シルビアといえば日産の名車だが、そのシルビアに兄弟車がいたことをご存知だろうか。その名はガゼール。2つの世代、わずか7年だけ販売されたモデルだが、こいつが実にいいクルマだったのよ!
文:ベストカーWeb編集部/写真:日産自動車
■日産モーター店で売るクーペがほしい!
平成の時代まで自動車メーカーには多彩な販売チャンネルがあって、それぞれが地域や顧客の特性に応じた独自の車種ラインナップを持っていた。
もちろん日産もその一つで、日産店、モーター店、プリンス店、サニー店、チェリー店という5つのチャンネルがあった。そのうちシルビアを扱っているのはサニー店だったのだが、ローレルを扱っていたモーター店でも、ローレルオーナーのセカンドカー、あるいは家族向けとしてクーペモデルの需要があった。
そこで日産は、1979年に登場したS110型シルビアに兄弟モデルを投入する。それがガゼールだ。
ガゼールは基本的にシルビアとそっくりだったのだが、横ルーバー調のフロントグリルや同じく横パターンのテールレンズが見分けるポイントだった。
さらにガゼールは販売店の性格上「シルビアの兄貴分」とされた。そのためサイドブレーキのグリップを革巻きにしたり、車名の由来であるガゼル(カモシカの仲間)の巨大なボンネットステッカーが用意されたりして、シルビアとの差別化が図られた。
車両価格も数千円だけガゼールのほうが高かったし、日本初のドライブコンピュータを装備したこともニュースだった。
しかし初代ガゼールの名を一躍有名にしたのが、今もファンの多いドラマ「西部警察」の劇中車として使われたことだろう。ドラマではワンオフでガゼールのオープンモデルが作られ(自動車電話付き!)、石原裕次郎演じる木暮課長の愛車として大活躍したのだ。
いっぽうS110型ガゼールには、1982年に当時のR30 型スカイラインが積んで走り屋の話題をさらったFJ20型DOHCエンジンを積む「RS」というモデルが投入され、人気となった。ただしこのRSは兄弟車のシルビアにも設定されたため、ネームバリューの面でシルビアを凌ぐことはできなかった。
■2代目は名機FJ20のターボ仕様を搭載!
1983年、シルビアがフルモデルチェンジを果たすと、ガゼールも進化してS12型となる。当時はリトラクタブルライトを搭載したホンダ プレリュードがヒットしていたため、シルビア/ガゼールも同様のライトを採用、さらにボディスタイルもウェッジシェイプの先鋭的なスタイルとなった。
エンジンは新開発されたCA18を基本とし、トップモデルにはFJ20型にターボを組み合わせたFJ20ET型が搭載された。
このエンジンは当時としては画期的な190ps/23.0kgmを誇ったが、そのままではボンネットに収まらない。そこでボンネットをくりぬいてパワーバルジ(膨らみ)を作り、エンジン高をクリアした。なおシルビアにはFJ20のNA仕様も用意されたが、ガゼールにはラインナップされなかった点は両車の相違点だ。
こうしてガゼールは、モーター店のスペシャリティカーとして一定の人気を誇ったのだが、先代同様シルビアのネームバリューは強力で、販売量的には常に後塵を拝していた。
そこで日産は1986年2月、シルビアのマイナーチェンジを期にガゼールの廃止を決定する。シルビアは大型のカラードウレタンバンパーやサイドガードモールを与えられて、モーター店でも併売されるクルマとなったのである。
販売期間わずかに7年。ガゼールの寿命は短かった。とはいえあえて「ハズシ」を狙うクルマ好きからは熱い支持を得て、走りのうえでも評価は悪くなかった。いまでもガゼールは、昭和のオジサンのクルマ話に欠かせない、魅惑的な1台である。
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