軽64馬力自主規制に意味はある?
ところが軽自動車では、最高出力64馬力の自主規制が今でも存続している。
自主規制を始めた事情は登録車の280馬力規制に似ており、1987年に2代目スズキ アルトに設定されたアルトワークスが、最高出力を64馬力に高めて登場したからだ。Z32型フェアレディZの280馬力と同様、64馬力がそのまま軽自動車の上限数値になった。
以来、30年以上にわたって同じ自主規制が続いている。当時のアルトワークスと現行型を比べると、エンジン排気量は543ccから658ccに拡大。
最高出力は64馬力で等しいが、最大トルクは1987年当時が7.3kgmで、現行型は10.2kgmに達する。ボディも拡大され、全長は200mm、全幅も80mmワイドになった。
車両重量は1987年当時が650kg、現行型は670kgだから20kgしか増えていない。現行型の軽量設計がよく分かるが、30年以上の歳月を経れば、車の内容が大幅に変わるのは当然だ。もはや、最高出力64馬力の自主規制に意味はない。
特に今の販売状況を見ると、N-BOXやタントのような全高が1700mmを超えるスライドドアの付いた車種が軽乗用車全体の48%に達する。
N-WGNやムーヴのような全高が1600~1700mmの車種も37%を占める。軽乗用車の85%は背の高いミニバン的な車種だから、馬力競争など発生するはずがない。
背景に増税の影!? 未だに64馬力縛りが存続する訳
この無意味な自主規制が存続している理由は、軽自動車の税制を守るためだ。
仮に自主規制を終わらせると、国に増税の言い訳を与えてしまう。「従来から軽自動車の居住性や装備は小型車並みで、最高出力まで同等になったのだから、税額の格差も解消すべき」という話になる。
従ってエンジン排気量やボディサイズの拡大議論も同様だ。
軽自動車の開発者は「軽自動車のエンジン排気量を800cc前後に拡大できれば、動力性能、燃費、環境性能のすべてをバランス良く向上できる」という。
走行安定性と乗り心地についても「全幅の規格枠を70mm広げて1550mmにできれば、安全性と快適性を大幅に高められる」と指摘する。
N-BOXやタントのボディでは、全高の数値が全幅の1.2倍だから、この縦横比を5ナンバー車に当てはめると全高は2mを超えてしまう。軽自動車のボディは相当に縦長で、操舵感や安定性に無理が生じるのは当然だ。
そこで規格を改めたいが、むやみに推し進めると、軽自動車の税金を高めてしまう。
特に公共の交通機関が未発達な地域では、高齢者が毎日の買い物や通院に古い軽自動車を使っている。都市部に住んでいればシルバーパスなどで安く移動できるのに、クルマを所有せざるを得ない地域が多い。
そして従来の軽自動車税は年額7200円だったが、2015年4月1日以降に初度届け出された車両は、1万800円に高められている。さらに初度届け出から13年を経過すると、年額1万2900円に増税される。
軽自動車の自動車重量税も、車検時に納める2年分の6600円が、13年を経過すると8200円、18年を経れば8800円に高まる。
公共の交通機関が未発達な地域には、2006年以前に初度届け出された軽自動車も数多く走っているので、国は年金で暮らす高齢者から多額の税金を巻き上げているわけだ。
増税の理由は「新車に乗り替えた方が環境性能を向上できる」という自動車産業の片棒を担ぐものだが、それ以上に高齢者福祉に反する悪法だ。
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64馬力の自主規制は撤廃すべきで、軽自動車のボディサイズも見直したいが、そのために高齢者福祉を犠牲にすることはできない。
今後はさらに高齢のドライバーが増えて、安全装備も重要になる。軽自動車を地域のインフラおよびライフラインに位置付け、高齢者福祉の視点から、軽自動車のすべてを見直す必要がある。
安易な規格の変更や自主規制の撤廃で、増税を招くことだけは絶対に防がねばならない。
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