミドルサイズセダンという位置付けだったことがわかる。

 同クラスのライバル車はみなFFなので、敢えてFRを採用したアルテッツァにクルマ好きの期待が高まるのは当然のことだった。ちなみに、当時も今もミドルサイズセダンのベンチマークとされるBMW3シリーズ(E36型)の全長は4435mm、全幅1695mm、全高1395mmだったので、サイズ感的にも3シリーズとガチンコを狙ってきたことが見て取れる。

1998年11月16日のヤタベ取材後。比較車としてアコード、インテグラタイプR,スカイライン、BMW3シリーズなどを持って行った
1998年11月16日のヤタベ取材後。比較車としてアコード、インテグラタイプR,スカイライン、BMW3シリーズなどを持って行った

 比較的短い2670mmというホイールベースにフロントオーバーハング=750mm、リアオーバーハング=980mmと前後を切り詰めたプロポーション。直4エンジンを搭載する「RS200」グレードではエンジンをバルクヘッド側に押し込んで前後重量配分を54:46とするなど、パッケージングもフロントミドシップ的で本格派だ。

 搭載されるエンジンは直列4気筒DOHC、1998㏄の3S-GE型と、直列6気筒DOHC、1998㏄の1G-FE型。いずれもNAで、特に6速MTが組み合わされる3S-GEは最高出力210ps/7600rpm、最大トルク22.0kgm/6400rpmというハイスペックがおごられた。

手前がRS200でエンジンは直4の3S-GE(210ps,22.0kgm)。奥の黄色のボディはAS200でエンジンは直6の1G-FE(160ps,20.4kgm)だ。排気量はともに1998㏄
手前がRS200でエンジンは直4の3S-GE(210ps,22.0kgm)。奥の黄色のボディはAS200でエンジンは直6の1G-FE(160ps,20.4kgm)だ。排気量はともに1998㏄

 これはいやがおうにも期待が高まるというものだ。

 それを証明するように、アルテッツァ初めて紹介する1998年12月10日号(11月10日発売)では「FRの守護神」と題し、16ページを割いて徹底的に、多角的に解剖している。ちなみにこの号では2カ月後の1999年1月にデビューするR34GT-Rが、ニュルブルクリンクで初めてベールを脱いだ姿で走った姿を伝えてもいる。そう、初出しのGT-Rを抑えた大特集を組んだのだ。期待の高さがうかがえるだろう。

早朝のヤタベでアルテッツァvsライバル対決徹底テストを敢行!!

 続く1998年12月26日号(11月26日発売)ではデビューしたばかりのアルテッツァRS200とAS200をヤタベの高速周回路に連れ出してスカイラインやインテグラタイプRなどのライバル車との比較テストを実施した。

茨城県つくば市(旧谷田部町)にあった日本自動車研究所のテストコース。通称「ヤタベ」の高速周回路のバンクを走るアルテッツァ
茨城県つくば市(旧谷田部町)にあった日本自動車研究所のテストコース。通称「ヤタベ」の高速周回路のバンクを走るアルテッツァ

 210ps、22.0kgmを発揮する直4、2リッターNAエンジンに6速MTを組み合わせたアルテッツァRS200のゼロヨンタイムは14秒836。1998年当時のテストデータを見ると、GT-Rやランエボなどの280馬力ターボ4WD軍団は12秒台中盤。FD3S型RX-7が13秒38というタイムをマークしている。

 2リッタークラスのNAエンジンを搭載するモデルだと、MR2 Gリミテッドが14秒73、三菱FTO GPXが15秒00、2.2リッターのプレリュードSiRが14秒20、3リッターNAのスープラSZ-Rが15秒05なので、アルテッツァRS200の動力性能は期待を裏切らない高性能だった。

ヤタベのテストコースで動力性能テストの準備をするアルテッツァ。トランクに装着しているのは区間タイムや速度を計測する「小野ビット」だ
ヤタベのテストコースで動力性能テストの準備をするアルテッツァ。トランクに装着しているのは区間タイムや速度を計測する「小野ビット」だ

