ジャパンモビリティショーBizweek2026(10/13-16、幕張メッセ)が開催した。初日午前中に開催された特別セッション「動かし続ける日本を、どのように創るか」(10月13日)に、自工会の佐藤恒治会長(トヨタ自動車副会長兼CIO)、三部敏宏副会長(本田技研工業社長)、ロボット用共通OSを手がけるMujinの滝野一征CEO、製造業のAI活用を進める燈の野呂侑希CEOが登壇。モデレーターはPIVOTの佐々木紀彦CEOが務めた。SDV、フィジカルAI、中国勢の台頭、そして大企業とスタートアップの付き合い方。約47分のトークは、自動車業界の“次の一手”がぎっしり詰まっていた。以下、内容を整理してお届けします。
文、写真:ベストカー編集局長T
【画像ギャラリー】「ソフトがどれだけ進化しても、価値は“動かす力”を超えない」――JMS特別セッションで語られた日本の勝ち筋(3枚)画像ギャラリー「動かし続ける」とは「変わり続ける」こと。日本の武器は“多様性”と“現場力”
特別セッションのテーマは「動かし続ける力」。口火を切った佐藤会長(トヨタ)は、このテーマを「動かし続けるというのは、変わり続けるということだと思う」と定義した。技術が社会の価値につながる、そのために、あらゆるものが変化し続けなければならない、という意味だととれる。まずは実装、スモールスタートでやってみよう、と。
そのうえで、佐藤会長が挙げた「いまの日本の強み」は、二つ。一つは産業の多様性だ。素材、生産設備、そして完成品を作る産業まで幅広い層がそろい、モビリティだけを見ても大型車から二輪まで含めると14社ものOEMが存在する。この多様さが、多様化する社会に価値を生むイノベーションの源泉になるという。
もう一つは、現場に根づいた暗黙知に支えられた、高品質で緻密なものづくり力だ。「世界でも稀有な能力」とし、この二つの掛け算が日本を勝たせる原動力だと語った。
続けて登壇する三部副会長(ホンダ)は、いまの自動車産業の置かれた状況を率直に語った。かつては「走る・曲がる・止まる」という基本性能、とくにエンジンのミクロン単位のすり合わせ技術が日本車の勝ち技だった。しかしいまはAI、ソフトウェア、そして顧客との接点であるUXをどう取り込むかへと、競争軸が移りつつあるという。
ビジネスモデルも変わる。開発して作って売り切る時代から、売った後にソフトウェアの書き換えでクルマが進化し続ける時代へ。これはSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)だけの話ではない。三部副会長は「建てた工場自体が学習して生産効率を高めていく」SDF(ソフトウェア・デファインド・ファクトリー)にも触れ、商品とは別の競争軸になっていると指摘した。
このあとステージではAIやソフト中心の議論、AIやソフトがどのようにモビリティ社会を進化させるかという話題が盛り上がる中で、佐藤会長が後半に言った言葉に会場の「うなずく気配」や強まった。モビリティ産業が日本経済をけん引していく立場だと述べたうえで、佐藤会長はこう続けた。
「どれだけソフトドリブンな世の中になっても、ソフト(の進化)が生み出す価値は、アクチュエーションを越えないんです。だからハード、ものづくりが大切なんです」
「アクチュエーション」とは、ソフトの指令を実際の動きに変える部分のこと。どんなに賢いAIやソフトを積んでも、最終的にクルマを動かし、止め、曲げるのはハードウェアだ。佐藤会長は、精密で品質の高いものづくりと現場力を高め続けることが「まず根幹に必要」だと強調した。暗黙知の形式知化やAI活用がさかんに語られるが、現場に人がいて、人がものづくりに携わっているからこそ生まれる力がある。「いかにそこを守るか」が重要だという。

AIを現場に取り込むことには、会長自身が矛盾も感じているようだ。トライ&エラーで失敗したことこそがナレッジなのに、そのプロセスをAIに任せてしまったら、人はどう成長するのか。これに「燈」の野呂氏は、取引先のモーターメーカーの70歳を超える社長の言葉を紹介した。「いまこそ若者は一度工場で働くべきだ」。標準作業を体で覚えるからこそ「これはなぜこうやっているのか」という違和感に気づける。AIが進化しても、一次情報に触れる経験は欠かせないという考えだ。
「安く作って高く売る」が成り立たない。Mujin滝野CEOが語る製造業の危機感
