【EVによる楽園は本当に実現可能なのか?】 欧州を覆う「EVヒステリー」の背景と行方

 2017年、フランスのニコラ・ユロエコロジー相(当時)が「2040年までにフランス国内でのガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する」と発言した時、多くの人間は「できるわけがない」と笑った。

 だが最近の欧州では急速なEVへの傾倒が目立ち始めている。大手サプライヤーのコンチネンタルに続き、ダイムラーそしてVWからも、内燃機関の「最後」の話が出た。

 欧州勢のEVへの移行は本気なのか? そして本当に可能なのか? を検証してみたい。

※本稿は2019年11月のものです
文:鈴木直也/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年12月26日号


■環境保護のため全力でEVに舵を切る欧州 背景は?

 ここ数年、自動車業界はずっと「100年に一度の変革」と言われてきた。

 そこで盛んに使われるようになったのが「CASE」という新語。「コネクテッド」「オートノマス」「シェアリングサービス」「エレクトリファイ」の頭文字で、つながるクルマ、自動運転、共有サービス、電動化という意味だ。

 この4つの革命は、実はすでにじわじわと進行している。

今年の7月に「2025年までに開発を始める内燃エンジンを最終世代にする」と発表した独・コンチネンタルCEO、エルマー・デゲンハート氏

 これから出てくる新車は、たとえばヤリスのようなエントリーカーでも通信ユニットが全車標準装備化されつつあるし、自動ブレーキやレーンキープアシストは自動運転技術の初期段階。

 海外ではウーバーやリフトなどのシェアライドは珍しくないし、リーフが先行して頑張ってるEVも選択肢が増えつつある。たぶん、あと10年もするとクルマとの付き合い方がガラッと変わってくるのは間違いないと思う。

 そんななかで、自動車メーカーがいちばん懸念しているのが、電動化……、とりわけバッテリーEVをどう商品化してゆくかという問題だ。

 自動車ほど、さまざまなルールに縛られた商品もないが、最も影響が大きいのは環境規制だ。

●8代目ゴルフがヒッソリ発表されたワケ

8代目ゴルフは10月24日、ドイツ・ウォルフスブルクのVW本社で発表された。華やかなモーターショー会場などではないあたりに、現在の欧州の世情がうかがい知れる

 初めは有害な排出物(NOXやCO、HCなど)を減らすことが求められたが、それをほぼ完全に達成したあとはCO2削減がテーマ。つまり、燃費規制がどんどん厳しくなっている。それを解決するのが、CO2排出量ゼロのEVというわけだ。

 こんなことを書くと、賢明な読者は「電気だって火力発電所で作ったらC02出てるじゃん」と笑うだろう。

 それはまったくそのとおり。

 世界全体で見ると石炭、石油、天然ガスを使った火力発電のシェアは65%。原発の止まっている日本では83%、フランス以外の欧州平均はだいたい50%、中国だと最もCO2排出の多い石炭火力が70%を占める。

 クルマを電動化しても発電所をなんとかしないとCO2はそれほど削減できない。これは専門家はもちろん、ちょっと知識のある人にとっては、もはや常識だ。

■EVをどう商品化するかに悩み 岐路に立つメーカーたち

 しかし、こういう「難しい話」は一般の人にはあまりウケない。世の中を動かすのはもっとシンプルなメッセージで、「電気で走るから排気ガスゼロ!」という説明のほうがずっと説得力がある。

●航続距離200kmでも、マツダがMX-30をEVとして発表した理由とは?

35.5kWhバッテリーを搭載するMX-30の航続可能距離は200km。それでも排ガスの出ないEVであることが欧州では重要なのだ

 EVは現段階ではコスト的に内燃機関車両と互角の勝負はできないから、世界中どこでも補助金に助けられている。

 補助金イコール税金だから、EVに税金を投入してもらうには政治的なコンセンサスが必要。要するに、世論を動かさなくてはならない。

ウェル・トゥ・ウィールの考え方。電気も火力で発電すれば、発電時に当然CO2が発生する

 先に「世の中を動かすのはもっとシンプルなメッセージ」といったのは、つまりそういうこと。

 多少オーバーな表現でも、まずはEVの普及を優先しなければいけない。EV推進派イコール環境活動家とまではいえないが、イデオロギー先行型のその主張には、かなり共通点があるように思う。

