国土交通大臣は3月22日、新たな「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃(以下「標準的運賃」)」の告示を行なった。
昨年から見直しに向けた検討会を重ねてきた同改正案は、運輸審議会の答申を踏まえ、今回正式に「標準的運賃」を改定。平均約8%の運賃水準の引き上げや、これまで告示で料金設定していなかった積込・取卸料、下請け手数料などを新たに設定した。
文/トラックマガジン「フルロード編集部」、写真・図/フルロード編集部・国土交通省・中小企業庁
トラック事業者の課題と「標準的な運賃」制度
物流業界においては、労働環境改善・適正運賃の受給に向けたさまざまな取組みが進められているところだが、依然としてトラックドライバーの現状は、他産業平均より約2割長い労働時間や約1~2割低い所得などの課題が常態化している。
中小企業庁が1月12日に発表した直近の価格交渉促進月間(23年9月)のフォローアップ調査では、「トラック運送」における価格転嫁率はやや改善がみられたものの、業種ランキングで最下位(27位)。
また「価格交渉は行なわれたが、全く転嫁できなかった企業の割合」は全体平均11.4%に対し「トラック運送」では28.9%と、こちらも全業種中最下位である。
いっぽう価格交渉においては、前回(23年3月)の調査の26位に対し22位へと上昇しており、交渉意欲は「2024年問題」を見据え高まりつつある。
「標準的運賃」制度は、こうした価格交渉等で活用し健全な事業運営を行なっていく際の参考指標として創設されたものだ。
今回改正は、間近に迫る「2024年問題」を踏まえ、ドライバーの賃上げの原資となる適正運賃を収受できる環境の整備が急務とし、「標準的運賃」について、荷主等への周知・徹底を強化するとともに、荷待ち・荷役に係る費用、燃料高騰分、下請けに発注する際の手数料等も含めて、荷主等に適正に転嫁できるよう、見直しが行なわれた。
新たな「標準的運賃」のあらまし
では改正ではなにが変わるのか?
まず、高騰する燃料費をリッター120円とし、足下の市場動向を反映した結果、ベースとなる運賃水準が平均約8%引き上げられる。この変更と併せ、燃料サーチャージの基準価格もリッター120円に改定し、今回その算出方法も「標準的運賃」告示の中で明示された。
運賃表は各地方運輸局等の10ブロック単位で異なるが、2日以上を要するような長距離輸送等を想定した「距離制運賃」では、平均して8.7%上昇。車種別にみると、小型車は6.8%、中型車は6.5%、大型車は9.0%、トレーラは12.3%上昇する。
また、短い走行距離に対し拘束時間が長い運送等を想定した「時間制運賃」については、基礎額について平均して7.1%上昇。車種別にみると、小型車は5.2%、中型車は5.4%、大型車は7.6%、トレーラは10.2%上昇する。
さらに運賃とは別に請求する料金として「待機時間料」を改定し、「積込・取卸料」や多重下請構造の是正を目指した「下請け手数料」を新たに設定した。
30分を超える場合に30分ごとに発生する「待機時間料」は、従来料金から車格別に0~20円程度のアップにとどまるが、新たに長時間労働是正のため2時間を超える場合は30分ごとに5割増の割増率が適用される。
「積込・取卸料」はフォークリフト・クレーンや手積み・手降ろしといった荷役ごとの対価水準を設定。こちらも2時間を超える場合は30分ごとに5割増の割増率が適用される。
「下請け手数料」は、運送事業において下請け構造が適正運賃の収受を妨げるおそれがあることから、下請けに発注する際の手数料を荷主等から運賃とは別に受け取る「料金」として明示したもので、「利用運送手数料」として庸車ごとに運賃の10%を上乗せする。
また共同輸配送を念頭にした「個建運賃」も設定。「個建運賃」は運送区間ごとに最低積載個数または重量のいずれかに基づく最低保証料を設定した上で、計算式により算出した1個または1重量あたりの運賃を適用することができるというものとなっている。
このほか、リードタイムが短い輸送の際の「速達割増」に加え、高速道路等を利用しないことによる長時間労働を考慮した割増の設定、従来「冷蔵・冷凍車」のみだった「特殊車両割増」を「海上コンテナ輸送車」「セメントバルク車」「ダンプ車」「コンクリートミキサー車」「タンク車」に追加するなど、今回「標準的運賃」の改定は多岐に渡っている。
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