そもそも「HPDIシステム」とは?
ウェストポートのHPDIシステムは「High Pressure Direct Injection」の略で、直訳すれば高圧直噴システムとなる。その名の通り、高圧の筒内に燃料を直接噴射するシステムだ。
OEM(メーカー)向けの燃料システムで、バイオガス(成分としてはメタンを主成分とする天然ガスと同じ)、天然ガス、水素やその他の燃料を内燃機関で燃焼することを可能にする。従来のディーゼルエンジンがベースとなっているためメンテナンス作業などは共通しており、コストはほぼ変わらない。
実際にボルボは大型トラックの天然ガスモデルに「LNG HPDI」を採用している。
燃料を軽油からバイオガスや水素などゼロカーボン燃料に切り替えることで、脱炭素を実現しつつ、メンテナンス性、耐久性、入手性、効率性、パフォーマンスなどの特徴はベースとなるディーゼルエンジンを踏襲する(水素を燃焼する場合、高い熱効率から出力は向上するという)。
ディーゼルエンジン技術に基づきつつ、燃料タンクからエンジン内部までの全てを総称するシステムとなっており、燃料タンクとポンプ、シャシに設置するコントロールユニットとマニフォールド、エンジン側のレギュレータやインジェクターなどを含む。
中でも中心的な役割を果たすのが特許技術の二重同心針構造のインジェクターだ。このインジェクターにより少量のパイロット燃料(軽油またはバイオディーゼルなどの再生可能燃料)をシリンダー内に先行噴射することで遅行噴射するメイン燃料のイグニッションを導く仕組みとなっている。
パイロット噴射する燃料が高筒内圧により圧縮着火するため(メイン燃料はこれにより燃焼プロセスを開始)、事実上の直噴エンジンであり、着火に必要な燃焼室内の高圧と、高馬力・高トルクを実現する。従ってHPDIを採用するエンジンは、(ガソリンエンジンのような火花点火方式とは異なり)燃料の性状に関わらずディーゼルエンジンと似た特性を持つ。
ベースエンジンからHPDIへの転換は比較的容易とみられ、水素エンジンのデモとしてIAA2022で初めて公開したトラックはボルボのFHトラクタだったものの、およそ半年後に日本のFCエキスポで展示したのはスカニアの13L級エンジンをベースとするカットモデルだった。
HPDIの用途としては長距離輸送用の大型トラックや鉱山などのオフロード車両、鉄道機関車、船舶用エンジンに向いているとされ、パフォーマンスや燃料効率、輸送における航続距離といったニーズを満たしながら環境インパクトを低下することのできる選択肢となっている。
【画像ギャラリー】内燃機関で脱炭素? ウェストポートの水素エンジン技術を画像でチェック!(8枚)画像ギャラリー