日本の自動車文化において「戦争」は付き物だ。古くはコロナVSブルーバード、カローラVSサニーの大衆車戦争があったわけだが、軽自動車における戦争と言えば、90年代からスタートしたワゴンR対ムーヴの全面戦争だろう。軽自動車を現在の国民車的な位置まで引き上げた、成長の戦争を振り返っていきたい。
文:佐々木 亘/画像:スズキ、ダイハツ、ホンダ、ベストカーweb編集部
【画像ギャラリー】今のNシリーズを生んだ抗争? ワゴンR対ムーヴの全面戦争を振り返る(31枚)画像ギャラリーガップリ四つでやり合った永遠のライバル
スズキとダイハツの間では、何度もライバル関係が生まれてきた。その中でも、最もいい勝負を繰り広げたのが、ワゴンRとムーヴであろう。
先陣を切ったのはワゴンR。1993年に軽自動車の弱点だった居住空間に大きなメスを入れ、全高を大きくすることで弱点を克服した軽自動車の革命児だ。
その3年後、大ヒット中のワゴンRを追いかける形で登場したのが、ムーヴである。頭上空間が広いのはワゴンRと同様で、ムーヴは横開きのバックドアとリアシートがスライドできる点がワゴンRとの大きな違いだった。
それぞれの戦いは、軽自動車規格が新規格になったことで、ほぼ同時に再スタートを切ることとなる。
専用設計が増えてクルマ同士のガチンコ勝負に
それぞれの2代目モデルが登場した1998年、わずか1日だけ早くムーヴが登場するという発表時からの勝負もあった。
10月6日に登場したムーヴは、ジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインが内外装のデザインを担当。エクステリア違いのグレード「カスタム」を中心に人気を集めた。
安全性能と快適性能にこだわったムーヴは、オートエアコン、キーレスエントリー、パワーウィンドウ、電動サンルーフなどをオプションに設定し、軽自動車らしからぬ質感の高さで勝負を仕掛けたのだ。
対するワゴンRは10月7日に登場。こちらも質感は高まったが、それ以上に地道な改良が目立ったモデルだ。
新規格となりボディが大きくなったが、最小回転半径は0.4m小さくなって4.2m。CVTモデルの登場やダイレクトイグニッションの積極的な導入で、燃費向上にも力を入れている。
「実用性のワゴンR」と「質感のムーヴ」の戦いは、3代目以降も続き、大きな販売戦争へと拡大していった。
競合値引きの激しくなった3代目
2世代にわたる激しい戦いは3代目でも終わる気配が無かった。
ムーヴは2002年に3代目へとフルモデルチェンジ。新開発のプラットフォームが採用され、豪華装備が奢られることになる。DVDナビゲーションや、スモールカーで初めてのレーダークルーズコントロールをオプション設定するなど、先進性でも一歩リードした形だ。男性ユーザーも意識したムーヴは、カスタムX(当時の車両本体価格127万500円)を中心に販売を拡大していった。
対するワゴンRは2003年にフルモデルチェンジ。こちらもプラットフォームを刷新し、軽市販車初の直噴ターボエンジンを搭載してリッターカー並みの扱いやすさを誇った。こちらは中間グレードのFX(当時の車両本体価格101万3250円)を中心に、販売を拡大している。
売れ筋グレードこそワゴンRの方が廉価だが、当時のムーヴは商談のライバルがワゴンRと見るや、車両本体から10万円超の値引きが出ることもしばしば。負けじとワゴンRも上位グレードでは大きな値引きを提示し、泥沼の値引き合戦になることが多かったのが、当時の販売事情である。
現在は、両者の間にホンダ・N-BOXが入り、軽ハイトワゴンでは独走している状態だ。ここまでN-BOXが売れているのは、ワゴンRの実用性とムーヴの豪華さを併せ持ち、ベーシックからカスタムまでを手広く扱っているからだろう。つまり、ワゴンR対ムーヴで光った両者の武器を、一気に1台のクルマに詰め込んだのがN-BOXということ。
人気モデル同士の強烈なライバル関係は、日本車を大きく成長させる起爆剤だ。昔のようなガチンコライバルを見る機会が減ってしまった昨今の自動車市場。かつてのようなライバル戦争を経て、日本の自動車業界がさらに大きくなること願っている。
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