同一車種なのになぜ基本スペックに差が? ボルボとルノーが長距離バッテリーEVトラックの航続距離を拡大した手法とは!?

同一車種なのになぜ基本スペックに差が? ボルボとルノーが長距離バッテリーEVトラックの航続距離を拡大した手法とは!?

 ボルボグループの大型バッテリーEVトラックとしては、2025年5月にボルボが、同11月にルノーが長距離輸送用のフラッグシップモデルを発表している。姉妹ブランドのいわゆる「OEM供給車」に当たり、基本的には同一車種となる。

 このトラックは当初「最大航続距離600km」と発表されていたのだが、BEVで最重要スペックとなる航続距離について、両社とも最終仕様で変更している。ボルボは2026年4の発表で「700km」に、ルノーは同6月の発表で「660km」とした。

 もちろん短期間でハードウェアは変えられない。両社が航続距離を拡大した手法とは?

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Renault Trucks・AB Volvo

ボルボグループがBEVトラックの航続距離を拡大した手法

ボルボの「FHエアロ・エレクトリック」航続距離延長版
ボルボの「FHエアロ・エレクトリック」航続距離延長版

 バッテリーパック8基による総容量780kWhの大型バッテリーEV(BEV)トラックは、ボルボと同社の姉妹ブランドであるルノー・トラックスの両方から発表されている。

 2025年5月にボルボが長距離輸送用の大型BEVトラックを公開し、同11月にルノーが「E-Tech T780」を発表した。いずれも航続距離は600kmで、両ブランドで共有する同一車両であることは明らかだった。

 ところが、2026年4月にボルボが航続距離を拡大した「FHエアロ・エレクトリック」(Volvo FH Aero Electric with extended range)を正式発表した時、航続距離がプラス100kmされて「最大700km」になっていた。また、ルノーは同6月に最大航続距離を「最大660km」に変更した。BEVで最も重視されるスペックは、なぜ突然変わったのだろうか?

 リチウムイオン電池を利用する現代人のほとんどが理解しているように、バッテリーの総容量と利用可能容量は異なる。過度の充放電はバッテリーの劣化を早めるため、バッテリー寿命への影響を考慮してメーカーがマージンを設定しているわけだが、両社が航続距離を拡大した手法も、一言で言ってしまえば利用可能容量の設定値の変更である。

 両車がバッテリーとして採用するのは高いエネルギー密度を誇り、その反面として熱暴走を防ぐため厳密な熱管理が必要とされるNCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム)系のリチウムイオン電池で、サムスンSDI製。BEV乗用車でもパフォーマンスが求められる車両で採用実績のあるバッテリーだ。ルノーの発表によればバッテリーパックは従来の長方形ではなく、一部がフレーム構造の下に潜り込むL字型とし、限られたスペースを有効活用している。

 780kWhの総容量のうち、従来は624kWhが利用可能としていた。ボルボの発表ではそれが725kWhとなっており、利用可能容量の比率を表す「ウィンドウ」は、約80%から95%近くまで拡大した計算だ。マージンを多く取る欧州メーカーとしては異例の値だが、中国メーカーの中には同等以上の値を謳っているメーカーもある。

 トラックの電動化で欧州メーカーの先頭を走ってきたボルボグループの経験に基づく値のようだが、同時にバッテリー管理システムの機能向上や、車載ソフトウェアのアップデートも航続距離の延長に寄与しているのだろう。

大容量バッテリーのために妥協も必要?

同一車種なのになぜ航続距離に差が? ボルボとルノーの長距離バッテリーEVトラックの「謎」とは!?
基本的には同一車ではあるが、ボルボとルノーで最大航続距離は異なっている

 780kWhというバッテリーは欧州の大手トラックメーカー7社の中でも最大容量となるが、これを実現するためにいくつかの変更が必要だった。その一部は「妥協」というべきものだ。

