1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながらドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。
当企画は、同作において重要な役割を果たしたさまざまなキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。
今回も、前回に引き続き、同作品の準主役ともいえるキャラクター・高橋涼介を取り上げたい。赤城山の伝説的ドライバーが立ち上げた計画は、世のクルマ好きたちに何をもたらしたか、その生き様を検証していく。
文/安藤修也 マンガ/しげの秀一
【画像ギャラリー】本編で紹介した頭文字D 番外編「ウエストゲート」を1話丸ごと見る!
■涼介と「プロジェクトD」
作品タイトルにある「D」が何を指し示すかについては、最終話を読み返せばわかることだが、作中でこの「D」という頭文字(イニシャル)をチーム名に付けたのは、ほかでもない高橋涼介である。
しかし「プロジェクトD」というチーム名は、「レッドサンズ」や「エンペラー」、「パープルシャドウ」などと異なり、およそ走り屋らしからぬ響きだが、「プロジェクト」の意味は「計画、事業、研究」となっており、これはまさに涼介が計画した壮大な事業であり、研究の場であった。
そして、その涼介の想いは、最終的に「プロジェクトD」を“伝説”にまで昇華させた。なぜ“伝説”になったかと言えば、その戦績(全戦全勝)もさることながら、活動期間がわずか1年のみだったということもある。
理由は、涼介が1年後に走りの道から引退することを決めていたためだ。実際に関東エリアのめぼしい峠道をすべて制覇(地元チームとのバトルでの勝利に加えてコースレコード樹立)したことで、もはや“伝説”というより幻のチームとなった。
言うなれば「プロジェクトD」は、涼介による涼介のためのチームなのだが、その目的は、「群馬の峠から世界に通用するドライバーを育てる」ことだと本人が語っている。そのために集められたメンバーのベースはほぼ「赤城レッドサンズ」だが、ダウンヒルのエースドライバーとして藤原拓海が起用されるなど、群馬では名うての若者が集まったチームとなっている。
冷静に考えてみても偉業である。まずはその人を見極める力、つまりキャスティング力。そしてあらゆるチームとのバトルで勝利を収めた戦略や戦術はもちろんのこと、1990年代はまだマイナーな存在であったHPを開設するなど、大衆を意識した行動まで実行している。
「プロジェクトD」の噂は、好事家たちの間にまたたく間に広がり、凄腕ドライバーの走りを見るべく峠にはギャラリーが集まった。プロモーションのあり方としては正しいし、なにより大衆に知られ、支持されたからこその“伝説”なのである。
コメント
コメントの使い方