N-BOX・フィット・ルノートゥインゴを比べてみたら…!?

N-BOX・フィット・ルノートゥインゴを比べてみたら…!?

軽自動車をはじめとする『小さいクルマ』の開発において、日本のメーカーは世界をリードできているのだろうか!?

ホンダが渾身のモデルチェンジで存在感をアピールする新型N-BOXを軸に、フィットハイブリッド、そしてルノートゥインゴの3台、日欧の『小さいクルマ』を水野和敏が斬る!!

●今回試乗した三台
ホンダ N-BOX G-L

ホンダ フィットハイブリッドL
ルノートゥインゴ ゼン

※本稿は2017年のものです
文:水野和敏
写真:HONDA、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2017年12月10日号


■小さいクルマに求められる性能とは

今回は小さなクルマを取り上げたいと思います。特に軽自動車は日本独自の優遇カテゴリーで、一時は「日本ガラパゴス」などとも言われましたが、今や生活密着型ECOカー的存在という意味も含め、日本の自動車の小型効率化は、世界的には優位的な進化を遂げたと思っています。

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 N-BOXのパッと見の外観では前型との違いはよくわかりません。さて、どのように進化させてきたのか!?

全長、全幅は軽自動車の枠いっぱい。全高は1790mmと高く室内スペースを稼いでいる。ホイールベースは2520mmありフィットよりも10mm短いだけである

前席ドアを開けると、90度くらいまで、ずいぶんと大きく開くのはいいのですが、途中のストッパーが弱く一気に全開まで開いてしまうのはいけません。狭い場所で小さく開けて乗り降りしたいときにも意図せずガバッと開いて隣のクルマに当ててしまいそう。

エンジンルームを見ると、マウントブラケットにカーボン繊維含有強化樹脂を使ってきました。樹脂にすることで音や振動の減衰性が向上し、軽量化や原価低減にも役立ちます。このチャレンジはいいですね。

左右ストラット間をバルクヘッドに沿った強化パネルで結ぶ構造も「当たり前」になってきました。細部を見ると……ボディ剛性は向上させてきたと思います。サイドメンバーもきちんと通っているし、エンジンマウント経由でブラケットを使ってブレース構造でガッチリと止めています。構造体としては凄く真面目に作っていると思います。ちょっと前のホンダとはガラリと変わってきましたね。スズキのような、ちゃんとした作り込みが伝わってきます。ただ、ボディパネルの溶接の合わせ面に不均一な隙間があったりする部分も散見されます。こうした作り込みは改善を望みたいところです。

そのいっぽうで、エンジンフードはキッチリと位置決めして閉めるための硬質ゴム製位置決めパーツを使っています。エンジンフードの形状がサイドまで回り込むため、フロントのロックだけでは走行中に左右のブレが生じ、音が出たりずれてしまうのを防ぐためです。

N-BOXのエンジンルーム

Bピラー(編入部註:前部座席と後部座席の間にある柱のこと)をコツコツ拳で叩くとずいぶんとしっかりとしたプレスにはなってきました。しっかりと「詰まった」音がします。……が、下の方はまだちょっと生っぽい。

後席のシート自体は相当いいです。座面もしっかりとしているし、背もたれの高さもあって快適です。足元にも充分すぎる余裕がある。大きくスライドしますが、一番前に出してもまだ足元には余裕があるので、後部の荷室も充分に実用的です。ここまでよくなってくると、普通車を買うのが少しバカバカしく思えてくるほどです。

面白いのが、助手席を後席から操作できる点。背もたれ裏側にあるレバー操作で助手席をスライドさせることができる。これは便利です。ちいさいお子さんを乗せたお母さんが、乗り降りするときや、大きな荷物を積み込むときなど、後席側からスッと助手席をスライドさせてスペースを広げることができます。

後席を一番後方にスライドさせた状態でも、後部荷室はそこそこのスペースがあって、通常の買い物や、ちょっとした出かけるときの荷物程度であれば無理なく乗せることができます。さらに後席は左右分割でスライドするし、バタンと前倒しさせれば広々とした荷物スペースが作れます。背もたれの前倒しに連動して座面が下方に沈み込むため、荷室の段差は最小限となりますが、多少の段差は残ってしまうのが残念。ただ、この段差部はカーペットで覆われ、なだらかなスロープのようになるので荷物の積み込み時などに引っかかることはないでしょう。

