2022年7月16日に発表された、トヨタ「新型クラウン」。「革新と挑戦」というクラウンのDNAを受け継ぎながらも、これまでのFRから、FFベースの4WDへと、大きく舵を切ることを決断した。トヨタ内部でも、本当にそれ(FFベース4WD)でよいのか、という論議が幾度もされたそうだ。
ハイリフトかつFFベースとなると、従来型クラウンの素直でシャープなハンドリングといった「走り」はどうなるのか、気になるところ。トヨタの車両性能開発エンジニアが、新型クラウンへ織り込んだ思想や具体的なアイテムを確認しながら、新型クラウンのハンドリング性能について、考察しよう。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、メルセデスベンツ、BMW、Audi、ベストカーWEB編集部/撮影:奥隅圭之
ヨー方向の軽快感と安定感はリアサス改良と後輪操舵で実現
FF(ベースの4WD)では、前輪の間にエンジンとトランスミッションを置くため、前荷重がどうしても重たくなる。また後荷重がFRよりも少ないため、スタビリティという意味でもあと一歩不足しがちだが、トヨタはそれを技術で乗り越えてきた。
従来型クラウンが使用していたプラットフォームは「GA-Lナロー」だ。全幅1800mmに抑えるため、サスペンションアームの長さを短くしたクラウン専用設計のものであったが、新型クラウンでは、そのプラットフォームを撤廃し、カムリやハリアーと同じく、FFベースの「GA-K」プラットフォームを大改良したうえで採用。なかでも大きく改良されたのが、リアサスペンションだ。
カムリのリアサスペンションはダブル・ウィッシュ・ボーン式であったが、新型クラウンでは、マルチリンク式へと変更している(従来型クラウンはフロントにハイマウント式マルチリンクサスペンション、リアにマルチリンクサスペンションを採用)。
車両性能開発担当の東浦諒氏、シャシー開発担当の松宮真一郎氏によると、楽しくて気持ちよい、クルマのあるべき姿を体現した従来型クラウンの走りの気持ちよさを継承したいと考えたが、FFベースとなることで失うことも多い。だが新型クラウンとしては、乗ってみて感動するくらいのフラッグシップの「上質な走り」は譲れない。そのためにはまず、クルマの安定性(どっしり感)や音振などに影響する、リアサスペンション改修が必要だと考えたという。
前後方向にも左右方向にも剛性感の高い新しいマルチリンク式リアサスを採用したことで、ポテンシャルを確保。そのうえで、「飛び道具」となる「DRS(後輪操舵)」は、全グレード標準装備に。
DRS(低速では逆相に、中高速では同相に操舵するシステム)は元々、レクサス用に開発したアイテムであり、スポーティを優先したセッティングとなっていたが、新型クラウンでは、快適性を優先したセッティングに。ヨー方向の軽快感と安定感をDRSで生み出し、そのぶんサスペンションは極力柔らかくして、乗り心地重視でつくり込んでいる。その結果、クラウンに欠かせない落ち着きと、フラット感を実現できたという。
また、リアタイヤの切れ角度が、従来の2度から4度へと増えたことで、最小回転半径の低減にも貢献している。従来型クラウンは、2WDで5.3m、2WDスポーツで5.5m、4WDだと5.7mであったが、新型は21インチ仕様の全グレードで5.4mを達成している(カムリは5.7m、e-Fourは5.9mと大きい)。狭い道でも適した日本の高級車、というクラウンの流れにも見事合致させており、さすがはトヨタ、といった仕事ぶりだ。
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