ジムニー vs Gクラスを水野和敏が斬る 価格差10倍!! パワー差10倍!! 

ジムニー vs Gクラスを水野和敏が斬る 価格差10倍!! パワー差10倍!! 

2018年に発売された国産車でもっとも話題をさらったであろう車種は、きっとスズキのジムニーだろう。20年ぶりのモデルチェンジでありつつも、シッカリとファンの心理も掴んだことで評判はいい。

一時期は納期が3年なんて話もあるほど過熱したジムニー商戦。しかし多くのファンが同時に思ったのが「ベンツのゲレンデに似ていない!?」ということだろう。

究極のオフロードを求めるとこんな形になってしまうのか、なんて納得しつつもあまりにも似すぎているような気がする。そこになにか意味があるのか?

今回はベストカーのリクエストでジムニーとベンツ AMG G63を比較。価格差10倍ながらそこには必ず共通するオフローダーのフィロソフィーがあるはず。

元日産のエンジニアにしてR35 GT-Rを開発し、ベストカーでも好評連載中の水野和敏氏が試乗します。プロ中のプロが見た日独オフローダーの印象とは?

文:水野和敏/写真:池之平昌信
ベストカー2018年12月26日号


■性能を追求すると自ずと形が似てしまう

こんにちは、水野和敏です。今回は非常に興味深い2台のオフロード車を評価します。

ともに長年にわたる生産に加え、開発&改良を継続してきて、いよいよ満を持して今年フルモデルチェンジされたニューモデルです。スズキジムニーとベンツGクラス。

それにしても、こうして並べて見ると親子というか、兄弟というか、シルエットは両車とてもよく似ています。これは見ているだけでも楽しくなります。

でもそれは当然のことで、空力を極限に求めるF1レース車の形状が似ていることと同様に、本格的なオフロード性能を追求していけば、自ずと形状は似てくる、ということなのです。

オフロードカーなので空力のことはあまり考慮されていませんが、それでいいのです。「オフロードでの走破性を追求するとこういう形状になる」というお手本です。

デザインが似通っているこの2台。どちらも長い歴史を有するオフローダーだが性能を追求するとこうなるのは致し方ない

このオーバーハングの短さはみごとです。本格的なオフロードの下り坂で凹凸に突っ込んでいくと、フロントのオーバーハングは本当に邪魔。

中近東の砂漠での谷下りではバンパー先端が砂に潜り込み、その後バンパー下から砂を吐き出しながら登り始めます。

バンパー先端下部の形状は、特にジムニーはよく考えられていて、そのようなシチュエーションでも砂をエンジンルーム内部に巻き込みにくい形状です。

スズキの開発者はオフロード車の開発経験が豊富で、なにが必要なことなのかをよくわかっています。空力的には最悪ですけどね。

リアのオーバーハングも凄く短く安心感があります。走りは軽の660㏄ターボではちょっともの足りないのですが、1.5Lディーゼルターボ級のトルクがあれば本当にいいですよね。

この車体形状、パッケージングは免許取り立ての初心者が運転を覚えるにも最適です。

運転席に座れば車体の四隅が自分の身体のように感覚的に掴み取りやすいですし、タイヤの設置位置もわかりやすい。クルマの取り回しを覚えるには最適です。

■CADだけではできない「経験」が生きたジムニーの設計

細部を見ていくと感心します。ブレーキホースはハブの上側を通す配置にしていますが、ガレ場等でホースの破損を防ぐためです。

フロントの牽引フックはバンパー下側に出ていて、最初に当たることで路面干渉時の警報を出す役割も果たします。

サスペンションスイングアームの取り方もよく考えられています。フレームとの結節点との距離を長くとって、大きなホイールストロークでもタイヤのジオメトリー変化を最小限に抑える工夫をしています。

これはノウハウです。コスト的には決して安くはありません。スイングアーム自体の剛性もしっかりととっていて、ガッチリとした作りです。

これは豊富な知見と設計の決断が必要で、最近主流のCADシミュレーション設計ではできない構造です。エンジンルームを見てみると、下がスカスカに空いています。

アンダーカバーが欲しいようにも思いますが、一方、砂漠のようなシチュエーションを考えると、どんなアンダーカバーを付けても砂は入り込んでくる。

だったら下をスカスカに空けておいて入り込んだ砂を排出できるほうがいいという考え方もあります。ただ日本の環境、シャーベット雪道や林道の水撥ね路を主体に使うのだったら、オプションでもいいのでアンダーカバーで侵入を抑えてやったほうがいいと思います。

