物を運ぶトラックにとって、どれだけの重さの荷物を運べるか、最大積載量は大きな関心事である。
メーカーでは「穴」のないよう、さまざまな積載量のトラックを揃えているが、このほどそこにドデカい穴が空いてしまった。
その原因は、そう、あのメーカーが製造していたあのクルマである。ここでは、ダイハツの不正による3型式指定取り消しの余波を、最大積載量の観点から考察してみたい。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/フルロード編集部・トヨタ自動車・ダイハツ工業・マツダ
ダイハツが製造する3型式指定取り消しの影響
「特に悪質な不正行為」と斉藤鉄夫国土交通相に決めつけられたのは、ダイハツ工業が製造している「グランマックス」、トヨタにOEM供給している「タウンエース」、マツダにOEM供給している「ボンゴ」の3車種である。
この特に悪質な不正は、衝突試験の際、本来はセンサーが衝撃を感知してエアバックが作動するものなのに、それをタイマーで作動させてエアバックを開かせていたというのだから、「自動車の認証制度の根幹を揺るがし、ひいては日本の製造業の信頼にかかわる」と斉藤国土交通省が怒るのも尤もである。
もちろんメーカーのみならず。販売店や架装メーカーなど多方面に影響が及ぶし、再度「型式指定」を取得できるのがいつになるか、今はまったく見通せない状況だ。
今回俎上にのぼったグランマックス3兄弟は、ダイハツとトヨタが共同開発した小型貨物車両で、ダイハツのインドネシアの生産拠点であるアストラダイハツモーターで製造されており、アジア向けに販売もされている。
日本自動車輸入組合のデータによると、昨年1年間の日本市場への導入は、ダイハツが488台、マツダが2213台、トヨタが1万8822台で、合計2万1523台。
グランマックス3兄弟には、いずれもバンとトラックがあるが、このうち型式指定が取り消されるのはトラックタイプのみである。トラックタイプはバンの3分の1程度の台数と見られるので、先ほどの合計台数うちトラックタイプは7000台程度とみられる。
350kg~1000kgの間が最大積載量の空白地帯に
約800kgの積載量のグランマックス3兄弟が販売できないということは、ユーザーには非常に困った事態である。これに充当する車両が日本にはもはや存在しないからだ(ピックアップトラックは除く)。
他メーカーでいえば、かつてはボンゴトラックやデリカトラックがあったわけだが、ボンゴトラックは2020年に、デリカトラックに至っては1999年に販売を終了している。
では、その下のクラスはどうか? 800kg積みトラックの下は、いきなり軽トラックである。つまり最大積載量は350kg。グランマックス3兄弟の半分以下ではあまりにも非力であろう。
では、上のクラスはどうだろう? もちろん上には、車両総重量25tの大型トラックまでラインナップしているが、ここは現実的に普通免許で運転できる車両総重量3.5t未満の小型トラックの括りで探してみよう。これらは一般的に1tクラスと呼ばれるように1t積みのトラックだ。
普通免許で運転できる1tクラスの小型トラックは現在3台の候補が存在する。ただし、そのうち2台はBEVトラックである。1台は日野デュトロZ EV、もう1台は発売されたばかりのいすゞエルフミオEVだ。
BEVトラックはまだ敷居が高いという向きには、残り1択しかない。それがトヨタダイナのガソリン車である。2リッターのガソリンエンジンを搭載することで1tクラスの小型トラックを成立させているクルマだ。
ただし、今年もう1台、ディーゼルエンジンを搭載しつつ、普通免許で運転できる1tクラスの小型トラックが登場することが明らかにされている。
どういうわけか発売はBEVが先になってしまったが、それがいすゞエルフミオである。エルフミオは、同社のピックアップトラック「D-MAX」などに搭載されている1.9リッター直噴ターボの搭載などにより、車両総重量3.5t未満を達成したクルマで、今年中の発売を予告している。
ということで、グランマックス3兄弟の穴は、大は小を兼ねるで、ダイナのガソリン車、もしくはエルフミオの発売を待つのが現実的だと思うが、いやいや、本当に現実的か?
800kg積みと1t積みというわずかな差ながら、ビルトインフレームベースのグランマックス3兄弟とセパレート式ラダーフレームを有する1t系小型トラックでは、価格もさることながら使い勝手もだいぶ違うのだ。これでグランマックス3兄弟が抜けた穴を充当するというのはかなり無理があるのではないか。
たとえば、日野自動車の不正問題の際は、場合によっては他メーカーの車両を購入するという選択肢があったが、グランマックス3兄弟の場合は他に代替できる他メーカーのクルマがなく、まったく手立てがないのである。
今日のクルマづくりがOEM頼りになっていることも遠因かもしれないが、要望する積載量に見合うクルマがない、空白地帯になっているというのは非常にマズいのではないか。
せめてこのクラスがさほど売れ筋車種でないことだけが救いかもしれないが、それでもユーザーは確実にいる。ラストワンマイルの物流ニーズに応えられない事態だって想定される。
型式を再取得するにしても、まだまだ長い時間がかかるはずだが、その間、ユーザーはどうしたらいいのだろう? メーカーには、ユーザーに対する責任をはじめ、さまざまな社会的責任が課せられている。
まず向き合うべきは国交省や親会社ではない、真摯に向き合うべきはユーザーのはずである。ダイハツはこのことを肝に銘じるべきだろう。
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