――本日はよろしくお願いいたします。まず半田さんは、この三菱自動車技術センター(愛知県岡崎市)で電動化の研究をずっとやってきたわけですね。
三菱自動車第一EVパワートレイン技術開発本部・半田和功氏(以下、半田):はい。岡崎の技術センターは、すぐ隣りにテストコースがあって、最初期の開発メンバーは10名くらいでしょうか、我々がここで先行開発をやっていた頃は、自分たちが考えたアイデアをすぐクルマに入れて、すぐ自分で走ることができる環境でした。
――牧歌的な時代があったんですね。それが今や、「電動化」といえば三菱自動車どころか世界のモビリティの一丁目一番地になっていて、隔世の感があります。今は当時(1994年頃?)と比べるといろいろ忙しくなりましたか。
半田氏:そうですね。(電動化に)対応する車種も増えてきていますし、「幅」が広がっているという実感があります。今後もいろいろな車種へ展開することになっているので、出来ることも増えている感じです。
――(板倉氏へ)東京から岡崎まで約300km、アウトランダーPHEVに乗ってきて、どうでしたか?
成城大学自動車部・板倉拓寿氏(以下、板倉氏):まず、そもそも自分はPHEVに乗るのは今日が初めてだったんですけど、とにかく「快適」というのが一番の感想です。車体も大きいし車重もあって、乗る前はちょっと運転が難しいかなと思っていたんですけど、まったく難しくないどころかとても楽で。途中で運転を交代して後席にも乗せていただいたのですが、あまりに快適で寝てしまいました。すみません。
――お気になさらず。寝心地どうでしたか?
板倉氏:最高でした。
半田氏:いやあ、いい感想ですね。運転席では面白く、後席ではもう快適に。運転するお父さんだけ嬉しくてもよくなくて、隣の奥さんであったり後席に乗っているお子さんであったりがいかに快適で乗り心地をよくするか、というのは、このアウトランダーPHEVまさにで狙っていたところなので、大変ありがたい話です。
――次世代技術の柱のひとつとなっている「PHEV」の課題、乗り越えなければいけないハードルはありますか?
半田氏:いきなりその話をしますか。
――一番盛り上がるかなと思って。
半田氏:なるほど(笑)。今回アウトランダーPHEVに乗っていただいて、乗り心地がすごくよかっただとか、快適であるっていうところ、ここらへんは私たちの目指してきたところでもありますし、また四輪の電子制御、S-AWCを中心とする優れた走行性能も、目指してきたところです。ただ、その反面ですね、どうしても値段、車両本体価格が高くなってしまう、というのが最大の課題であると考えています。
――アウトランダーPHEVは今や三菱自動車のフラッグシップカーになっていますしね。
半田氏:そうなんですよ。弊社の最高級車なので、「全部盛り」になっています。ただ最新技術を広めるということを考えると、やっぱりもうすこし頑張って、多くの人の手の届く範囲、手軽な値段で買えるクルマにPHEVを積まなきゃいけないな、とも思います。
――たしかに。
半田氏:ガソリンエンジン走行時の性能も、もっと頑張る必要があると考えています。日常使い、たとえば普段の買い物や通勤はEV走行で賄えるのですが(※アウトランダーPHEVの満充電時のEV走行航続距離は100km超)、たまに遠出した際にモーター走行からエンジン走行に切り替わって、ブルルンってエンジンがかかった瞬間にがっかりした、という声をユーザーの方からいただいていて、これはなんとかしなきゃいかんな……と考えています。
――PHEVやHVに乗っていると、エンジンが起動した瞬間ちょっと損した気分になる気持ちは分かります。電動化を30年近くやってこられて「やっぱりガソリンエンジンが大事だ」という考えになるの、いい話ですねえ。
半田氏:いやいや(笑)、最初からそう考えていました。ハイブリッドってやっぱり「チームワーク」なんです。エンジンがあって、モーターがあって、バッテリーがあって、それがいかにうまく連動してクルマとしての完成度を高めるか、乗っている人を快適にするか、っていうのを考えなければいけないなと。
【参考企画】「絶対に入らないぞ…」からのPHEV誕生秘話!! 気づけば次世代技術のど真ん中に【京都モビリティ会議2024/三菱自動車セッション】
運転がうまくなった気がするクルマ
――板倉さん、ここまでアウトランダーPHEVに乗ってきて、ハンドリングや走行安定性はどうでしたか?
