2013年5月に発表された、7代目ポルシェ911カレラ4のターボモデル、ポルシェ911ターボ試乗の様子をプレイバック。 自動車評論家 渡辺敏史が感じた、「新しい911ターボ」の凄さとは?(本稿は「ベストカー」2013年11月26日号に掲載した記事の再録版となります)
文:渡辺敏史
■持てるハイテク技術を満載した911ターボ

911ターボは、完全刷新されたアーキテクチャを得て、改めて911最速の座に位置するモデルとなった。
先代ではサーキットでのきな臭い争いごとは911GT3に任せ、四駆を武器にオールラウンドGT的な性格を強めた感があったが、GT-Rとのいさかいもあり、誰が一番かを教えてやろうという意地が、今度のターボにはビンビンに漂っている。

ニュル北コースのラップタイムは7分27秒(ターボS)とGT-Rよりも約8秒遅いラップタイムを刻んでいるが、新しい911ターボの凄さはその速さに情感や質感といったドライバーの愛しめる感触がしっかりもたらされていることだ。
電子制御の塊であることはGT-Rも然り。しかも今回、911ターボは新たに機械式の後輪操舵まで持ち込み、それをブレーキ式トルクベクタリングや電子制御センターデフなどと共にボディコントロールCPUで高度に統合制御している。
リアエンジンゆえの難題であるスタビリティとアジリティの両立のために、持てるエレクトロニクスは総動員したという印象だ。
が、新しい911ターボはサーキットスピードにおいても、その複雑な連携感をまったくうかがわせない。
あからさまな効能でなんとしてもタイムを削り取るというどころか、パッケージの美点である後輪の強力なトラクションをしっかりドライバーに感じさせながら、コーナーを抜群の安定感でもってクリアする。
そのニュートラルステアぶりは四駆ゆえのアンダー感が消しされていなかった先代に対する明確な進化といえるだろう。
可変ジオメトリータービンをツインで装着する3.8L直噴フラット6から弾き出されるそのパワーは、スポーツグレードの911ターボSでGT-Rを10ps上回る560ps、最高速度は318km/h、0~100km/h加速は3.1秒。
GT-Rに比べ、最高速度は3km/h上回るものの、0→100km/h加速は約0.3秒下回っている。パワーを伝えるミッションは7速PDKのみとなったが、その制御はもはやデュアルクラッチ式の癖をまったく感じさせない。
作動音も綺麗に封じ込められ、普段乗りではトルコンATさながらにスルスルとスピードを乗せていく。
電子制御可変ダンパーPASMのベースはGT-Rと同じ、ビルシュタインのダンプトロニックだが、その乗り心地は同等の速さを持つクルマとは思えないほど丸く柔らか。
日本の法定速度域で乗る限りは今日的なスポーツセダンと同等の乗り心地、純然たるスポーツカーのエンジニアリングでありながら図抜けた日常性が両立しているというのは代々の911が受け継いできた美点だが、新しい911ターボはその点においても史上最良といっても過言ではない。

コルベットに対しても然りだが、現在のGT-Rが最も劣っているポイントは、この日常域での快適性にある。
進化の過程で路面アタリのしなやかさは増したものの、低速域ではアンジュレーションに正直に揺さぶられる乗り心地は、現在のスーパースポーツの水準に照らすと旧い感は否めない。
同式のミッションを用いる911と比べると、その変速時の音振に至っては明らかにクオリティ感を落とす要因となっている。
対して、純然たる速さに関しては、これらライバルと比しても未だGT-Rは勝るところにある。
それは圧倒的なパワーというよりも、そのパワーをいかに漏らさず伝えるかというドライブトレーンの出来映えにあって、この点においてGT-Rは世界最高と断言しても構わない。
タイヤを介していながらその曖昧さがまったく感じられない、路面と直結したような加速感はGT-Rの速さにおける最大の個性ともいえるだろう。
全方位的にポテンシャルアップを果たしたライバルに重ねると、さすがにGT-Rのマルチパフォーマンスには凸凹が現われていた。が、逆にいえば6年の時を経て、未だに見劣りがそのレベルで収まっているのは驚異的でもある。
今後GT-Rが果たすべき進化は、今日的な動的質感の追求とともに、その速さにいかなる情感を抱かせるかということになるのかもしれない。
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