デビューから約12年を経た、2019年2月15日に大がかりなビッグマイナーチェンジを受けた三菱デリカ D:5 。
ガソリン車は顔の変わらない従来からのモデルを継続販売するが、クリーンディーゼル車は、ダイナミックシールドと呼ばれる押しの強い、オラオラ顔を採用した。
さて、ビッグマイナーチェンジモデルの発売から半年以上が経ったが、オラオラ顔の整形によって、デリカD:5は販売を伸ばしたのか? やはりノーマル顔よりもオラオラ顔のほうが人気なのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部
【画像ギャラリー】デリカD:5のオラオラ顔、都会派オラオラ顔、ノーマル顔の違いとは?
2019年2月にビッグマイチェン!
デリカD:5 が発売されたのは2007年1月だ。この後、大きな改良を加えることなく生産を続け、2019年2月になって、フロントマスク、エンジン、安全装備などを刷新するマイナーチェンジを行った。発売から12年となれば、フルモデルチェンジを2回行っても不思議はないが、デリカ D:5 はマイナーチェンジにとどめた。
注目すべきはマイナーチェンジ後の売れ行きだ。2019年3月の登録台数は前年の約3倍、4月も2倍に達して、5月以降も1.3~1.5倍の勢いを保っている。
■ビッグマイチェン後のデリカ D:5 の新車販売台数
※2019年2月15日発売。カッコ内は対前年同月比
●2月/1771台(131.1%)
●3月/5228台(281.9%)
●4月/1071台(202.1%)
●5月/1525台(149.5%)
●6月/1326台(105.7%)
●7月/1412台(128.5%)
●8月/1115台(137.7%)
合計 1万3448台
ビッグマイナーチェンジ後の2019年2~8月の累計登録台数は1万3448台で、1か月平均でも1900台を超える。
三菱の店舗数は、今では600箇所弱まで減り、トヨタ4系列を合計した4900店舗に比べると12%にとどまる。
この小さな販売網で1か月平均が1900台なら、相応の好成績といえるだろう。2019年1~8月の登録台数も、前年同期の約1.6倍に増えたから、マイナーチェンジとは思えない売れ行きだ。
ビッグマイチェンでオラオラ顔になったディーゼルモデルが全体の90%
2019年2月にマイナーチェンジを受けたのは、直列4気筒2.2Lクリーンディーゼルターボ車のみであった。2Lと2.4Lのガソリンエンジン車は、ほとんど変更を受けずに従来型を継続生産している。
三菱によると「現時点で新車として売られるデリカD:5の約90%は、クリーンディーゼルで占められる」とのことだから、従来型の顔付きから変更を受けていないガソリンエンジン車はほとんど売れていないということになる。
クリーンディーゼルを主力にするデリカD:5 の売れ行きが伸びたことで、三菱はディーゼル乗用車の販売ランキングでも上位に位置する。
2019年1~6月の1か月平均で見ると、ディーゼル乗用車の1位はマツダ(5586台)で、2位が三菱(2072台)、3位がトヨタ(1172台)であった。
デビューから12年で大幅に売れ行きを伸ばしたのは異例?

それにしてもデリカD:5 は、なぜ発売から12年も経過してマイナーチェンジを行いながら、売れ行きを大幅に伸ばせたのか。マイナーチェンジの内容から、その理由を探りたい。
まずは存在感の強いフロントマスクがある。今の三菱車に共通する「ダイナミックシールド」の考え方に基づき、縦方向にLEDヘッドランプを配置した。アルファードやヴェルファイアに似た手法ともいえるが、印象は異なる。
アルファード&ヴェルファイアは、前方を走る車両を蹴散らすような怖さを感じさせるが、 デリカD:5は我が道を行く個性が強い。怖さとは少し違う。
装備については、従来は用意されなかった緊急自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)を採用した。
歩行者と車両を検知するから安心感が高い。このシステムを使って、車間距離を自動制御するクルーズコントロールも備わり、長距離移動時の快適性も向上させた。
クリーンディーゼルターボエンジンは、設計を刷新させている。尿素水溶液を使うことで、窒素酸化物の浄化性能を高めた。
エンジンの回転感覚も洗練され、ATは従来の6速から8速に多段化されたから、動力性能と実用燃費が総合的に向上した。
さらにショックアブソーバーのサイズを拡大するなどサスペンションにも改良を加え、電動パワーステアリングも新設計している。この効果で操舵感が正確になり、走行安定性と乗り心地も良くなった。
遮音や防音性能も高められ、ディーゼル特有のエンジンノイズ、タイヤが転がる時に発する騒音も低減されている。このように従来型の欠点を解消させるマイナーチェンジにより、 デリカD:5は商品力を高めて好調に売れている。
販売店からは別の意見も聞かれる。「デリカD:5 は、基本設計は古いが、SUV的な機能を備えたミニバンだから個性が強い。ファンも多く、中古車市場でも人気が高いから、高額で買い取られる。
このような優れたリセールバリューもあり、 デリカD:5では、以前から定期的に新車に乗り替えるお客様が多かった。マイナーチェンジを受けたことで、従来型デリカD:5からの乗り替えがさらに進み、売れ行きを伸ばしている」とのことだ。
そこでデリカD:5の残価設定ローンをチェックすると、マイナーチェンジを受けたクリーンディーゼルターボは、3年後の残価が新車価格の54%に達する。
一般的な3年後の残価は43~50%だから、デリカD:5 は明らかに高い。販売促進のために敢えて高く設定した事情もあるが、不人気車で3年後を54%まで高めるのは不可能だ。
今や三菱のドル箱的な存在
堅実なニーズに支えられた人気車であることが分かる。このデリカD:5 の商品特徴が、先のマイナーチェンジで加速した。
見方を変えると、今の三菱にとってデリカD:5 が貴重な売れ筋車種になっていることも挙げられる。
2019年1~6月における三菱の小型/普通車の登録台数を1カ月平均で見ると、1位がデリカD:5(1987台)、2位はエクリプスクロス(773台)、3位はアウトランダー(619台)であった。三菱ではデリカD:5 の人気が圧倒的に高く、ほかの車種は低調だ。
そこで販売会社も、 デリカD:5に販売力を集中させる。SUVとミニバンは、ほかのメーカーも数多く扱っているが、「クリーンディーゼルを搭載して走破力をSUV並みに高めたミニバン」はデリカD:5 だけだ。
この特化されたクルマ作りが、中古車市場を含めてデリカD:5 の人気を押し上げた。2019年2月のマイナーチェンジがこの流れをさらに加速させている。
今では軽自動車にもSUV風のeKクロスが用意されるから、2020年に発売される次期eKスペースにも「eKスペースクロス」が加わるだろう。
ダイナミックシールドのフロントマスクは、マツダ車の魂動デザインのように、三菱車を売るための大切な要素になった。
スズキが製造するOEM車のデリカD:2 にもクロスを設定して統一を図れば、国内の売れ行きはさらに伸びるだろう。
三菱に限らず、自動車メーカーが業績を回復するうえで、フロントマスクの共通化は大切な手段になっている。
もちろん、オラオラ顔も成功の法則といえるのかもしれないが、クリーンディーゼル車を含めたデリカD:5の総合的な商品力が人気を押し上げた、といえるだろう。