「Mujin」は、ロボットメーカーではなく“ロボットの共通OS”を作る会社だ。パソコンにおけるWindowsのような存在を目指し、数百台規模のロボットを工場や物流センター全体で制御する上位の最適化ソフトまで手がける。売上の約3割は自動車を中心とする製造業が占めるという。
世界で起きている最も大きな変化は何か。そう問われた滝野CEOは、生産の現場から見えるモデルの崩壊を挙げた。
「安いところで作って、高いところで売る、というビジネスモデルが、もう成立しなくなっているんです」
これからは、高いところ、つまり消費地に近い高コストの国や地域でも、きちんと作らなければならない。ところが、そうした地域では製造業に優秀な人材がなかなか集まらない。優秀な人はITの方へ行ってしまうからだ、と滝野CEOは「悲しいことですが」と付け加えた。だからこそ、日本で培ったノウハウを、人を送り込むのではなく「システムとして」海外の高コスト地域に移植する発想が必要になる、というのが同氏の見立てだ。
そのカギが、職人の経験則のソフトウェア化にある。AIが画面の中でどれだけ最適化しても、現実の物体は物理法則に従って動くため、AIの世界と現実の間にはギャップが生じる。入力がこうなったらこうなる、という長年の経験則が、そのギャップを埋める材料になる。それを持つ職人世代がいるうちに、ソフトに落とし込むべきだと訴えた。
野呂氏も、AIの使いどころについて現場感のある指摘をした。物を運ぶだけなら人がやったほうが速く、安全で、安いことも多い。ヒューマノイドやロボットだけに目を向けず、生産計画、ラインの異常対応、空調、エネルギー管理まで含めた工場全体にAIを使うことで、まだ見つかっていない価値があるという。
「全部自分で作る時代じゃない」。三部副会長が語る“自動車会社”の変わり方
AIの話題になると「いまさら日本が取り組んでも手遅れでは」という声も出る。三部副会長はこれに、現実的な整理で答えた。物理法則を学習するワールドファンデーションモデルは、学習だけで何兆円もかかる世界。しかし、それだけではモノは動かない。最後は現場で学習する必要があり、現場との接点はセンサー、カメラ、アクチュエーターといったハードだ。つまりAIからセンサーまで階層構造になっており、どこで勝負するのか、その中身はまだ固まっていない。
そこで三部副会長が自社を振り返って語ったのが、次の一言だ。
「うちのような会社は、上から下まで全部自分たちで作りたがる。でも、もうそういう時代じゃないんです」
その上で、日本としての基盤AI、いわゆる“ソブリンAI”の構築が必要だと説明した。日本の情報を取り込んだベースとなるAIを作り、最終的にはオープンソース化して、その上に各社が価値を積み上げていく姿を描く。「日本としてようやく第一歩を踏み出したところ」という認識だ。
その変化は社内にも及ぶ。AI人材など新しい領域の人材を取り込み、クルマづくりの文化そのものを変えていく。三部副会長は、「自動車会社」という言葉には「もう昭和な感じがする」と笑い、自工会としても「モビリティ」という言葉を意識して使っていると述べた。ハード単体ではなく、通信やエンタメなど異業種との組み合わせも含む全体のビジネスで価値を提供していく、という考え方だ。
何十年もかけて根づいた社内ルールや価値観を壊さなければ先へ進めないが、「捨てろと言ってもすぐには捨てられない」のが大企業の悩みだと本音をのぞかせた。
共通化は目的にしない。「徹底的に競争」から標準が生まれる
オールジャパンでどこまで共通化し、どこを各社が競うのか。モデレーターの佐々木氏の問いに、佐藤会長は「共通化を目的にしない」と明言した。経営資源には限りがある。徹底的に競争することで優先順位が決まり、その中から出てきた共通化すべきことが、本来共通化すべきことだというわけだ。
会長は、14社のOEMが「徹底的に競争しよう」という姿勢だとし、会場の笑いを誘いつつ、競争こそが成長と変化を生むと語った。滝野CEOも「最初からコンソーシアムでイノベーションが起きた例は見たことがない」と同調。中国勢が「毎日が生きるか死ぬか」の勢いで追いかけてくる以上、競争原理の中で勝った技術に各社が乗っていけばいい、という考えだ。
また、大企業とスタートアップの協業では、PoC(実証実験)で止まってしまう「死の谷」が話題になった。滝野CEOによれば、うまくいくのは、トップ同士があらかじめ合意しているケースだという。数年単位で続くと分かれば、スタートアップも優秀な人材を安心してアサインできる。逆に、PoC後に大企業の内製部隊と“競合”する構図になると、プロジェクトの3年、4年がもったいなく失われてしまう。





コメント
コメントの使い方