 一つは駆動方式の変更で、従来、同社はセントラルドライブ方式を採用していた。電動モーターがプロペラシャフトを介して後輪を駆動するセントラルドライブ方式はディーゼル車との相違点が少なく、同じプラットフォームを活用できる。ただし、フレーム下にドライブトレーンを配置するためバッテリー搭載スペースが限られ、8基もの大容量バッテリーを搭載するには不向きだ。モーター+トランスミッションを駆動軸に組み込んだ電動アクスル方式への変更が必要だった。

 もう一つの問題は重量となる。バッテリーパック1基あたり約600kgという重さがあるため、8基で5トン弱という計算に……。この重量を支えるためフレームやバッテリーハウジングにも補強が必要となり、重量は更にかさむ。トラクタ単体での総重量は13.3トンに達する。欧州の長距離トラクタは一般的に4×2だが、後軸の許容軸重は11.5トン。荷物を積んだ実入りトレーラを連結すれば確実に軸重オーバーとなる重量である。

 そこで操舵可能なタグアクスルが加えられ、長距離トラクタでありながら6×2となる。最後軸は重量を支えるためのもので、小径タイヤを履く。これにより後軸の許容軸重は16トンに増加するが、当然の帰結としてトラクタ全長は伸びてしまう。

(ちなみにバッテリー搭載スペースを確保するためホイールベース(WB)を伸ばすという手法もあり、スカニアのBEVはディーゼル車よりWBが長くなっている。また、キャブバックにバッテリーを搭載するタワーを備える手法も中国メーカーなどに採用例があるが、この場合も第五輪位置をオフセットするためWBは長くなる。手法は異なるが、大量のバッテリーを搭載しようとすると、結果的にトラクタの前後長は長くなってしまうようだ)

 このため、欧州で標準化している全長13.6メートルのトレーラと組み合わせた場合、欧州の連結全長規制の最大値である16.50メートルをオーバーしてしまう可能性があるのだが、タグアクスルを操舵軸としたことで旋回半径の要件をクリアし全長オーバーが認められるという。なお、欧州では45FTコンテナを前提に15cmの全長オーバーが認められているほか、英国で規格化されている長大トレーラ(LST)は最後軸をセパレートの操舵軸とすることで旋回半径を同等とし、トレーラ全長15.65メートルを実現している。実際の規制値はEU加盟国によっても異なるが、欧州の全長規制は幅・高さ・軸重などと比べると比較的「緩い」規制だ。

 ただし積載量への影響はいかんともしがたく、トラクタ重量13.3トンに対してトレーラ重量を10トン強とすれば連結車両重量は約24トンに。欧州の一般的な(例外がある)GCWの制限値である40トンから差し引きすると最大積載量は約16トンという計算になる。ゼロ排出車に認められる4トンの重量緩和を含めてもペイロードとして確保できる重量は最大20トン、GCWの制限値内で24トンを確保できるディーゼル車には及ばない。

 積載重量を求めるユーザーのため、ボルボグループはバッテリーパックを減らした構成も提供する。バッテリーが6基少ない構成では、単純計算で重量は4トン近く軽くなるため(バッテリーだけで6×600kg = 3600kg)、ディーゼル車と同等の積載量を確保できる。ホイールベースも短くなるため連結全長を短くする効果も期待できる。なお、EUはモーダルシフトを推進するためインターモーダル輸送(複数の輸送モードを組み合わせた輸送)に対しても最大4トンの総重量緩和を認めている。この分を合わせたGCW48トンという条件下では、バッテリー構成によって最大積載量は28トンに達する。バッテリーは「多いほど良い」ものではなく、用途に応じた構成が重要とされる所以だ。

 興味深いのは保証期間で、ルノーのプレスリリースによると標準のワランティ(BEVではバッテリー健全性80%以上を保証する期間となる)は「6年・72万km」となるようだ。トラックは乗用車より走行距離・利用期間が長く、欧州メーカーはディーゼル車に「10年・120万km」のような保証を付けることが多い。また、従来のBEVトラックでは「8年・100万km」だった。やはりバッテリーのウィンドウを拡大したことによる製品寿命への影響は相応にあると思われる。

 BEVトラックの普及が進むなか、航続距離・積載量・バッテリー寿命という複雑なトレードオフ関係を、商用車のユーザーはどう評価するだろうか?

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