フィットクラスのEV投入? ホンダEV試乗で見えた『3分の2を電動化』戦略

クラリティPHEVは『ハイブリッドの進化形』

 クラリティPHEVのパワーユニットは、1.5Lのガソリンエンジンに最高出力181HPを発揮するモーターを組み合わせたもの。

 見た目はすでにリース販売されているクラリティFCとそう変わらない。でも、走り始めるとそのスムースでパワフルな加速感は印象的。

 アクセルを強く踏み込むと、気づかないほど自然にエンジンが始動し、モーターをアシスト。モーターとエンジンで車を引っ張っていく。

バッテリーを床下に搭載したクラリティPHEV。後席のスペースも充分な広さを誇っていた
バッテリーを床下に搭載したクラリティPHEV。後席のスペースも充分な広さを誇っていた

 EV走行距離は42マイル(約67km)で、航続距離は330マイル(約531km)というが、『EV色を強めたハイブリッド車』という感覚。

 ところが、このPHEVと比べてバッテリーEVはまったく違った。

クラリティEV『段違いの加速感と新たな可能性』

 「ヒュィイイン」。僅かなモーター音とともに2000kg近い重いボディは、思った以上に力強く「ググッと」加速してゆく。

 「FCやPHEVよりも、こちらのバッテリーEVは、最初のアクセルを踏んだ時の“食いつき”がいい。そう感じられると思います」

 助手席の開発関係者が語るように、初期トルクの出方、加速感はFC、PHEVより一段上をゆく。

こちらがクラリティEV。FCやPHEVとは異なりグリルレスのフロントマスクを<br>採用しているのが外観のポイント
こちらがクラリティEV。FCやPHEVとは異なりグリルレスのフロントマスクを
採用しているのが外観のポイント

 その加速感もさることながら、試乗後にボンネットを開けてさらに驚く。上がPHEV仕様で、下がバッテリーEV仕様のものだが、バッテリーEV車のボンネットには明らかにスペースの“余地”が残されている。

 「まだまだフロントを小型化できる」というのだ。

この通り、PHEV(上)に対してEV(下)のエンジンルーム(とは呼ばないが)にはスペース的に余裕がある
この通り、PHEV(上)に対してEV(下)のエンジンルーム(とは呼ばないが)にはスペース的に余裕がある

 「フル充電で航続距離は約140km以上。全開で走っても、40℃以上の高温にならない限り、航続距離が140kmを下回ることはないと思います」

 航続距離の面で課題はあるものの、将来的に最も面白いと感じさせるのはEVだった。八郷社長のいう「開発の中心はPHEVながら、バッテリーEVの開発を強化していく」とは、まさに理想と現実を反映したコメントなのだろう。

EVはFFである必要はない?

 試乗を通してEV/PHEVともに、開発が進んでいることはわかった。でも、「2030年までに3分の2を電動化」という目標は実現できるのだろうか?

 この点、開発関係者に聞くと面白い答えが返ってきた。

 「大衆車も電動化しないと3分の2達成は難しい? そうですね。フィットやシビッククラスの大衆車にもEVやPHEVを搭載することは当然考えています」

 「ガソリン車はフロントに重量物のエンジンを置くFFが一般的だったが、EVはFFである必要はない? そのとおりです。EVで一番の重量物はバッテリー。

 既存のFFとは違った、EVに適した新しいパッケージングがあると思います。我々はパッケージングを売りにしてきたメーカーですしね」

 新しいEVはFFではなく、RRのようなパッケージングもあり得る。そういった革新的なパッケージングのEVが、高級車ではなく、フィットクラスの大衆車に採用されれば、車好きにとっても面白い存在になることは間違いない。

こちらは過去にリース販売されていたフィットEV。今後、EVに特化した新たなパッケージングで新しいフィットEVが世に出てくるかもしれない
こちらは過去にリース販売されていたフィットEV。今後、EVに特化した新たなパッケージングで新しいフィットEVが世に出てくるかもしれない

 では、仮に3分の2を電動化した場合、“残りの3分の1”即ち、内燃機関はどうなるのか?

 「(内燃機関は)趣味性の高いスポーツカーなどが中心になるかもしれませんね。やはり、内燃機関特有の魅力は代え難いですから。

 ただ、モーター特有の加速感を生かした新たなスポーティカーという可能性もあって、どちらがいいかは今まさに検討しているところです」

 前出の関係者は言う。

「今、自動車は本当に過渡期を迎えています」

 3分の2を電動化する。——それは、来たるEV/PHEV時代に登場するであろう、“車好きが胸を躍らせる未来の自動車”の根幹に関わることなのかもしれない。

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