MT車の販売が年々落ち込んでいき、今やなんと2%弱しかシェアがないそうだ。クルマ好きからすれば当たり前のように扱っている3ペダルも、世間的にはかなりレアな存在に。
しかーし!! そんなに悲観することもなさそうだ。なんせ国産メーカーはたった2%の層に向けて楽しいMT車をラインナップしてくれているから。
今回はかつてレースにも参戦するほどクルマ大好きにして、日本カーオブザイヤー選考委員の人気DJピストン西沢さんに、現役のMT車たちをインプレッションしてもらったぞ!! 動画もあわせてどうぞー!!
文:ピストン西沢/写真:西尾タクト/動画:Kenji Akiba
ベストカー2021年3月10日号
【画像ギャラリー】圧倒的満足感!! まだまだ死なない日本のMT車
■MTにはこだわりのあるピス兄の評価基準
おーい、ひさしぶり〜ピストン西沢だー! 今回はオレの大好きなMT車の特集をするっていうんで、愛車のロードスターで駆けつけたぜ!
なんでも日本では乗用車のMT比率が2%弱なんだって。AT限定免許の取得者が3分の2を超えているっていうから仕方ないか!? でもMTにもいろいろなタイプがあり、操るには奥義もある。そのことを知れば楽しみが倍増することは確か。今回は、運転していて楽しいMTとは何か? まじめに語るぜ。
オレなりにMTの評価項目を考えた。(1)シフト位置 (2)トラベル量 (3)つながりのよさ (4)クラッチの切れ (5)シフトフィール (6)コストパフォーマンスの6つだ。
少し説明しておくと、(1)シフト位置はシートの問題もあるけれど、シフト操作のためにステアリングから左手を移動する際の距離やスムーズさで採点。(2)トラベル量はいわゆるシフトストロークのこと。
(3)つながりのよさは、シフトアップやシフトダウンのスムーズさのこと。(4)クラッチの切れについては、ペダルレイアウトの問題とクラッチの当たりを採点。(5)シフトフィールは「スコスコ入る」なんて言ったりするけれど、全体的な気持ちよさ。
(6)コストパフォーマンスは、車両価格に対してMTが、どれだけ楽しめるか? で評価した。すげー、自分で挙げたけれど、けっこう細かくて参考になるだろう。
■期待度ナンバーワンのGRヤリス
まず、驚くのはシフトの剛性感。だいたいクルマ好きはMTにカチカチ感を求めるけど、それはノイズやバイブと背中合わせ。どこでまとめるかが、スポーツフィールとのせめぎあいでしょう。このクルマはその点、カチカチ感ありなのに振動も少ないぞ。
シート位置は低くないけれど、3ペダルに対して足が上からのっかる感じでもないので、ヒール&トゥもしやすい。クラッチも軽く、つながりも粘り感があるので、雨のサーキットでいきなりシフトロックも大丈夫。
こんだけパワーがあるクルマなんだけど、優しいクラッチが初心者にも親切。驚きは坂道発進のヒルスタートアシストでエンストしたら勝手にリスタートするんだよ(笑)。
そもそも今時ヒール&トゥ? と思う人にGRヤリスは勝手にブリッピングします。シフトダウンで「無駄な空ぶかしはエコじゃね〜」と言わんばかりにエンジンの回転を的確に自動でアップし、スムーズなシフトダウンが行われる。
西沢が運転上手い人のトップに位置付けるジムカーナチャンピオン山野哲也……要らなくなるね(笑)。もちろんiMTスイッチのオンオフで機能ありなしを選べるのでおじさんたちの楽しみが奪われるわけではない。
そのほか色々好きものをうならせるクルマで、自分でハンドルを握るモリゾウさんが、つけたであろう注文はマニアに的確に響く。
■よくぞこの値段で出した! スイフトスポーツ
初めてMT車に乗る時に気になるクルマと言えばスイフトスポーツかもね。なんて言ったって200万円ソコソコでこんなに速いクルマが手に入るんだから。
MTに関していうと基本はハッチバックのファミリーカーだからシートポジションやペダルレイアウトは少し不満もある。シート位置が高く、ペダルを上から押す形になるので繊細なペダル操作がしづらい。
シフトのトラベル量も少し多くてフィーリングも軽め。過去に自分で所有したクルマでいえば1970年代のアルファロメオ・ジュリアGTVがバス並みの長さとトラベル量で変速の時間がやたらかかった。
まあ文句はあるとしても、各ギアにサクサク入る操作フィールとクラッチのつながりが穏やかでいい。下からトルクがあって速いから、あまりシフトチェンジする必要も感じない。
シートを下げればスポーツフィールも格段に高まるし、4枚ドアで速くて実用性があって、何より200万円ソコソコのバーゲンプライスは信じられない。敢闘賞あげます!
■伝統が継承されているロードスター
やっぱり4台の中ではピュアが付くスポーツカーだから、シフトの位置がサイドブレーキに近いなど、瞬時にいろんな操作ができるポジションとなっている。人馬一体を掲げるマツダらしく、ペダル位置も素晴らしく、細かいハンクラのテクも繰り出しやすい。
NAの1.5Lエンジンに組み合わされたFR専用MTというところがすべてで、シフトの気持ちよさは歴代ロードスターのなかでも最高。肘より高い位置にあるシフトは軽く、ゲートもわかりやすい。ハンクラも使いやすいから、メディア対抗レースでもずいぶん助けられました。
ただS2000なんかと違うのは、振動や騒音対策でミッションの真ん中がボディに固定されていないこと。ようするにエンジンとデフまでマウントがないことで、エンジンが回って振動するとその間落ち着くまでギアが入らないことだ。特に2速から3速に入りづらいくて、筑波では結構気になる。勿論全開走行時の話なんだけど……でもそれこのクルマでは大事でしょ。
■今回の大穴はN-ONE RS
先代のN-ONEのワンメイクレースにも出たことがあって、MTがありゃ楽しいのに! とさんざん言ってたら、ほんとに出してくれた。軽のMTといえば、S660! あれは素晴らしいけど実用性もほしいもんね。
さてインパネシフトの6MTという点が注目だけど、ステアリングから近いのでシフト操作しやすいし、トラベル量も少ない。
ペダルレイアウトも狭すぎず、クラッチのストロークも大きすぎず、つながりもよく、まったく問題なし。ナニコレ、軽自動車のパワーを使い尽くすのにピッタリじゃない!
特にクラッチのストロークとシフトストロークがタイミングがぴったり合ってリズミカルで気持ちいい! ペダルの踏み心地も素晴らしいし、やはりホンダスピリットは生きていたのか! と改めて実感。
今回はモデューロのサスペンションやブレーキが入っていてその点は差し引いて考えなくてはならないが、いい意味でびっくりしたよ!
■未来は暗くない86/BRZやZがMTを搭載
たった2%に満たないMTのシェアだが、今後ゼロになるかというと、そうではない。今年春から夏にかけて2.4Lに排気量アップしたBRZや86が6MTを搭載するし、東京モーターショーで次期フェアレディZが6MTをラインナップし正式発表になる。
実はアメリカではフォード・マスタングやシボレー・カマロにMTの設定があり、一定のシェアを持つ。日本のMTスポーツモデルもアメリカ市場を狙うことで、MTは生き残っていくはずだ。楽しみにしようぜ!