野呂氏は、PoCがDX予算で行われ、本格導入では事業部の予算が必要になる段差を谷の正体として挙げ、最初から事業部を巻き込むことを提案した。三部副会長は、ルールでがんじがらめの大企業こそ、スタートアップを素早く取り込んで自らの時間軸を速めるべきだと述べた。
ヒューマノイド5年説、自動運転、エネルギーまで
野呂氏は、ヒューマノイドは「5年以内に工場にあふれる」と予測する。人と同じ形なら学習データも豊富で、AIがAIを開発する時代ゆえ進化も速いという。ただし現状では1台1,000万〜2,000万円とされ、投資回収は簡単ではない。「3年ほど目をつぶって投資してほしい」と大企業に訴えた。
三部副会長は、工場ではすでにAGV(無人搬送車)に車体を載せて自在にラインを組み替える動きがあると紹介。設計の初期段階から自動化を前提にクルマをデザインすれば、自動化率はさらに上がり、人がいない“消灯工場”も世界では現実になりつつあると語った。
そうした状況において、ヒューマノイド、つまり二足歩行かつ人型であること、車輪駆動ではダメなのか、という話も出てくるだろう。長年、日本における二足歩行ロボットのパイオニアであり続けた「ASIMO(アシモ)」を研究開発し続けてきたホンダの社長である三部氏だからこそ、この提起の意味は深い。
自動運転について、佐藤会長は時間軸を明言せず、社会の受容性やインフラが整いながら、安心をみんなで作っていくことだと述べるにとどめた。滝野CEOは、事故件数の面で技術的には許容できる水準にあり、課題は感情的な受容と法整備だと指摘。日本は「もし事故が起きたらどうする病」になっていると分析した。
エネルギーでは、佐藤会長が「マルチパスウェイ」の重要性を改めて強調した。水素、アンモニア、バイオ燃料、電気など、地域ごとに事情が違うエネルギーの多様性に、モビリティの多様性で応えるという考え方だ。エネルギーが多様化しているから、モビリティは多様化することになる。物事には順番がある。
三部副会長は、データセンターなどで電力需要が膨らむ中、日本のエネルギー戦略が追いついていないと危機感を示し、原子力や核融合も含めた積極的な戦略が必要だと述べた。サイバーセキュリティについて野呂氏は、最大の脆弱性は人だとし、飲み屋での会話から情報が漏れかねないと指摘した。
まとめ:ソフト時代だからこそ、ハードと現場を磨く
最後に佐藤会長は、変わり続けることこそが産業成長の原動力だと改めて訴え、大企業とスタートアップが「一歩踏み込みきれなかった何か」を解きほぐし、会場の展示を見て、対話して、一歩を踏み出してほしいと呼びかけた。
ソフトの進化が加速しても、クルマを動かすのはハードであり、それを支えるのは現場の人と暗黙知である。しかし、全部を自前で抱え込む時代ではなく、競争とスタートアップとの共創で変化のスピードを上げなければならない。
もうひとつ、本企画担当者が本セッションで強く印象に残った場面がある。セッション後半、モデレーターの佐々木氏が「自動運転は日本でいつ実装されますか?」と尋ねたときのことだ。佐藤会長は「日本でいつ実装されるか、それはわかりません」と、強い語気で答えた。
クルマ好きなら自動運転の具体的な実装時期は気になる話題であり、世の中の人が「○年には」という言い切りを求め、バチっと言いきってほしいと思う気持ちもよくわかる。しかし、人の命を載せて走るモビリティは、そしてそれを支える制度や社会は、それほど簡単に言い切れるものではない。おそらく30年はかからないだろうし、3年後というのは難しいだろう。その間のどこに着地するかは、制度や社会、そして日本に住む私たち自身が、自動運転をどの程度求め、どの程度のネガティブ要素を織り込めば社会実装できるのか、にかかっている。
モビリティ社会の将来を見据えるうえで、一事が万事、こうしたすれ違いは起こる。佐藤会長が「同じ景色を見ることが大事」と繰り返すのは、そのすれ違いを極力減らしていくことも重要だ、ということなのだろう。そう感じさせられたセッションだった。
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