人気カテゴリーのコンパクトSUVに登場したニューモデル2車は、きわめて対照的なコンセプトで生み出されたクルマだった。完全内燃機関のホンダ WR-Vと、純電気自動車のボルボ EX30を、水野さんはどのように評価するのだろうか?
※本稿は2024年6月のものです
文:水野和敏/写真:奥隅圭之、ホンダ、ボルボ
初出:『ベストカー』2024年7月26日号
■両極の人気のコンパクトSUV
今回は対照的な2車を取り上げます。1台はホンダのWR-V、そしてもう一台がボルボのEX30です。EX30は純電気自動車(BEV)です。一方、ホンダWR-Vはマイルドハイブリッドでもない、純内燃機関を動力源としています。
うーん、ボルボはどこへ向かおうとしているのでしょうか? いち早く衝突安全性の高さをアピールしたのはボルボでした。実際、欧州でもボルボ車の衝突安全性は高く評価され、世界の自動車メーカーの意識を大きく引き上げました。
そんなボルボならば衝突事故になる以前の、そもそも事故を起こさせない「人の運転信頼性」の確保をきちんとやってほしいです。
なぜこのような話をするのかというと、EX30のインパネです。私はEX30の運転席を見て愕然としました。インパネセンターにスマホより少し大きい縦型のモニター画面が1枚あるだけです。
常時注視が必要な速度計や警報類は最も視認性に優れ運転の視界を妨げないステアリング周辺に配置すべきです。が、センターコンソールに置かれた液晶モニター画面に他のメニューと混じって表示されます。
これはハッキリ言って危険。カーナビの地図表示やエアコンなどの操作アイコンなどが混在した画面の右上に速度が表示されるため、瞬間的に確認できませんし、運転している前方確認の直接視界からメーター確認のために目を離す時間も長くなります。
運転中、重要な情報は速度と異常警報です。私はこれまでの自動車開発で、速度計や警報類の視認性にはとても気を使ってきました。特に雨や夜間の高速や山岳路の走行では、瞬間的に速度などを確認できることはとても重要です。
たしかにIT進化の新しさは演出できるでしょう。しかし、新しさの表現のために、自動車の本質である人間が持つべき安全性を阻害していいはずがありません。
衝突してもリセットボタンを押せば再スタートできるゲームの世界(バーチャル)ではない「リアル」なのです。ゲームの操作のようなタブレットのタッチパネルで自動車を操作することに危機感や違和感を抱きます。リアルのクルマは衝突エネルギーの危険性から人の命を守っています。
対照的にホンダWR-Vはオーソドックスで自然です。特に新しさは感じさせませんが、そのぶん、変な違和感を抱くこともありません。
とはいえ、メーター自体の形状はいいのですが、指針の位置だけが明るくなる表現はいただけません。明るくすることで指針の位置を目立たせる効果を狙ったのでしょうが、これは逆効果。
人間は全体を認識したうえで予測をします。針の上下動で指針の位置、さらにこの先の変化率などを瞬時に推測して読み取ります。照度変化などは余計なおせっかい情報なのです。
WR-Vのコストバリューは素晴らしいと思います。N-BOXの上級グレード並みの価格でこれほど堂々としたコンパクトSUVを販売するということは、凄いことです。
しかし、高付加価値ブランド商品と反する、廉価なディスカウント・バリュー領域の商品は、本来 Made in Japanが目指した方向ではなかったはず……。1960年代の高度経済成長期のモータリゼーション育成期の商品コンセプトです。
最近の国産車のショールームは、ブランド価格帯車種の展示は消えて、補助金対象車や軽のミニバンが主役です。アメ車と同じ道を歩んでいます。
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