板倉氏:自分はSUVにはあまり乗り慣れていないんですが、ものすごくしっかり走るクルマでびっくりしました。ステアリングは普段自分が乗ってるクルマ(日産180SX)よりちょっと重くて、これは車体が大きくて車重が重いからかなと思っていたんですが、車線変更で操作すると、スッスッと思いどおりに動くなあと。
半田氏:実は今回のマイナーチェンジでステアリングを重めに変更しました。今まではハンドルのクイックさがそのまま車体に出てしまう部分があったので、ちょっと重めにしながらハンドルを切ったら切ったぶんだけぐっと回るセッティングに変えています。ハンドリングの良さ、高速の安定性の良さっていうのはS-AWCと相性がよくて、それが結構効いているのだと思います。
板倉氏:すばらしいと思います。4つのタイヤがそれぞれちゃんと仕事している感じ。運転がうまくなった気がしました。それと車体が大きいのに、扱いやすいから小さく感じました。運転しやすい、扱いやすい感じ。
――今回はEV航続距離も大幅に伸びて、加速性能も向上しました。これは技術的に大きなブレイクスルーがあったのでしょうか?
半田氏:それはやっぱりPHEV専用バッテリーを採用したことです。普通はフルモデルチェンジでやるんですけど、出来たんだからすぐやろう、と。
――三菱自動車ってそういうことをよくやりますよね。いやこれ褒めているんですけども。ランエボとか、モデルチェンジなみの進化を毎年やったり。
半田氏:そうですね(苦笑)。今回、冷却性能を上げて、バッテリー自体の内部抵抗を小さくしたものですから、発熱を抑えられていて、そのうえで出力をしっかり求めています。バッテリー性能を上げるというのは二つの側面があって、ひとつはEV航続距離を伸ばすこと、もうひとつは出力/トルクの向上。アウトランダーPHEVのキャッチコピーは「威風堂々」ですから、それに見合うだけの走行性能を与えようということで、しっかり踏めばしっかり走るクルマに仕上げました。
――先ほどもすこし話に出ましたが、アウトランダーPHEVって三菱自動車のフラッグシップカーですよね。ということは、このクルマに採用された技術は、そのうちもう少し小さいSUVだとか、あるいはコンパクトカーや軽自動車へ広がっていくと考えていいんでしょうか?
半田氏:仰るとおりです。三菱自動車の電動車戦略を考えた時に、我々としましては、PHEVやS-AWCをコア技術としつつ、小さい軽自動車や、いまアセアン地域で出しているハイブリッド(HEV)にも生かしていきます。
――PHEVは今や三菱自動車のコア技術に。なるほど。半田さんの中では、いつ頃からこれ(PHEV)は主流になるかもしれない……という予感があったんですか。
半田氏:いやいや、まだ主流にはなってないと思うんですよ、PHEVは(笑)。ただ「もしかして、これ、いけるかも」と思い始めたのは、10年くらい前にPHEVのプロトタイプを東京モーターショーとかに出してお客さんに話を聞いたら「これいいね」と言っていただいた頃ですね。家で充電しておけば50~60kmは走れます、遠出したい時はガソリンを給油していけば何百kmでも走れます、というと「いいですねえ」と言っていただけて。
――前回のジャパンモビリティショー(2023年10月)で、「三菱はPHEVでいく」と宣言したわけじゃないですか。いかがですか、あの時にスポットライトがピカーッと当たった気分は。
半田氏:その話(「PHEVを三菱自動車のコア技術とする」という話)を聞いたのは2023年よりもうすこし前だったんですが……そうですね、「本当にいいんかい??」と思いました、ずっと会社の隅っこで仕事していたもので(笑)。
――若者的に「PHEV」という存在をどう思いますか?
板倉氏:いやもう、いま伺った話が「その通りですね」というか。自分も普段の使い方は50-60km圏内なので、そこは充電したぶんだけで、つまりガソリンスタンドに行かなくても使い続けられるってことですよね。
――そうですね。若い人にはガソリン代って切実ですもんね。
板倉氏:めちゃくちゃ大事っす。もうほんとキツくて。
――電動車を語る上で大事な点がもうひとつあります。PHEVの給電性能の高さについてです。災害大国である日本において、電気というライフラインが途絶えた時に、近所に一台アウトランダーPHEVが、つまり巨大なバッテリーがあれば、自分の家だけでなく隣の家くらいまで助けることが出来るわけですよね。
半田氏:まず、災害は起こってほしくないです。そのことが一番手前にあります。そのうえで、もし災害が起こってしまった時に、なにかの手助けができるのはすごくいいんじゃないか、というのは常に考えています。「あんなに大きなバッテリーを持っているのに動くことしかできないのか」、「これなにかに使えないのか」、と言われたことがあるんですよね。
――そんなことを言われたんですか。
半田氏:まだ我々がアウトランダーPHEVを出す前に、東日本大震災が起こりました。
――あ、ああ……。
半田氏:もちろんあの頃に戻って何か出来たかもしれない……という想いはあるんですが、せっかく大きいバッテリーが家のすぐそばにあるのであれば、「いざ」という時には役立てていただきたいと思います。また、自分の家だけでなく、隣の家、集合住宅に駆け付ければ、数日くらいは「明かり」を灯せるってすごく大きいと思うんですよ。
――とても大事なことだと思います。
半田氏:災害の時に停電で街が真っ暗になった時に、ひとつでもふたつでも電気がつくと、すごくホッとしますよね。そういうことができる技術でもあるわけです。
板倉氏:すごくいい話だと思います。広まってほしい。
――そうするとやっぱりもうすこし安い価格から乗れるクルマに積んでもらいたいですね。
半田氏:がんばります。
「2030年、2050年のクルマ社会」はどうなっている?
