高温ガス炉とは
水から水素をつくる技術として、以前から知られていたのが「高温ガス炉」です。いったい何者なのか想像のつかない字面ですが、ひと言でいえば、「高圧のヘリウムガスを冷却材とする、高温で運転可能な次世代原子炉」です。
「高温で運転可能」というのは、冷却材に水を使う軽水炉(日本を含む世界各国の商用原子炉で用いられる方式)が摂氏280度で運転するのに対して、高温ガス炉は摂氏950度(原子炉出口冷却材温度)と、3倍の温度域で運転できるからです。そのために炉心構造もそれまでにないものですが、本稿では原子炉技術の解説は置いておきましょう。
この高温を、高圧ヘリウムガス(炉心を冷却しても放射性を帯びず、かつ不活性なガス)で炉外へ運び、水素製造プラント、ヘリウムガスタービン発電プラント、淡水化プラントなどで活用することが、高温ガス炉の用途として考えられてきました。
最初は高温ガス炉と現行水素製造プラントを接続
日本原子力研究開発機構(原子力機構)では、過去30年以上にわたって高温ガス炉の研究をしています。茨城県大洗町にある研究用高温ガス炉「高温工学試験研究炉(HTTR)」では、実際に原子炉を稼働させて、すでに高温連続運転や炉心冷却喪失試験を完了しています。高温ガス炉は現在、日本と中国にしかなく、その研究は先駆的といわれています。
そして2022年度から、経産省の「超高温を利用した水素大量製造技術実証事業」として水素製造の実証プロジェクトに着手しています。これも世界を先駆けるプロジェクトです。
HTTRによる最初の水素製造試験は、現時点でもっとも普及している水素製造法である「メタン水蒸気改質法」を用いた既存の水素製造プラントをHTTRと接続し、2030年度までに水素製造試験を行なう計画です。それまでに、高温・高圧のヘリウムガスを原子炉~プラント間で安全に往来させるための「機器」「配管システム」の技術も確立する予定です。
この段階では「水から水素」ではなく、原料となる天然ガス=メタンを水蒸気(水)と反応させて、水素と一酸化炭素へ改質させるものとなります。改質に必要な摂氏750~900度もの高温は、通常は化石燃料を燃焼して発生させていますが、これを高温ガス炉の高温ヘリウムガスに代えることで、製造時のCO2排出量はゼロとなります。
なお、HTTRに装荷される燃料集合体に含まれるウランは約4kgで、プラントで燃焼して使う化石燃料と比べると、はるかに少ない製造コストで済むそうです。つまり現状の製造方法でも、水素価格を引き下げられる可能性があるわけです。ちなみにHTTRは、研究炉といっても30メガワット(MW)という発電所クラスの出力をもっています。