シート設計は、自動車開発の中でも、最も難しいアイテムだ。
なぜなら、運転するときには常に身体に触れていて、また、国ごとに異なる様々な体格に対応させなければならない。
さらには、良い悪いという個人の主観的判断までもが入るためだ。とはいえ、ひとつに決めて製品に落とし込まないと商品にはならない。
では、自動車メーカーは一体どうやって、シートの良い悪いを決めているのだろうか。あまり知られていないシート開発の裏事情を交えつつ、日産で乗り心地性能の開発をしていた筆者がご紹介する。
文:吉川賢一、写真:トヨタ、日産、マツダ、ダイハツ、ホンダ、
ベンツ、ベストカー編集部
自動車メーカーが注目するシート設計の4つのポイント
シートの良し悪しは、当然のことながら、そのクルマの使われようによって異なる。
サーキットを走るマシンなのか、普通乗用車なのか、高級車の後席シートなのか、ミニバンの2列目や3列目シートなのか、はたまた大型トラックなのか。
クルマが使用される道路事情や乗員の体格によって、良く感じる部分が変わるためだ。今回は、普通乗用車を例にとって考えてみよう。
日産開発時代に、筆者が経験したシート設計において、大まかに4つのポイントを重視した。
- ・ホールド性(身体の保持)
- ・サポート性(たわみ)
- ・座り心地(柔らかさ)
- ・乗り心地(振動遮断)
上記の4つのポイントは、互いにトレードオフ性能となることが多いため、それらをどういった配分で目標設定をするのかが、シート設計のキモであり、シート開発担当者の大切な役割だ。
国によってシートの条件とは?
自動車メーカーのテストドライバーや、シート開発担当のぽうによると、良いシートの条件とは腰をしっかりとホールドするシートである。
「ドイツ車のシートは硬い、アメ車のシートはフカフカだ」という評価をクルマ好きならば一度は聞いたことがあるだろう。硬いとフカフカという相反する表現ではあるが、どちらもその本国においては、良いシートのクルマなのだ。
道がまっすぐで制限速度も速くないアメリカでは、フカフカなシートが当時、求められていた。例えば、キャディラックやシボレーのSUVなどが典型的だ。
対して、超高速で長時間移動をするドイツでは身体が沈みこまないほうが、身体にストレスがたまらずに良いとされている。例えば、BMWやベンツ等がそれに当てはまる。
しかし、座面がフカフカすぎるシートや、肩までがっちりとホールドするシート、乗降性を優先しサポートが緩いシートなど、極端なバランスに設定されたシートだと、そのクルマが使われるシチュエーションによっては、シートが悪いクルマとして判断されてしまう。
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