――最後のお題です。将来のモビリティ社会について伺えればと思うのですが、いかがでしょうか。個人的な考えで結構ですのでお聞かせいただければと思います。
半田氏:そうですね……やっぱり電動化はどんどん進んでゆくと思います。ただ、もともと予測されていた状態よりは、ちょっとまだ時間がかかるのかなとも思います。少し前までは「何が何でも全部電動化!」という雰囲気でしたが、いまはそういうことを言う人も減ってきました。そのうえで、走行時のCO2削減は大事だし、給電機能を持つ車両が街中にたくさんあることも大事だし、走行性能への恩恵も大きいので、電動化は進んでいくでしょうけれども、地域の事情に合わせて内燃機関を持つ車両も大事だよね、という考えも広まっていますし。
――たとえば2030年の時点では、まだまだまだ多様な車両がたくさん残っている、と?
半田氏:はい。2030年ぐらいだと、純粋な内燃機関車の新車販売はだいぶ減っているだろうなとは思いますが、それでも「内燃機関が好きだ」という人たちはいなくならないだろうし、その先も残ってゆくだろうと思います。
――なるほど。2030年だと現役真っただ中の世代としては、いかがですか、いまの話。
板倉氏:そうですね。就職して、ちょうど仕事にも慣れてきてみたいな頃かなと思います。正直にいえば、ずっと憧れていた時代が本当のクルマ、カーカルチャー全盛期の頃の内燃機関車なので、電動化には思うところはあります。でも結局ある程度はそういう内燃機関が大好きな人たちはずっと残っていくだろうし、自分のようなクルマ好きに向けたクルマも残っていてほしいなとも思うんですよね。
半田氏:これはすこし話が脱線しちゃうかもしれないんですが、いまクルマっていうのは安全であったり快適であったりという方向に進んでいて、これは電動化が得意な部分ではあるんですね。性能の進化が目的と合致しているところがある。
――ふむふむ。
半田氏:じゃあそういう最新技術が詰め込まれたクルマがワクワクするか、ドキドキするか、あの頃のクルマのように「なんかそこらじゅうガタガタいってるけど、運転ってこんなに楽しいのか!」と思えるかというと、それは方向性は異なると思うんです。音は小さいほうがいい、走っていてもガタガタしません、ということばかり得意になっていくのはちょっと違うんじゃないかなと。
――クルマのコモディティ化というか、無味無臭の乾燥した「機器」に思えてしまう気もします。大事なんですけどね、安全も快適も。
半田氏:そうそう、安全も快適も大事です。それで、そういう需要に応えるために内燃機関車(ICE)が残っていくとは思うんですが、それとは別に、たとえば我々がやっているS-AWCというのは、「意のままに操縦できる、運転できる」ということを目指し続けているんですね。アクセルレスポンスのよさやハンドリングのよさ、クルマに乗せられているのではなく、クルマを操る楽しさは突き詰め続けていきたい。
――「京都モビリティ会議2024」で別のメーカーさんにお願いしたことですが、ちょっと疲れた時は「電気自動車モード」で安全で快適でぼんやり乗っていても大丈夫、今日は運転するぞという日は「内燃機関車モード」でバリバリ走る、というのが出来るといいんですけどね……。
半田氏:それを目指したのが、アウトランダーPHEVに装備されたS-AWCの「7つのドライブモード」です。疲れている時は「NORMAL」や「ECO」モードで走ってもらって、今日はバリバリ走りたいぞという時は「POWER」や「TARMAC」モードを使ってもらいたい。
――おお、なるほど。
板倉氏:ちょっと帰りに試してみます。
半田氏:ぜひ試してみてください。楽しいと思います。
板倉氏:これはぼくだけでなく若いクルマ好き全般に言えることだと思うんですが、別にEVが嫌いだとか電動化反対と思っているわけではないんですよね。どんなものか分からないし、値段も高くて触れる機会がないっていうだけで。だから今日、こういう機会をいただけて本当にありがたかったです。
半田氏:いえいえ、こちらこそ、そう言っていただけて大変ありがたいです。今日、乗ってもらえて本当にうれしい。
――「京都モビリティ会議2024」の三菱自動車トークセッションのYoutube動画、大変好調でした。ただ視聴者属性を見ると、なんと「男性100%」。
半田氏:うちの会社らしいなー(笑)。
――視聴者数は7000回を超えて好調だったんですが、18-24歳の視聴率は0.6%でした。ただ、そのうちの一名、今日ここにいる板倉さんの心にはおおいに刺さったようです。
板倉氏:めっちゃ刺さりました。
半田氏:いやもうそれで充分です。ありがたい。
――本日は本当にありがとうございました。引き続きがんばってください。
半田氏:ありがとうございました。
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