インタークーラーは小さくて、冷却の効率がいいようには思えない設置位置と構造です。グリルから入った風は、インタークーラー部分に当たっても冷却コアに大きな抵抗があるため通過せず、空気抵抗のない両側の大きな開口部分から大半は横に逃げて行ってしまいます。

バンパー形状にはオフロード走行時に対応するための「経験」が詰まっているものの、インタークーラーの設置場所などは課題があるとのこと

このためインタークーラーの冷却効率はよくありません。これを防ぐためには両側の開口を塞ぎたいところです。吸気温度低下によるエンジン出力向上とエンジンルーム内の部品冷却と水や泥侵入などのバランスを再度確認し、改良開発してほしいところです。

ジムニーはフレーム構造なのでボディ自体はずいぶん簡素な構造設計をしています。もちろんそれでいいのです。フェンダー裏側上部の前後方向には強度の高いメンバーがガッチリと入っています。

これは、乗り心地や操安性のための車体剛性だけではなく、車体下回りを支えるフレームメンバーとエンジンルーム上部の車体構造を、衝突時に上下綺麗にバランスして変形しながら衝撃を吸収させるためでしょう。

さらにはAピラー付け根とバルクヘッドの角にはブレース板を設けてしっかりと強度を出しています。運転席に座ると、フットレストは欲しいです。

軽自動車でしかも3ペダルMTのため足元スペースがギリギリなのはわかりますが、ペダルを右側に少しオフセットしてもいいのでしっかりと踏ん張れるフットレストが欲しい。

あえて突出させた牽引フック。これにはオフロードでの接触などを真っ先にドライバーに知らせる働きもあるという

オフロードをガンガン走る状況を考えると、左足の踏ん張りでしっかり腰を支えたいのです。まったく違ってきます。

シートはクッションの弾力性があって悪くないです。ただ、サイドがもの足りません。オフロードで揺すられた時のホールド性を考えると、もうちょっと腰回りを横にも抑え込んでほしい。

目線の安定につながります。後席は、まあ充分に座れる広さがあります。四角い車体なので頭上スペースには余裕がありますし、左右の広さも充分。

後席左右には大きな物を置ける空間がありますが、オフロードで車体が上下左右に揺られることを考えると、ここには大きなネットを設け、挟み込んで物を置けるスペースにして、飲み水や簡単な食料や救急キットなどオフロードの必需品を安心して置けるようにしてほしい。

オフロード走行時では荷室に置いた物は暴れまくってしまうし、またこのネットで挟み込む物入れはバッグや買い物袋などの生活実用性も高められると思います。

狭い荷室のリカバー策にもなります。上級仕様車の標準装備として開発してほしいと思います。ドアの厚みはずいぶんと薄いですが、側突の基準はクリアしているのですから、しっかりとしたガードバーが入っているのでしょう。リアドアがない車体だから可能だということもあります。

4WDの切り替えは昔ながらのレバー式を採用していますが、これはユーザーの好みを反映したものでしょうか!?

ベンツGクラスの荷室は、さすがにボディサイズが大きいので余裕の広さです。ただ、起毛の生地で覆われているなど、とても豪華な仕上げ。

泥だらけのオフロードでガンガン使うにはちょっと気が引けてしまいます。街乗りの上質なオブジェなのでしょうか?

次ページは : ■Gクラスはラグジュアリーオフローダーだ

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

マツダ6、実は水面下で開発が続いていた!? 注目新車情報、グッズが当たるアンケートも展開「ベストカー4月26日号」

マツダ6、実は水面下で開発が続いていた!? 注目新車情報、グッズが当たるアンケートも展開「ベストカー4月26日号」

終売が報じられたマツダ6はこのまま終わるのか? 否!! 次期型は和製BMW3シリーズといえるような魅力度を増して帰ってくる!? 注目情報マシマシなベストカー4月26日号、発売中!