街を歩いていて「おっ?」と目に留まるクルマがある。逆に、「あれってけっこう売れてるはずだけど全然見ないな」と思うクルマもある。たぶん後者に関しては、実際には風景に溶け込んで目立たず、見つけられないものも多いのだと思う。
売れているのに目立たないクルマ、売れてないのに目立つクルマ。そこにはどんな違いがあるのか、人はなぜそう感じてしまうのか? 自動車評論家の鈴木直也さんに聞いてみた。
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※本稿は2019年11月のものです
文・写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年12月26日号
■テーマ1 売れてるのに目立たないクルマ
ベストカー(以下BC) 軽の月販1~2位が続くN-BOXとタント。これほど売れてもなぜ街中で目立たないのでしょう?
鈴木 うん……。N-BOX、タントとも確かに目立たないね。両車ともにいえることなんだけど、ベストカー読者を含めた我々クルマ好きが、クルマの性能や走りの魅力を“立て板に水”のごとく語れないクルマは、どうにも目立たない、ということでしょうね。
というか、たとえ目に入っていても、その後印象に残らないクルマということ。心のなかにインプットしない、というか。だから、僕らが見ても「あんなに売れているクルマなのに目立たない」ということでしょう。
もちろん、例えばタントには超高張力鋼板を採用したボディなど、よさを語りたいウンチクはたくさんあるけど、一般ユーザーへ直に響く特徴ではないからね(笑)。
だから、N-BOXやタントが欲しいと思っている一般ユーザーは、街中でもそれらのクルマが目に留まると思う。気になっているから。
BC つまり、クルマ好きにとって尖った特徴がなく、ごくごくフツーだから目立たないということですか?
鈴木 そう。サイズ感、使い勝手、価格など購入条件をすべて満たしているのがこれらのクルマ。だから売れる。それゆえ尖った特徴がない。
クルマ好きとしては、いろんなクルマに対していろんな角度から見て、つい優劣をつけたくなる。でも、この2台の成績は「優」だらけで、すでに共通一次を合格している段階なので(古い表現ですみません)、その優劣がつけにくい。
欠点がなく、勝った負けたの物語がないクルマは、クルマ好きの僕らの印象に残らない、ということ。それが両車で改めてよくわかった。
BC その軽スーパーハイトワゴンの次に売れている、軽ハイトワゴンも目立たない感じなのですけど……
鈴木 街中で走っていても目につかないねぇ(笑)。軽ハイトで売れているのはワゴンR、ムーヴ、デイズ。
前項のタントなどと同様、「優」が多く「大きな欠点」がないクルマで、ライバルとの勝った負けたという劇的な物語がないクルマは、クルマ好きのなかでは印象に残らないのだろうね。
デイズはプロパイロットの搭載など、大きなウリで存在感を出そうとしているけど……、これも僕の目には目立つクルマとしては映らないですね。
逆に背の低いアルトやミライースは目につく。軽のなかで中くらいサイズの軽ハイトワゴンは総じて、意識のなかに入ってこないし、目立たないかもね……。
BC 次、ヴェゼルです。これ意外と目立ちませんよね?
鈴木 うむ、これはなかなかの選出。2013年の登場で、確かに長く売れ続けているけど、目立たないモデル。
サイズ感が手ごろなSUV。そのサイズで、ほかにはジュークやCX-3などがあるけど、ヴェゼルは室内が広くてバランスがいい。それが売れている理由。でも、際立つ特徴がないので目につかない。それが理由でしょう。
わかりやすくいうと、ジュークなど見た目に特徴あるライバルが売れていない間に「こっそり売れている」という感じ。だから、心のなかにひっかからない。やはり、往年のカローラ対サニーのように、ライバル同士がしのぎを削らないと、目につかないですよね。またまた、古すぎる話で恐縮です(笑)。
BC ランクルプラド、例えば9月の月販は2710台と売れている。でも目立たない。これはなぜでしょう?
鈴木 そのクラスなのに、けっこう売れているんですね、ランクルプラドは。で、確かに街中で目立たない。
逆に、兄貴分のランクル200やレクサスLXはそれよりかなり売れていないのに目立つ。プラドはそれら兄貴分の影に隠れている……のかな。
ランクルは100の時代からクロカンとしてブランドを確立し、プラドはそれの弟分として販売的には好調なのだけど、クルマとして“押し”が弱い感じなのでしょう。
また、プラドの弟分としてはハリアーやレクサスRXなど、都会派SUVがあり、これらは逆に目立つ感じ。
先ほどのワゴンRなどの軽ハイトワゴン同様に、ここでも、中途半端といえる存在が目立たない要因なんでしょう。
BC 取り上げたクルマたち、「目立たない」ワケの共通項が何かありそうな気がします……。
鈴木 つまり、総じて「中庸」ということですね。「偏らず中正で、穏当」、そういうクルマは目立たないということだね。
ワゴンRなどのハイトワゴン、ヴェゼルというバランスのいい小さなSUV、プラドのような影に隠れがちのSUV、みんな中庸だよね。さらに、次のテーマで登場するノア/ヴォクシーも同様に中庸。だから目立たない。
輸入車でいうとVWのゴルフ、ポロがそう。輸入車の世界をざっくり分けると、ドイツのベンツ、BMWなどのプレミアムブランド。マニアユーザーが多いフランス車とイタリア車があり、それら以外がVWのこの2モデルというのが僕の認識。
よくできたいいクルマで、ゴルフなんてCセグのベンチマーク的な存在とずっと評価されている、本当にいいクルマ。
でも……。輸入車のなかではキャラクターが薄いので、悲しいかな街中で走っていてもスルーされて、目立たないクルマだよね。今号の30ページに新モデルが掲載されているけど、この8代目はどう映るでしょう……?
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