ただし、ここは誤読が起きやすいので丁寧に書いておきたい。これは「5年後に、確実に車両価格の50%で買い取ってもらえる制度」ではない。
BYDの注記には「残価の設定は支払期間終了後の残価を保証するものではない」と明記されている。正確に言えば、車両価格の50%を最終回まで据え置くローンだ。5年後には50%相当の残債が残り、そこで返却するのか、買い取るのか、再ローンを組むのかを選ぶことになる。そして返却時、査定額が据置額を下回った場合には差額を負担する可能性がある。ここが残価保証型との決定的な違いである。
いっぽうで、これはBYDに限った話ではない。国産車の残価設定ローンでも、契約時の設定距離を超える過走行だったり、ボディに大きなキズやヘコミがあったりすれば、返却時に追い金を求められることがある。残価設定型で買うとは、もともとそういう契約だ。「中国車だから条件が厳しい」わけではない。
とはいえ、繰り返すが50%は「保証」ではない。そして日本での中古車流通実績がまだない中国ブランドの軽BEVに対して、5年後にちゃんと値がつくのかと身構えるのは、まったく不合理なことではない。国産軽の残価率は膨大な流通実績の蓄積から算出されている。RACCOにはその蓄積がない。
この不安を打ち消せるのは、結局のところ数字ではなく実績だ。5年乗って壊れなかった、査定でちゃんと値がついた――そうした事例が積み上がるまで、据置率50%は「自信の表明」以上のものにはならない。
逆に言えば、BYDが賭けているのはそこである。50%という数字に見合う価値を、RACCOが5年かけて実証できるかどうか。それができたとき、中国車がずっと越えられずにいた中古車相場という壁が、ようやく崩れることになる。
年1万台の壁は「中国車」という3文字にある
冒頭に戻ろう。発表会で東福寺厚樹社長は「まずは年間1万台を販売」と述べた。この1万台という数字が、どれくらいのハードルなのか。
BYD乗用車の2025年国内登録台数は3742台(前年比68%増)。2026年上半期は2334台(前年同期比42.7%増)だ。伸びてはいるが、絶対数はまだ小さい。しかも上半期2334台のうち1254台はPHEVのSEALION 6であり、単純に差し引けばBEV全車種の合計は約1080台にとどまる。
比較対象を置いてみよう。
2026年上半期(1~6月)国内販売台数
| 2026年上半期 国内販売台数 | 台数 |
|---|---|
| ホンダN-BOX | 10万2419台 |
| 日産サクラ | 4972台 |
| BYD全車 | 2334台 |
| うちSEALION 6(PHEV) | 1254台 |
サクラの年間ペースがおおむね1万台。つまり東福寺社長が掲げた年1万台とは、RACCO1車種でサクラと肩を並べるという宣言にほかならない。従来のBYD日本法人の総販売台数の3倍近い数字である(それにしてもN-BOX、半年で10万台売れているって……すごすぎる)。
RACCOの商品力だけを見れば、年間1万台は不可能な目標には思えない。価格、航続距離、装備、月額――ここまで並べてきた条件は、これまで日本に上陸したどの中国車、どの輸入車よりもそろっている。
では、何が気になるのか。ひとつは販売・サービス網だ。発表会で示されたBYDの販売拠点数は全国77拠点、うち本設店舗が56店舗。日本で乗用車販売を始めて数年のブランドとしては相当に速い拡大で、2026年7月には小規模なサテライト型店舗も国内初開設している。がんばってはいる。「日本市場に根付こう」という努力はひしひしと感じる。
だが、外部の店舗データによる参考集計では、たとえばフォルクスワーゲン販売店は国内約272拠点、三菱自動車は全国約578拠点。中古車店やサービス拠点を含むかどうかで数え方が変わるため単純比較はできないが、規模感としてBYDの77拠点は、いまだVWの約3割、三菱の1割強にすぎない。
そして軽自動車は、輸入車以上に地域密着性が問われるカテゴリーである。BYDでも、たとえばATTO 3やSEALを指名買いする客なら、片道1時間の店舗にも足を運ぶだろう。しかしRACCOが比べられるのは、近所のホンダ、日産、三菱、スズキ、ダイハツで買えるクルマだ。RACCOにとって重要なのは、そういったライバルと比較した際のショールームの数……というよりも、点検・一般修理・事故修理まで完結できるサービス拠点がどれだけあるか、どれだけ身近か、だろう。
そしてもうひとつ、自動車情報専門メディアとして書いておかねばならないのが、日本の自動車ユーザーの中にあるであろう、「中国車への先入観」を払拭できるかもカギになる、ということ。たとえば、デロイトの2026年度調査によれば、日本の消費者は主要市場のなかでもブランドロイヤルティが高く、自国メーカーを選好する傾向が強い。購入時にはディーラーやメーカー公式サイトといった公式チャネル、実車確認、価格の透明性を重視し、アフターサービスでは「信頼」が最重要とされる。
そもそも日本というマーケットは輸入車の参入障壁が高く、長い歴史のなかで輸入車がシェア10%を超えたことは一度もない。BYDが越えるべきなのは、国籍に対する感情だけではない。「日本車ではないからなぁ……」という、日本市場独特の感情との向き合い方だ。
ここで大事なのは、「先入観」と「合理的な不安」を分けて考えることである。BYDはもともとバッテリーメーカーとして創業し、電池、モーター、半導体、車体まで内製する垂直統合型の企業である。RACCOにもLFP系のブレードバッテリーとCTB構造、統合ユニットのX-PACKが採用されている。素性の知れない新興企業ではない。
日本での実績も乗用車だけではない。BYDのEVバスは日本導入から10年が経ち、2025年度末時点で累計503台、国内EVバス分野で約6割のシェアに達したとBYDは発表している。「昨日来たばかりの会社」ではない。
一方で、次に挙げるのは偏見ではなく、購入者として当然の不安である。
故障したとき近くで直せるのか。部品は何日で届くのか。板金と事故修理はどこに頼むのか。代車はスムーズに出るのか。5年後の中古車価格はいくらか。メーカーは日本事業をちゃんと続けてくれるのか。OTAや車両データはどこで管理されるのか。そしてJ-NCAPでどの評価を得るのか(RACCOは最高レベルの獲得を目標に開発されたとされるが、評価そのものはまだ取得前だ)。
バスの503台は法人が運行管理する商用車の実績であり、個人が生活の足として買う軽自動車の信頼形成とは仕組みが違う。この種の不安まで「偏見だ」と切り捨てるのは、乱暴だろう。
RACCOは、価格も、航続距離も、装備も、買いやすいローンもそろえてきた。だが軽自動車は、スペック表だけで買われる商品ではない。近所で買えて、困ったときに直してもらえて、数年後に安心して手放せる――そこまで含めて商品なのだ。
BYDが越えるべきは、「中国車」という3文字への先入観だけではない。その奥にある整備、部品、安全評価、中古車価値への不安に、具体的な実績で答えられるかどうかである。
年間1万台。東福寺社長が掲げたこの数字に本当に届いたとき、日本の軽自動車市場は開国したことになる。RACCOは、その黒船の一番艦だ。
(個人的には、軽BEV両側スライドドア車をBYDがこの意欲的な価格、この装備で出してきたというのは、後発であるホンダ、スズキ、ダイハツ、日産&三菱には大変なプレッシャーになっただろうなとは思います。日本メーカーもがんばれ。切磋琢磨して市場を盛り上げてください)
【画像ギャラリー】BYD RACCO(ラッコ)の画像と説明資料一覧(22枚)画像ギャラリー






















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