■「キング・オブ・ミニバン」衰退の引き金は強力ライバルだけではなかった
一方のエルグランドは、シボレー「アストロ」がブームだった1997年に登場し、日本車でもこんなクルマが出てきたと多くの人を驚かせ、もともとスカイラインのような神話性もないなかで、まさしく商品自体の力で売れに売れた。当時も不振にあえいでいた日産の底力を見せつけられた思いがしたものだ。
ただし、スカイラインの場合は誰かに敗れて売れなくなったわけではないのに対し、エルグランドの場合は明確に好敵手に敗れての衰退ということになる。エルグランドが2代目にモデルチェンジした、まさしくその翌日にトヨタ「初代アルファード」が発売され、当初こそ販売は拮抗していたものの、ほどなくアルファードが優勢となり、1年後ぐらいにはだいぶ差がついていたように記憶している。
敗因としては、エルグランドもけっして悪くはなかったのだが、内外装デザインが一枚上手だったことはもとより、当初からリーズナブルな2.4L直4エンジン車の設定があったことや、後輪駆動によるバランスのよさでは上回っていたものの、いかにも重心の高そうな乗り味が払拭できていなかったことなどが挙げられる。初代エルグランドから買い替える際にアルファードを選んだ人も少なくないと聞く。
その後も年々、販売台数の差は開いていった。エルグランドも途中で小排気量2.5L車を追加したものの、気筒あたりの排気量が小さいV6で低速トルク特性が芳しくなく、重量級の車体に対しては動力性能、燃費性能とも相性がよろしくなかった。
その後、アルファードは2008年にひとあし早くモデルチェンジし、「ヴェルファイア」というさらなる強敵まで加わった。対するエルグランドは、2010年にFF化と低全高および低床化、4気筒の2.5Lエンジン車を設定するなど大変革を図ったのはご存知のとおり。低重心に加えてリアサスがビーム式ではなく独立懸架としたのもライバルに対する優位点であり、そこを評価する向きもあった。
ただし、結果的にはここで自身の価値までも失ったといえなくなく、販売的には当初から伸び悩んだ。高めの車高による目線の高さもまた、こうした大柄な箱型ミニバンにとっては大きな価値のひとつ。また、インテリアの豪華さでは負けていなかったが、テールゲートを開けた部分の荷室の高さがたりず、ゴルフバッグを縦に積めなかったことも販売の足を引っ張った。
途中で改善されるも、一度トヨタに流れた顧客を取り戻すのは難しいのはいうまでもない。
そのほか、先進運転支援系の装備でも日産が先んじている部分が多々あったものの、見た目の押し出しや豪華さや前出の目線の高さなど、クルマとしての本質的な魅力の部分で及んでいなかったのは否めず。さらに相手は2017年のマイナーチェンジで、走りの質感もかなり引き上げてきた。もはやまったくかなう相手ではなくなった。
エルグランドに求められていたのは、まさしく3代目でやめてしまった部分だったといえる。次期モデルがどうなるのかはまだわからないが、市場が何を求めているのかは開発関係者もよくわかったことだろうから、そのあたりも盛り込みつつ、もっとガチンコの戦いを演じてくれるよう期待したいところだ。
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