 そういう意味で、CO2削減とそのためのEV化推進に突っ走る欧州の政策は大いに気になるところだ。

●原料生産時から廃棄までの環境負荷。日本における内燃機関車とEVの比較

クルマの製造に必要な原料生産から廃棄するまでのトータルの環境負荷を計るのがLCA(Life Cycle Assessment)。上の表は日本における例をマツダが計算したもの。走行距離が16万kmの時にEVのCO2排出量が跳ね上がるのは、ここでバッテリー交換を行うことを想定しているから

 ぼくは9月にフランクフルトモーターショーの取材に行って、そのあまりの低調さ、暗さに衝撃を受けたという記事を『ベストカー』本誌に書いた。

 もはや内燃機関車両は悪の象徴で、CO2を出さないクルマに一刻も早く切り替えなくちゃいけない。そんなムードが漂っているのだ。

上の表では最終的なCO2排出量はEVも内燃機関車も大差ないという結論になっているが、このデータを出しているのが、内燃機関にこだわるマツダであるということは覚えておく必要がある

 そして、そんなフランクフルトショーが開幕した翌週にニュースとなったのが、スウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリさんの国連総会における演説だ。

「大人は経済的合理性とか難しいことを言ってごまかすけど、温暖化対策に本気で取り組まなければ、あなたたちを許さない!」激しい言葉で環境対策の遅れを叱責する論調が大いに話題となった。

 こういう発言をしたのが16歳の少女だったこともあり、訳知り顔で「子どもだから世間がわかっていない」とアタマから笑う人もいるようだが、ぼくはそれは大きな間違いだと思う。

 これこそ「世の中を動かすシンプルなメッセージ」そのもので、こういう“事件”をきっかけとして、世の中が変わっていった例は歴史上たくさんある。

 実は、欧州先進国では若い人たちがいちばん環境コンシャスで、ドイツでは緑の党躍進の原動力となっている。グレタさんの国連総会演説のバックグラウンドには、こういった環境派の若者の力と、それをまとめる賢い人たちがいることは想像に難くない。彼らは、戦略的に「シンプルなメッセージ」を発信していると見るべきなのだ。

 だから、自動車業界が行うべき対応は、むしろ彼らの主張を積極的に受け入れること。できれば、一度彼らの理想とする電動化モビリティのユートピア実験を行ってほしい。

クルマの多くがEVになったとして、それらのクルマが求める電力を供給できるかという問題もある。欧州は各国間で電力を融通しあっている

■受け入れた先にある厳しい現実の壁を知る

 たとえば、ノルウェーでは2019年上半期の新車販売でEVが45%を占めたという。こういう国に自動車メーカーは積極的にコミットして、国単位でEV100%を目指す社会実験を実施する。

 そこで得られたさまざまな知見やノウハウを、世界中に広めてゆくという提案をするのだ。

MX-30の試験車両であるe-TPVの試乗会を行ったノルウェー。人口530万人ほどで電力のほとんどを水力発電でまかなう国ならばEV天国も実現できるだろう

 おそらく、ノルウェーならその気になれば10年以内にEV以外全部禁止の政策は実行可能だろうが、果たしてそれがほかの世界各国でも同じように実現できるのか?

 その現実を見てもらうことが、「シンプルなメッセージ」に対する現実派の回答になる。

電力を作る過程でのCO2まで考えた場合、完全な正解はFCVとなる。だがインフラ整備の問題も含め、EV以上に普及までの道のりは遠い

 ちなみに、ノルウェーの各種統計は、人口約530万人(日本の約24分の1)、一人あたりGDP約7万2000ドル(日本の約2倍)、自動車保有台数約300万台(日本の20分の1)、水力発電比率約95%(日本の約10倍)といったところ。

 このくらい恵まれた国でないと、やはりEVユートピアの実現は難しい。

日産の「アリア コンセプト」。今年の東京モーターショーにも多くのEVが出展された。EVが珍しがられているうちは問題は顕在化しないだろう

 多くの人に届きやすい「シンプルなメッセージ」の重要性は変わらないし、理解しようとせずに否定するのは間違いだ。

 だけどそのメッセージを現実のものとできるかは、やはり別問題。現実は厳しいのでございます。

期待される次世代EV群。活躍できる時はくるだろうか?

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