作り手の考え方を徹底的に評価する
私はベストカーの誌面でいろいろなメーカーやカテゴリーの新型車に乗せてもらっています。先に書きました「自動車開発責任者」という目線から「そのクルマのユーザーベネフィットは何か? その主たる使い方とシーンは何か?」という目線で批評させてもらっています。
そして同時に「開発者は何を考え、どんな仕事をしたのか? 製造工場はどんな作り方をしているのか?」という目線での評価です。
ひとたび市販車として市場に送り出されたクルマは、お金を出して買って頂いたお客様によって「時として開発陣の想定と遙かに異なった環境で使われたり、予期しないアクシデントに遭遇したりするもの」と考えています。
大企業としての社会的責任を果たすために労働基準法に従い速度制限や各種制限で規定され、そのほとんどがフラットな路面で構成され限定された環境での走行しかできないテストコースで開発業務規定や基準書に沿うように作り上げただけでは、あらゆることを考えたお客様の求める商品にはなりえていないと痛感しています。
だから私は、例えばGT-Rのようなクルマの場合、ニュルブルクリンクサーキットでのトップクラスタイムやアウトバーンでの300km/hオーバーの走り込みを含めた開発を行い、お客様が使われる以上の条件で徹底的な開発をしました。
このような考え方の私は日本国内の限られたなかで試乗し評価する場所として箱根ターンパイクを選んでいます。低速の5km/h程度で凸凹路面がある駐車場、段付きカーブの橋上、そして登り下りとカーブで荷重をいろいろな場所に掛けられ必要な車速も出せるなどがあるからです。
ここでは単にクルマの性能や機能だけでなく、もっと言ってしまえばクルマ作りに対するメーカーの姿勢、取り組み方も如実に見ることができます。
話を戻します。私の信条は 「全てはお客様のための試乗であり、ターゲットカスタマーを想定した評価をしたいと思いますし、そのためにメーカーは何を考え何をしたのかを考えることを大切にしたい」です。
よい部分や感心したことは大いに褒めますし、ダメなところは批判させて頂きます。ただし同時にできるだけ具体的な対策方法を併記していきます。
少しでも開発者がマイナーチェンジ等に織り込み、ユーザーのために商品が進化してくれることを期待したいからです。
自動車雑誌には二つの評論が あってもいいと思います。一つは今ユーザーが乗っている、あるいは憧れているクルマに対して夢や満足を演出する情緒的な評論。
ここには評価者自身の想いや趣味的な評価が入ってユーザーとの共感性を上げることも必要だと思います。そしてもう一つはコンシューマーレポート的に商品の客観的な情報をユーザーに提供し日常使用やアクシデント対応性等に対しての評論です。
ただしこの部分が今の日本では欧州や北米等に対してとても少ないことが問題だと思っています。
「自動車業界のなかで皆さんに支えられて今日までやってこられた私に恩返しとして何ができるのか?」今後も考え続けたいと思っています。
ベストカーの誌面やベストカーWEBの動画を通じて行われる綿密な「水野評」は、こうして生まれています。
水野氏の思いが詰まった「ベストカー水野和敏SPECIAL」(A4判、オールカラー、税込842円)も好評発売中。ぜひ誌面で水野論を堪能ください。
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