「リアシートダイブダウン機構」を使用したイメージ。ヘッドレストはそのままの状態で、背もたれを前に倒すワンアクションでシートを足元に収納できる

こうして広いスペースを作り出せば、実用性はもちろんですが、ちょっとしたアソビの基地のようにもなって使い方を想像するだけで楽しくなります。この状態から後席を引き起こせば、今度は座面がフロアからチップアップして高さのある荷物を積むのに便利なスペースを作り出せる。これは初代フィット以来のホンダお得意のシートアレンジですが、これはよく考えられています。開発チームの「ユーティリティへの本気のこだわりとアイデアのぶつけ合い」が伝わってきます。この姿勢に私は拍手を送りたい。

ただし、テールゲートは開口部の天地も大きく使い勝手はよいのですが、ヒンジ位置と開口軌跡から、気をつけないと開けるときに自分の顎にアッパーをくらいます。また後方のスペースに注意しないと、カベなどにガリッといってしまいます。これだけ大きなパネルとなると閉めるときに掴む部分の高さがけっこうな高さで、背の低い人にはちょっと大変。是非オートクロージャーの設定が欲しいです。

ホンダ フィット。7速DCTに組み合わされる1.5Lハイブリッドのモーターは29.5ps/16.3kgmを発揮。車重は1080kgでJC08モード燃費は34.0km/Lを実現している

N-BOXの圧倒的なスペースユーティリティを見た後だとフィットがずいぶんと狭く感じてしまいますが、後席に乗り込むと、充分な広さがあることを再確認しました。実際にドライバーが適正なポジションをとった上で後席に座ると、膝から座面までたっぷりと余裕がありますし、頭上スペースも余裕です。FR上級車の後席より広いです。ちょうど後席乗員が足を置くスペースは斜めに傾斜が付けてあり、自然に足を置くことができます。前席シートレール後端が剥き出しでなく、樹脂のカバーで覆われているのもいいです。これまでのホンダの小型車はこうした部分が剥き出しだったりして、使う人のことを考えきれていないと感じたものですが、今回のフィットはいいです。

エンジンルームを見ると、設計の苦労が垣間見えます。マスターバックが斜めに装着されているのですが、これは衝突時に押されてドライバーの足元に突っ込んでくるのを避けるためです。これはハイブリッド用のモーターブースターだからできることで、普通のロッドで押すタイプだと簡単にはできません。

トゥインゴの後席はN-BOXどころかフィットと比べても狭いです。ただ、欧州車にしては床面とシルの段差が小さくて足の出し入れがラクなのはいいです。テールゲートは大きなガラスハッチ。一枚物のガラスなので割れてしまったら部品代はどのくらいでしょうか?

スマートと同じRRプラットフォームを採用して開発されたトゥインゴ。今回試乗したゼンのエンジンは998ccのNAで71ps/9.3kgmというスペックとなる

スマートとプラットフォームを共用するRRなので荷室フロアがちょっと高いのはやむを得ませんが、やはりちょっと狭いです。フロントに荷物が積めればまだいいのですが、やたらと開け閉めが面倒な着脱式構造のボンネットフードの下はラジエターやバッテリーやら補機類が満載で荷物スペースはありません。これはスマートもまったく同じですが……。この着脱はレーシングカーのカウルの方が簡単です。なぜスマートもトゥインゴもこのような不便なフード開閉構造としたのでしょうか!? 樹脂製ボンネットフードのコストは実は結構高コスト。鉄板のパネルと塗装品質を揃える表面仕上げとなると、相当高いです。コストを考えるのであれば、鉄板フードにヒンジ開閉とした方が、圧倒的に安くできます。

改めて並べてみると、トゥインゴとN-BOXはステアリングコラムからラジエターコア前端までの位置関係がほぼ同じだということがわかります。軽自動車のパッケージングとほぼ同じにトゥインゴは設計されているのです。

インパネにはモニター画面がなく、スマホホルダーだけ。これはスマートも同じなのですが、スマホをカーナビにしろ、ということなのでしょうが、スマホを持たない人はどうするのでしょうか?

プラットフォームを共用していても、スマートとトゥインゴはずいぶんと違ったクルマになっています。トゥインゴはRRプラットフォームでありながらもごく普通のコンパクト実用車を作ろうとした。そうしたら他車と比較して狭さだけが気になってしまった。一方スマートは、実用性などは追わずに割り切ってちょっと個性的でおしゃれなコンパクトスポーティカーを作ったという違いです。スマートからはちょっと粋な楽しさを感じるのです。

こうして直接比較してみると、日本の軽自動車は実に上手に小さいクルマを設計していることがわかります。

軽自動車も含めた「小さなクルマ」でも走りの性能は求められるし、安全性能も必須。ホンダの2台は「ホンダセンシング」と呼ばれる予防安全機能が備わる。

次ページは : ■N-BOXは実用性の傑作だと思う

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