トラックに適した利用方法は「グリーン水素」の地産地消
トラックの燃料が化石燃料から水素に代われば道路輸送分野のCO2排出量は大幅に少なくなるとされる。ただし、チャルマース工科大学の研究によると、水素の製法、輸送法、利用法により環境への影響は大きく異なるという。
同大学は昨年、スウェーデンにおける長距離トラック用燃料として水素のライフサイクルアセスメントを実施し、その結果をオープンアクセス論文として公開している。結論から言うと、現地で小規模生産されるグリーン水素を利用するのが、環境面からは最も良いそうだ。
また、水素の現地生産はエネルギーの自給自足という付加的な価値を持ち、ウクライナでの戦争やホルムズ危機に直面し、社会・経済の「レジリエンス」という観点からも評価が必要となっている。
大型トラックによる道路輸送は、世界の石油消費量のおよそ5分の1を占める。EU圏では大型ディーゼル車は、輸送に関連したCO2の最大の排出源だ。バッテリーによる単純な代替が困難な大型車では、水素燃料が脱炭素化の有力な選択肢となっている。
チャルマース工科大学の研究は、大型トラックの燃料としての水素のポテンシャルを、製造、輸送、使用の各段階で包括的に評価した。
論文の筆頭著者で研究当時はチャルマース大学のポスドク(博士研究員)だったホルヘ・エンリケ・ベランディア・バルガス氏は次のように話している。
「水素は燃料電池で使用した場合、CO2を排出しません。しかし、ライフサイクルの一部の段階から、別の段階に排出量を移動しただけでは意味がありません。スウェーデンにおける様々なシナリオを考え、それぞれのライフサイクルで技術を評価することにしました」。
大型車の燃料に水素を利用することでCO2排出量を大きく減らす可能性はあるが、扱い方によって環境への影響はかなり変わる。研究は、スウェーデン以外においても様々な選択肢を検討する上で重要になりそうだ。
「ブルー水素」に疑問符?
研究によって一つ明らかになったのはブルー水素に関するものだ。天然ガスの改質とCO2キャプチャーによるブルー水素は、これまでトラック燃料の有力な選択肢とされてきたが、グリーン水素より環境負荷が高くなるという。
その理由について同大学准教授で共同著者のマリア・グラン氏は次のように説明している。
「ブルー水素は理論上は環境中立を実現可能ですが、実際には不可能です。改質プロセスから出るCO2を全て回収することができないからです。5~10%はどうしても大気中に放出されてしまいます。また、原料となる天然ガスの供給網からはメタンの漏れを避けることができません。メタンはCO2の30倍の温室効果を持っています」。
天然ガスの代わりにバイオメタン(微生物による発酵など、バイオマスを利用して製造したメタン)を利用できることがブルー水素の強みで、バイオメタンは食品廃棄物などからも製造できる再生可能燃料だ。バイオメタンとCO2キャプチャー技術を組み合わせることで、理論上のCO2排出量はマイナスとなる。つまり「バイオメタンによるブルー水素」はCO2を吸収する「カーボンネガティブ」燃料と言える。
しかしながら、このプロセスでもCO2のキャプチャー&貯蔵のためのインフラが必要で、それぞれの工程がエネルギーを必要とする。研究者たちは、エネルギー効率を考えると、バイオメタンをそのままトラック燃料として利用したほうが効率的だと指摘する。
水素単体でのカーボンネガティブを実現しても、製造プロセスに余分なエネルギーを消費しており、むしろ既存の天然ガストラックでバイオメタンを利用したほうがライフサイクル全体での排出は少なくなるという結果だ。
研究によると、環境面で最適な水素はグリーン水素だ。再生可能エネルギーにより水を電気分解して得られるものだが、研究者は製造工程と使用における排出の少なさが際立っていると指摘する。水素はありふれた物質なので天然資源に依存せず、世界中のどこでも製造可能だ。
「最近では『レジリエンス』について話す機会が多くなりました。つまり不安定な世界情勢に、社会や国家が対応する能力についてです。エネルギーの自給自足は、脱炭素と同じくらい重要です。私たちはウクライナでの戦争でそれを痛感しました。水と太陽光、もしくは風力で製造できる水素は、世界のどこでも製造することができます」。(グラン氏)