 ハンドリング面でも基本的には軽快で心地よいと評価されたのだが、RS200 Zエディションに装着される215/45R17サイズのタイヤがややオーバースペックで、AS200などに装着される195/65R15タイヤのほうがマッチングがいいというのがベストカー執筆陣の評価であった。

2005年、1代限りでアルテッツァの名は消滅してしまった

 このようにデビュー直後には期待をもって受け入れられたアルテッツァだったが、当初の期待や評価のわりに販売面では今ひとつブレイクできなかった。それには当時も思っていた「理由」があった。

 たしかに動力性能は高く、ライバルを圧倒する加速を楽しめる3S-GEエンジンだったが、低速域でのトルクが薄く、高回転をキープしないとパンチを味わいきれない扱いづらさがあったのだ。8000rpm手前まで一気に吹け上がるのだが、トルクが盛り上がりアクセルレスポンスもシャープになる6000rpmあたりから振動や音が大きくなり、6速MTのシフトノブにビリビリ振動が伝わるなど、荒さが目立ったのだ。

全長4400mm、ホイールベース2670mmのFR4ドアセダンというパッケージングのよさはアルテッツァの魅力だったのだが……
全長4400mm、ホイールベース2670mmのFR4ドアセダンというパッケージングのよさはアルテッツァの魅力だったのだが……

 直列6気筒の1G-FEを搭載するAS200は滑らかなエンジンフィールでBMW320のような雰囲気を感じさせるものの、160ps/6200rpm、20.4kgm/4400rpmに4速ATの組み合わせがややアンダーパワーに感じられた。2000年5月にAS200に5速MTが追加されたのだが、これはエンジンのオイシイところをうまく引き出せて楽しかった。が、ミッドサイズセダンで3ペダルMTは、やはり主流とはならなかった。

 2001年7月に、ステーションワゴンの「ジータ」が追加されるのだが、ジータにのみ搭載された直列6気筒3リッターの2JZ-GEエンジン(最高出力220ps、最大トルク30.0kgm)が最初からセダンにも搭載されていたら、アルテッツァの評価は大きく異なっていたのではないかと思うのだ。北米や欧州に向けたレクサスISでは当初からセダンにも3リッターエンジン搭載モデルが用意されていたので、これの国内投入が当時は期待されたのだがかなわなかった。

2001年7月に追加されたステーションワゴンのアルテッツァジータには220psを発揮する直6、3リッターエンジン搭載モデルが設定されていた
2001年7月に追加されたステーションワゴンのアルテッツァジータには220psを発揮する直6、3リッターエンジン搭載モデルが設定されていた

 アルテッツァのデビューに際し、クルマ好きの若い世代は「ハチロクの再来」として、スポーティに走るFRスポーツを求めたし、一方でもうちょっと年齢層が上の世代は、BMW3シリーズを凌駕する上質で運転の楽しいスポーティセダンを求めたのだ。

 その意味でアルテッツァは、やや“どっちつかず”の存在になってしまったのだ。工夫を凝らしたクロノグラフ風のメーターは、デザイン的には面白かったけれどBMW3シリーズの雰囲気を望むユーザーにはちょっと子供っぽく感じられた。さらにAS200の4ATモデルでは動力性能に物足りなさがあり、BMW320のような乗り味には一歩及ばなかった。

 とはいえ、AS200の価格は207万円からという設定でBMW320に比べて圧倒的に安価だったのだから、しっかりとアピールすればバリューの高さで勝負できたと思うだけに残念だ。

クロノグラフをイメージしたデザインのメーター。RS200のレッドゾーンは7600rpm超と高回転型だ
クロノグラフをイメージしたデザインのメーター。RS200のレッドゾーンは7600rpm超と高回転型だ

 一方でFRスポーツらしいドリフトコントロールを楽しみたい向きには、RS200の低速トルクの薄さと1340㎏という車重がネックとなり、自在なコントロール性を味わうことが難しかった。最高出力をちょっと落として低中速域のトルクのつながりを厚くしたなら、もっと軽快で楽しい操縦性が得られたかもしれない。RS200の価格は最上級のZエディション6MTで250万円だったので、今にして思えばお買い得だった。

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