「技術で勝ってビジネスで負ける」はもう終わり!! 自動車とIT、佐藤会長×新野会長が語った日本の多様性、人材、勝ち筋

「技術で勝ってビジネスで負ける」はもう終わり!! 自動車とIT、佐藤会長×新野会長が語った日本の多様性、人材、勝ち筋

 JAMA(日本自動車工業会)とJEITA(電子情報技術産業協会)――。クルマとITという「ものづくり」の精神を大切にする両団体がタッグを組み、「Japan Mobility Show Bizweek 2026」と「CEATEC 2026」が幕張メッセで併催された(2024年に続いて2度目)。会期初日の2026年10月13日、自工会会長・佐藤恒治氏(トヨタ自動車副会長)とJEITA会長・新野隆氏(NEC会長)が、特別企画「日本の未来社会に向けて」で対談。「産業競争力」「人材」「技術とAI」の3テーマを語り合ったのち、両会長は展示会場をそろって”練り歩き”、報道陣の囲み取材にも応じた。「技術で勝ってビジネスで負ける」という日本の弱点を、両トップはどう乗り越えようとしているのか。その本音に迫る。

文、写真:ベストカー編集局長T

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なぜ自動車とITのトップが手を組んだのか

 Japan Mobility Show BizweekとCEATECの併催は今回が二度目。800以上の団体・企業が集う会場で、開会日の特別企画には自工会会長の佐藤恒治氏とJEITA会長の新野隆氏がそろって登壇した。

 このトークセッションで最初に話題になったのは、佐藤会長による「自動車産業だけで完結するビジネスはどんどん少なくなっていく」という問題意識だった。佐藤会長は、モビリティ産業(≠自動車産業)が「活動性の高い社会を作っていく社会基盤」になりつつあると繋げ、「いかにセクターを超えた連携でイノベーションを起こしていくか」が重要な時代に入ったと語った。

セッション会場となった国際会議場(幕張)は超満員。写真は佐藤恒治(自工会)会長。日本のものづくりが直面する課題を語り合った。めっちゃ参考になるので2時間くらいやってほしかった……
セッション会場となった国際会議場(幕張)は超満員。写真は佐藤恒治(自工会)会長。日本のものづくりが直面する課題を語り合った。めっちゃ参考になるので2時間くらいやってほしかった……

 これを受けて、新野会長も「技術的に負けているわけではないが、ビジネスで(国際競争に)負けてしまうケースが多い」という日本企業に共通する課題を指摘し、両トップの問題意識が最初から重なっていたことが対談の出発点になった。

 興味深いのは、佐藤会長が「協調より競争が原動力」と強調した点だ。各社が競争力を高めようとする気持ちがあってこそ経営資源の重点配分が決まり、結果として協調すべき領域が見えてくる、という順番を崩さないという姿勢である。新野会長も「目的によって競争する相手は変わる」としたうえで、日本企業が陥りがちな「いい技術を持っているのにビジネスで負ける」構図を変えるには、どの領域で世界に打って出るのかという目的をまず明確にすべきだと応じた。

「協調」の領域は、ギリギリまで競争した上で、「ここは一緒にやってもいいんじゃないか」というところで定まっていくという。なるほど。

 ここで印象的なやりとりがあったので特記しておきたい。佐藤会長と新野会長がセッションの舞台裏で、「要素技術がないと出口戦略が描けない、しかし果たして我々ものづくり企業は、出口戦略がないまま要素技術の深掘りができるのか?」という、「卵が先か鶏が先か」論に陥るのではないか、と語り合ったという。

 佐藤会長はこの議論について、「ぼくはこれ、【同じ景色を見る】しかないと思っているんです。だからこそ、今回(CEATECとJMSの共催)のようなイベントが大切になる」と語る。

 情報技術の祭典と、モビリティの祭典が組み合わさって、互いに「見ている景色」を見せ合うことで化学反応を起こす。これこそ日本の勝ち筋となる可能性の種になる。

「技術で勝ってビジネスで負ける」を超えるには

 今回のセッションで新野会長が繰り返し口にしたのが「社会実装の遅れ」という日本の課題だ。6年前に訪れた北京で自動運転レベル5の車両に乗った経験を引き合いに、海外では事故データまで含めて日々ソフトウェアを更新し続けているのに対し、日本では「リスクを事前に全部潰せないことへの国民感情」がブレーキになりやすいと分析する。

 もう一つの弱点が標準化だ。「技術があるからこそ作り出せる標準がある」としたうえで、最初から標準化を狙った活動をしながら自社技術をデファクトにしていく姿勢の重要性を説いた。

JEITA(電子情報技術産業協会)の新野会長は「AIにできること」と「人間にできること」について語る。両業界は大きな転換点を迎えているが、しかしそれは「拙速」になってはいけない、と語っているように思えた。変わるものと変えてはいけないものを見極めることが大事
JEITA(電子情報技術産業協会)の新野会長は「AIにできること」と「人間にできること」について語る。両業界は大きな転換点を迎えているが、しかしそれは「拙速」になってはいけない、と語っているように思えた。変わるものと変えてはいけないものを見極めることが大事

