段ボールに入った小口貨物やトラック用のパレット、航空貨物や国際海上コンテナなど、世界的なロジスティクスプロバイダーであるDHLは、こうした一般的な荷姿の貨物も運んでいる。しかしこれらはDHLが運んでいるモノの、ほんの一部だ。
2024年12月9日、DHLは年末特別レビューを公開し、2024年に運んだ5つの「普通じゃない積荷」を振り返っている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Deutsche Post AG
障がいを持つチンパンジーが新しい家に
2024年8月、DHLは障がいのあるチンパンジー、「ショコラ」をケニアから英国ドーセットの類人猿レスキューセンターに輸送した。2001年にショコラの母親は密猟者に殺され、まだ幼なかった彼女も散弾銃の弾丸を受けて手足に麻痺が残った。
救助され20年以上に渡りケニアで保護されてきたショコラだが、より優れたケアを提供できる専門施設が必要で、DHLが彼女に英国への「旅」を提供した。ナイロビから英国のイーストミッドランズ空港まで空路で、そこからドーセットまでは陸路で移動した。
フルーツやサツマイモを入れた特注の木箱が旅の快適さを保証し、専門家のチームが同行した。新しい家に元気に到着したショコラは、そこで暮らす6匹のチンパンジーと出会い、新しい家族を手に入れた。
ジェームズ・ボンドの遺物
DHLはプラハの「ボンド・イン・モーション」展からウィーンの「007アクション」展まで、映画「007」シリーズに登場するジェームズ・ボンドの記念品130点以上を輸送した。この「遺物」には、27台の自動車と、8台のオートバイ、さらにジェームズ・ボンドの運転免許証や衣装・パラシュートなどもあった。
同作の「ボンドカー」を象徴するアストンマーティン・DB5は、映画史上でもっとも有名なクルマの一つで、ボンド映画8本に登場する。他に全長8メートルの「アイスドラッグスター」やボンドが破壊したヘリコプターなども輸送した。
DHLはこれらを輸送するため油圧リフトを備えた特殊な密閉型車載車など22台のトラックを活用し、輸送中の積荷の保護に最大限の配慮を行なった。
ハゲワシの大移動
絶滅の危機に瀕している動物の保全のため、画期的な輸送が2024年1月に行なわれた。DHLは163羽のケープハゲワシとコシジロハゲワシを、南アフリカのプレトリア近郊のリハビリ施設から、同国東ケープ州にあるシャムワリ野生生物保護区に移送した。
絶滅の恐れがある鳥たちが、人間との接触を最小限に抑えながら野生で繁殖できる環境を整えるために、様々な非営利団体がこの活動を支援した。移動距離にして約1000kmに及ぶこの輸送は、これまで行なわれたハゲワシの移送プロジェクトとして最大規模だ。
DHLは34トンのトラック2台と、サポート・警備車両5台を使用した。50名を超えるボランティアが約3時間をかけて貴重な鳥類をトラックに積み込み、18時間の旅はスムーズに進んだ。この取り組みはハゲワシの個体数を回復させるためのより広範な取り組みの一環だという。
日本にシンフォニーを届ける
英国を代表するオーケストラの一つ、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の日本ツアーが2024年9月に行なわれた。世界的なオーケストラの楽器輸送は、非常に複雑な輸送だ。
コントラバス、チェロ、ティンパニ、ハープなど約60の貴重な楽器を、英国から静岡県の「アクトシティ浜松」までDHLが輸送した。空路と陸路、合計9500kmの旅路は綿密な計画に基づいて行なわれ、たとえば木製の楽器の反りや割れを防ぐため常に摂氏17~21度の温度を保つ必要があったほか、衝撃吸収用のケースも特注した。
タイトなスケジュールにもかかわらず、すべての楽器が完璧な状態で時間通りに到着し、浜松で始まったツアーは、名古屋、大阪を経て東京で完結した。