これが最新の純インド産トラックか! 「インドのベンツ」のライバル車に乗る【インドの中型トラック乗り比べ・後編】

既視感のあるフィーリング?

チェンナイ都心をゆく小型ダンプ。荷台に人が乗っている光景もたびたび見かける(本文とは関係ありません)
チェンナイ都心をゆく小型ダンプ。荷台に人が乗っている光景もたびたび見かける(本文とは関係ありません)

 このY社16トン車を含め、中型バーラトベンツ車と競合するBS6適合車のほとんどが排気量3.3~3.8リッターのエンジンを搭載し、最高出力120~160hpクラス・最大トルク400~500Nmクラスという動力性能を確保していて、概ねカタログスペックは拮抗している。これ以外には、3.0リッターや5.0リッターのエンジンを設定する例もあるが、それらは主流ではない。

 Y社16トン車のエンジンも、「1415R」と近いカタログスペックをもっている。やはり転がりだしの重さは、小排気量に深いギア比を組み合わせるためかと思われたが、しかしご当地の作法どおり引っ張ってやっても、エンジン音がやかましくなるばかりで、トルク感はいっこうに薄く、加速は鈍い。

 そのいっぽうで、トップギアで50km/h前後の巡航は、1500rpmあたりの低回転域が利用できるので、決して実力がないというわけでもない。この奇妙なフィーリングは、10数年前の新短期規制~ポスト新長期規制適合車の一部、大量のEGRを使っていたエンジンを思い出させる。
 
 実はY社16トン車のBS6適合エンジンも、電磁弁を備えたEGRシステムと排ガス後処理装置(DPF+尿素SCR)を併用しているのだ。Y社エンジンが、EGRとしてどれだけ排気を筒内へ戻しているのかは、まったく知る由もないが、NOx低減が目的であればそれなりの量だろう。
 
 ほかにも考慮すべき点がある。それは、Y社16トン車が「1415R」に対してひとつ上の車格で、2トンも重く、タイヤサイズがより太いことだ。しかも使用過程車なので、状態が万全かどうかも不明である。とはいえ、GVW14トンモデルであっても、このエンジンのフィーリング、回してもトルク感が薄いという点は、結局のところ変わらないのではないだろうか。

ユルい持ち味

 Y社16トン車のハンドル(ステアリングホイール)を回した感触は、味気なくただただ重いという感じで、ドライビングというよりも単なる運転作業をしている気分になってくる。しかもステアリングセンター付近での微舵に対する応答性や、明確に転舵した際のクルマが向きを変える動きも、どことなくユルい。

 ギアボックスはシンクロメッシュ付きで、シフト操作はやはり重い。いささか入りにくいところもあったが、これは筆者の技量不足のせいもある。

 ブレーキシステムはABS付フルエア式ドラムブレーキ。やはり踏み心地の硬いペダルを踏み圧でコントロールするタイプで、効きは鋭い。補助ブレーキは1段の排気ブレーキのみで、コラムレバー操作となっている。

 使用過程車それもインドの……という前提であえていえば、高年式車ながらすでに内装はやつれた印象で、ドアと接するウェザーストリップは、角の部分がダランと垂れている。この個体がたまたまそうなのかもしれないが、内装材の仕上げもいささかユルい感じだった。

完成度に表れるトラック創造の歴史

軽トラックとセミトレーラ。どちらも鉄筋を運んでいる。インドは全体的にセミトレーラなど連結車の保有台数は少ないとされるが、チェンナイは工業と貿易が盛んゆえに時折みかけた(本文とは関係ありません)
軽トラックとセミトレーラ。どちらも鉄筋を運んでいる。インドは全体的にセミトレーラなど連結車の保有台数は少ないとされるが、チェンナイは工業と貿易が盛んゆえに時折みかけた(本文とは関係ありません)

 Y社16トン車は、(インド純国産メーカーすべてにあてはまるが)海外メーカーとの技術協力も得て新規開発しているだけに、筆者の期待値が大きすぎた感もあるのだが、意欲的なデザインだが詰めの甘いインターフェースを含めて、走りも造りも全般的にユルいクルマ、という印象を受けた。

 リアルワールドの道路環境が荒っぽいだけに、良路だとかえってあか抜けないドライバビリティにみえたのかもしれない。しかし、同じ国のほぼ同じクラスで、同じように簡素なトラックである「1415R」と比較すると、そこには大きな違い、隔たりを感じてしまうのが率直なところだ。

 インド純国産メーカーはどこも歴史ある企業で、欧州メーカーや日本メーカーとの技術提携からトラックを国産化したが、それを30~40年以上にわたって生産することで、低価格での供給を可能とし、それを市場も望んでいたといえる。
 
 しかし、排ガス規制の強化やインド経済の発展に伴って、インド純国産メーカーがオリジナル車の開発に乗り出したのは、ここ10数年ほど前からと、つい最近の話である。つまり企業としての歴史は長くとも、トラック創造の歴史は浅いのである。
 
 いっぽうバーラトベンツ車は、欧米や日本向けのトラックと比べれば、はるかに質素で低コスト化が図られているが、ダイムラーが蓄積してきたトラック技術とその研究開発力、生産技術、品質確保に関する膨大な知見から生まれている点では、メルセデス・ベンツ車や三菱ふそう車となんら変わらない。「バーラトベンツ=インドのベンツ」というブランドは、このクルマを実によく言い表している。そして、それはインド市場向けトラックの完成度にも、如実に表れていたように思う。

【画像ギャラリー】南インドの主要都市・チェンナイをゆくさまざまなトラックたち!(7枚)画像ギャラリー

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