 佐藤会長もこれに同意し、「技術は手段でしかない」という持論を展開する。自工会が掲げる「マルチパスウェイ」――ハイブリッドやバッテリーEV、水素など多様なエネルギーに対応する考え方も、あくまで手段の一つに過ぎないという。重要なのは、どんな社会を作りたいのかという「ナラティブなゴール」を描けているかどうかであり、それこそが今の日本の産業競争力に最も欠けているものだと言い切った。そのうえで「スモールサクセスの積み重ねでいい」とし、現場が持つ改善力を原動力にする”日本らしい競争”の形を提案した。

 ここはちょっと、我々メディアにも宿題をもらったなと感じた。「ナラティブなゴール」は、企業が描いた景色をユーザーに伝えなければいけない。そうしたポジションにメディアは(特に自動車情報専門メディアは)立てているのか。メモを取りながら自省の必要を感じた。

AI時代、人間にしか担えない仕事とは

 話題が「人材」に移ると、佐藤会長は自問自答するように語り始めた。エンジニア出身の佐藤会長自身が積み上げてきた「技術力」とは、過去の経験や学術的知見という「ナレッジの活用能力」に他ならないのではないか。だとすれば、それこそAIが最も得意とする領域だ。

「ナレッジ活用はAIが得意だから、そこは置き換わっていけばいい」としたうえで、しかし自動開発、自動設計が当たり前になった未来で、誰が製品の安全性を保証するのかという問いを投げかけた。人間社会において、「責任」を負うのは最終的に人間でしかないのではないか、と。

 これに新野会長は、「過去の経験値はAIのほうが大きく持てる以上、そこで人間は敵わない」と認めつつ、「最後に決断し、責任を取ることだけは人間にしかできない」と応じた。AIはあくまで人が豊かに暮らすための道具であり、課題を設定し、仮説を検証するのは人間の得意領域だという。佐藤会長もこれを受け、「問いを立てたり決断したりすることは人間にしかできない」としたうえで、楽しい・嬉しいといった情緒的価値や、現場でものづくりに向き合う人間の熱量こそが、AIには生み出せない価値だと語った。

両会長のセッションを聞き逃すまいと集まったプレス陣&ビジネスマン。メモをとっている人がたくさんいたのが印象的
両会長のセッションを聞き逃すまいと集まったプレス陣&ビジネスマン。メモをとっている人がたくさんいたのが印象的

 DXが現場で抵抗に遭う理由についても、「今の仕事に価値があると信じている人にとって、それが自己否定につながるからだ」と分析。機能軸で分かれた組織で培われてきた「オペレーション能力」はAIに置き換わっていく一方、これからの人材に求められるのは、好奇心と行動力に支えられた「クリエイティビティ」だと結論づけた。

フィジカルAIとデータ基盤が次の勝ち筋に

 3つ目のテーマである「技術とAI」では、佐藤会長が「AIのバリューが向かう先はフィジカルな領域」と断言した。ソフトウェアがもたらす価値の出口を作るのはハードウェアであり、自動運転と工場のロボティクス活用こそが大きな出口になるという。

 日本が持つ強みは、データの種類・幅・深さだとしたうえで、半導体の品質保証や通信の安定性、ミドルウェアの完成度まで含めて多くの産業が関わり合いながら一つの出口を作っていくことが日本の勝ち筋になると語った。

 また、新野会長が強調したのは「データ基盤」の重要性だ。各社がデータの価値を認識しながらも、秘伝のタレのように囲い込んでしまい、業界全体での共有が進んでこなかった実情を指摘。データを出した企業に正当な利益が配分される仕組みがなければ、データは集まらないとし、データ主権とトラストの確保と並行して、この「還元の仕組み」を作ることが急務だと訴えた。

 佐藤会長もこれに呼応し、日本はもともと「すり合わせ型」の産業構造だからこそ、共通のデータ基盤が持てたときの活用の幅は他国以上に広くなると分析。データ基盤・通信基盤・計算基盤という3つのレイヤーを整え、協調領域に経営資源を集めることこそが国際競争を勝ち抜く鍵になると語った。

練り歩き後の本音――サイバー攻撃にもブレーキはかけない

 対談後、両会長は展示会場をそろって見学し、報道陣の囲み取材に応じた。自工会側の展示は今回、「新7つの課題」を軸に据え、各社が双方向で対話できるブースや、柔らかいトーンのアニメで未来像を共有する仕掛けを用意したという。

 佐藤会長は「個々の展示だけでなく、どんな未来を作りたいかというゴールイメージを共有する立て付けにした」と狙いを説明。大企業とスタートアップの連携については、スタートアップの強みである技術の深さやスピード感を大企業がそのまま取り込んでも同じ速度は維持できないとしたうえで、互いの強みを活かすシナジーの形を模索していく考えを示した。

 新野会長はフィジカルAIについて、「ヒューマノイド型ロボットのイメージが先行しがちだが、もともと日本は産業ロボットで世界に冠たるものを持っている」と指摘し、ものづくりで培ったノウハウにAIを掛け合わせることが日本の勝ち筋になるとの見方を示した。

CEATECとJMS会場を早足で練り歩き。両会長とも「もっとゆっくり見たい」とのこと。そりゃそうだ……、新野会長は営業出身、佐藤会長は開発出身、気になる展示が山盛りですよね……(あとでこっそり見て回るそうです)
CEATECとJMS会場を早足で練り歩き。両会長とも「もっとゆっくり見たい」とのこと。そりゃそうだ……、新野会長は営業出身、佐藤会長は開発出身、気になる展示が山盛りですよね……(あとでこっそり見て回るそうです)

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